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 そんな回想をしていた時、バタンと玄関で音がした。

 美海が帰ってきたのだろう。

 足音と共に、「ただいま」という声も聞こえてきた。


「良樹、ただいま。あれ、今日は珍しく飲んでいたの?」


 テーブルの真ん中にドンと乗っかっている一升瓶を見て、俺へと問いてきた。

 俺が一人で飲むのは珍しいからだ。

 俺は酒を飲むと寂しくなってしまうから、あまり一人でお酒は飲まないのだ。


「半年ぶりに書き上げたから、その祝杯にね。それに…。いや、これは別に言わなくてもいいかな。」


 編集者も、作品を送るととても喜んでいた。

 俺の作品は、大人気という訳ではないが、全く売れないわけではない…らしい。

 一冊書いて販売したら、まぁ、利潤が出るくらいには売れるらしい。


 というか、書いていないのに半年生活出来てる時点で、いい方の作家なのだと担当もよく言っている。


「そっか。読んでいい?」


 美海は画面がほんのりと暗くなったパソコンを指差して僕にそう聞いてきた。


「まだ終わってないから…。ごめんな。」


「いや、無理言ってごめん。」


 最近の俺らは謝ってばかりだ。

 彼女は多分、罪悪感から。

 俺は恐怖から。


「そ、それより、久しぶりに飲む?これ、美味しいよ?」


 俺が一升瓶を掲げて見せても、美海は首を左右に振るだけだった。

 俺は空になったコップとにらめっこをして、二人の間にあいた間を埋める。

 手元にある一升瓶は、俺が日本酒が好きだと後書きに書いたのを見て、ファンの方が送ってくれたものだ。調べてみると、3万円程するとても高い日本酒だった。


「今日の仕事、どうだった?最近帰りも遅いし、大変なの?」


 自分の茶碗と味噌汁を入れたお椀を手に自分の席についた美海に聞いてみる。

 最近は帰りが遅くなっていたので、気になっていたのだ。


「そうだね。最近は少し忙しいかな。インフルエンザの人も増えてきてるし。」


 暦上では冬が過ぎようとしていて、それは確かにインフルエンザの流行へのカウントダウンだった。そのカウントダウンダウンがゼロを数えるまで、それ程時間はかからないだろうな。


「そっか。美海は看護師だし、うつされないように気をつけてな。」


 冷めたままの唐揚げをパクリと食らいついた美海は、花が開くように笑みを浮かべた。


「良樹の作るご飯は、いつもながら美味しいね。」

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