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俺はコップになみなみと注がれた日本酒を一息に飲み干す。喉が焼けるような感覚と共に、米の甘みが口の中に広がっていく。
ふと、ノートパソコンの画面を見れば先程まで書いていた言葉が長い文章となって面白くもない物語を奏でていた。
時計を見れば8時を過ぎており、テーブルの上に鎮座した晩御飯達は冷めきっていた。
俺は手前にあった皿の唐揚げを一つ頬張る。
冷めてもなお美味しいと感じるくらいにはいい出来の唐揚げに寂しさを感じる。
何度目だろうか?
俺は携帯画面を見るが、けして連絡など来ていなかった。
俺は一つ息を吐いて、立ち上がる。
目的は冷蔵庫内にある、缶チューハイだ。
立ち上がった瞬間に携帯が音を立てて鳴り始める。妻の好きな一昔前のラブソングが部屋の中に鳴り響いた。
「もしもし?」
「ごめんね、良樹。急患来ちゃって、丁度人いなかったから、今まであがれなかったの。すぐ帰るね。」
電話の相手は赤間 美海。
俺の妻、と言うべきかなんなのかはわからないが、書類上は妻という扱いになると思う。
俺は妻を愛しているが、妻は俺をどう思っているのかは聞いた事がない。
「構わないよ。気をつけて帰って来てな。」
「うん。」
プー、プーと携帯から音が聞こえる。
電話が切れた音だが、それが嫌に寂しく聞こえる。
少し酔っているのかと、俺は眉間の辺りを揉むが、意識ははっきりしているし、滑舌も悪くなってはいない。
状態的に考えても、それ程酔っているわけではない。
しかし、酔っている酔っていないではなく、単純に寂しくなっているのかもしれない。俺とアイツが結婚してから、どれだけの月日がったのだったか。
俺、奥山 良樹と赤間 美海は婚姻関係にあり、別姓ではあるが籍は入っているし、同居もしている。
しかし、俺は美海とキス以上の事はした事がない。
毎週土曜日更新で行こうと思います。
この作品には、決別の思いを込めて。