4.恋愛成就の説明事項(その2)
「あのう、例えばですけど、すごく人気がある男子を選んだら、どうなりますか? やっぱり、成就する可能性、低くなりますよね?」
ヤマブキ、真紀を見て、ニタニタしている。
「まあ、たしかにそうですな。低くはなります。せやけど、アイドルと結婚したい~いうのとは、まったく違いますからな。なんぼ人気があっても、有名人とは、ライバルの数は、比べものになりまへん。それに、有名人と違て真紀はんの同級生なら、真紀はんとの接点もありますよって」
「でも、可能性低くなるんなら、ヤマブキさんの試験の結果に影響があるんじゃ」
ヤマブキ、今度は優しい笑顔に。
「真紀はんは、優しいお人ですな。今会うたばかりのわてのこと、心配してくれはって」
真紀、また赤くなる。
「いえ、あたし、そんなんじゃ」
「せやけど、心配には及びまへん。わての合格より、自分の気持ちを大事に考えとくなはれ。わてらは、恋愛成就の願いを叶えるのが仕事ですよって。わてに合わせてくれはっては、本末転倒になってしまいます。それに、実際のところ、真紀はんの想いが強うないと、どんなお人とも、成就することは難しくなるんですわ」
「そうなんですか」
「それに、ライバルが多い恋を成就させたら、ボーナス点がつきますよって。例えばですけど、学校一の人気者で、カノジョ有りのお人との恋愛を成就させたら、他の課題はせえへんでも、それだけで、五十点つくこともありますわ」
「えっ? カノジョ有りって。それって、カノジョから横取りするってことですか?」
「まあ、そういうことですな」
いいんだろうか? そんなこと。
真紀の疑問に答えるように、ヤマブキは続ける。
「実際に神社で祈願しはるパターンには、そら、色々ありますからな。横恋慕のようなんも、なんぼでもあります。わてら、倫理的に問題のあるようなもんは、スルーさせてもらいますけど、そうでないもんは、一応受け付けてます」
「そ、そうなんですか」
「あ、今、『酷いっ』て思いましたやろ」
「いえ、あの」
「せやけど、人間同士、相性いうもんもありますからな。新しい出会いのほうが、長い目で見ればお互い幸せになる、いうことも多いもんでっせ。それに、言うときますけど、わてら、汚い手は、一切使いまへんで。まあ、そのへんは企業秘密ですけど、あくまでも、当人さんらの気持ちを尊重してますよって」
「はい」
ヤマブキって、なんか、神さまって言うより、恋愛請負屋さんみたい。
「横恋慕を成就させると、ボーナス点がぎょうさんつきます。真紀はん、安心しなはれ。それだけ、横恋慕の成就は難しい、つまり、わてらの影響なんて、どうてことないカップルが多い、いうことですわ。逆に言うたら、横恋慕が成就してしまうのは、もとのカップルの相性がそれほどでもなかった、いうこともできるんと違いますか」
「そうなのかな」
「どっちにしろ、真紀はんは、関係ないことでっしゃろ」
「は、はい」
佐伯くん、カノジョいないはず。
「えーっと、真紀はんが、色々質問してくれはったよって、だいたい説明は済みましたな。真紀はんは、賢いお人ですな。きちんと、要点を質問しはる」
「え、あたし、そんなんじゃ」
真紀、思わず、机の上の中間テストの成績表に目が行く。ヤマブキは、にこっと微笑む。
「テストの成績だけでは、賢さは、はかれまへんよって」
ヤマブキはさすが神さま、さっきからお世辞がうまい、って真紀は思うけど、そうわかっていても、やっぱりうれしい。
「ありがと、ヤマブキさん」
「いやいや。それでは、三日後、木曜日にまた来ますよって、誰にするか、それとも、この話自体断るか、決めといてくれなはれ」
「はい」
「あ、それと、お願いがひとつ」
「何ですか?」
「わてのことも、今回の話も他言無用でお願いします」
「はい、でも……」
一生、秘密を守れるだろうか。
「心配は無用です。三日後に話が決まったら、真紀はんは、わてのことも、この話もみんな忘れてしまうよって。今日入れて四日間だけ、黙っといてくれたらよろしいんですわ」
「は、はい……」
そうなんだ。今会ったばかりだけど、ヤマブキのこと忘れてしまうなんて、なんか寂しい……
「それじゃ、わてはこれで」
真紀の目の前で、ヤマブキの姿がすーっと薄くなった。と思ったら、また濃くなった。
「ひとつ、言い忘れとりました。真紀はんが選ぶ恋愛成就の相手のことですけどな、倉本健太はんだけは、除いといてくれますか。健太はんは、真紀はんのことが好きですさかい、祈願なんかせえへんでも、恋愛成就してしまうんですわ。それでは、試験になりませんよって。ほな、そういうことで」
それだけ言うと、今度こそ、ヤマブキの姿は、すーっと消えていった。
「は、はい」
真紀は、ポカンとして、誰もいなくなった空間に向かって返事した。
数秒後。
「えーっ、く、倉本くんがあたしのこと好き!? えっ、今、そう言った? そう言ったの?」
もう、確かめようがない。