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9.決心の木曜日

 翌日、木曜日。

 今日は、ヤマブキに返事をする日だ。


 朝、いつものように、夏美と一緒に学校に向かう。

 夏美には、昨日の部活の帰りに、沖田さんたちとの一件については、話してある。夏美は、沖田さんのことを酷いと憤って、真紀のことを、すごいすごい、と何度もほめてくれた。真紀としては、動機が動機だけに、手放しで喜んだわけではないけど、悪い気もしない。


 今日は、佐伯くんと倉本くんが、校門のところで真紀を待っていた。

「伊藤さん、昨日は、ありがとう。健太から聞いたよ」

と、佐伯くん。佐伯くんと、あいさつ以外で話をするのは、廊下でぶつかったとき以来二度目だ。

「うん。こっちも、倉本くんに助けてもらったから」

 今日は、話をしても、キュンとしない。あたしにとっても、佐伯くんは、もうアイドルではなく、一人の同級生になったんだと、実感する。

 校舎に向かって歩きながら、

「なあ、伊藤」

と、今度は倉本くん。

「沖田が、なんか変なこと、言ってきたりしたらさ、オレに言えよ」

「え?」

「逆恨みして、イジメみたいなこと、しないとも限らないからさ」

「あ、うん」

倉本くんが、少し声を落とす。

「沖田のやつ、悠馬にコクって、悠馬、好きな子がいるからって、フッたんだ。それで、若松さんに八つ当たりみたいなことしたんだよ」

「ああ、それで」

そんな気はしてたけどね。

「ちょっとでも、なんかそれっぽいことあったら、すぐにオレに言えよ。オレ、絶対守るから」

真紀は、倉本くんに、にっこりと笑顔を向ける。

「ありがと。すぐに言うね」

真紀の返事に、倉本くんは、満足そうにうなずくと、少し先を歩く佐伯くんに追いついていった。

 夏美が、真紀を見て、ニヤニヤする。

「倉本くん、それ言いたくて、待ってたんだね」

「えっ、うん」

「じゃ、あたしも安心だ。若松さんだけじゃなく、真紀ちゃんまで標的になったらって思うと、やっぱり怖いもん」

 真紀は今、沖田さんのことが、怖いというより、哀れに感じる。フラれたからって、あんなみっともないことして。あーあ、こんなあたしに哀れに思われるなんて、ほんと、可哀想な沖田さん。


 その日は、結局、沖田さんは、真紀に何も言ってこなかったし、何もしてこなかった。むしろ、真紀や若松さんを避けているような、そんなふうにも感じる。

 ときどき、倉本くんと目が合って、ちゃんと見守ってくれているんだな、って実感する。安心でもあるけど、それよりも、その気持ちがうれしい真紀。


 部活が終わって、夏美との帰り道。

「そういえばさ」

と、夏美が何かを思い出したように切り出した。

「倉本くん、小学生のとき、真紀ちゃんに気があったよね」

「え?」

「ほら、真紀ちゃんのこと、い~と~まきまき、っていつもからかってたじゃん」

「それ、おもしろがってただけじゃないの? ひとのこと、からかって」

「小学生って、気があるから、からかうんだよ。真紀ちゃんだって、そんなに嫌がってなかったでしょ」

「そんなことないよ、嫌だったよ」

「そうなの? そんなふうには見えなかったけど」

 嫌だった、はずだけど……

 真紀は、昔に思いを馳せてみる。たしかに、からかわれたことは、いい気はしなかったはずだ。だけど、だからって、倉本くんのことを、嫌なヤツだと思ったりはしなかった。

 そうか! 嫌だったけど、かまってくれたことは、ちょっぴりうれしかったんだ。あのころから、クラスでも目立たない真紀のことを、からかいではあったけど、かまってくれた。だから、嫌な気ばかりではなかったんだ。


 小学生のとき、倉本くんが、真紀に本当に気があったかどうかはわからない。

 ヤマブキが言った、倉本くんが真紀を好きだっていうことも、本当かどうかわからない。

 でも、ひとつわかっているのは、真紀は今、倉本くんのことが好きだっていうこと。人として、倉本くんに魅力を感じているということ。倉本くんのことが好きだって気づいて、その気持ちが、佐伯くんに対して感じていた想い――たぶんアイドルへの憧れのような想いとは、違うものだって気づいた。倉本くんと、もっとちゃんと向き合いたい、そんな想い。


 だから、今日、ヤマブキへの返事は決まっている。


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