2.神さま、参上
い、いったい何なの!
真紀は、どこからともなく突然現れたその人物を、口をあんぐりとあけたまま、まじまじと見つめた。
その人は、そんな真紀を相変わらずニコニコと見ている。お互いに見つめあう格好になったけど、真紀は、そんなこと気にする余裕はない。
この人の格好、どこかで見たことがある。えーっと、そう! 昔絵本で見た『いなばのしろうさぎ』に出てくる、オオクニヌシノミコト。あの格好に似ている。だけど、色は白じゃなくて、山吹色で、おかっぱの頭には同じ色の頭巾をかぶっている。おじいちゃんが、還暦のお祝いのときにかぶっていた、まるっこい頭巾の、山吹色のもの。
歳はいくつぐらいだろう。身長が低いせいで若く見えるのか、十代だと言ってもおかしくはないけど、四十手前のおじさんです、と言ってもうなずける。つまり、年齢不詳。
つぶらな瞳に、丸っこい鼻。ニコニコと、人のよさそうな丸顔を真紀に向けている様子は、不法侵入をされているにもかかわらず、怪しさを感じさせない、なんとも不思議な雰囲気。
いったい、このおかしな人はだれ?
「あ、あの、どなたですか?」
「すんまへん、驚かせてしまいましたな。わては、ヤマブキ、いいます。神でんねん」
「あー、それで、山吹色……って、今、カミって言った? カミって、もしかして、か、神さまア!?」
真紀のあわてふためく様子に、ニコニコとうなずくヤマブキ。
「いかにも。人間さんは、みな、『神さま』言うて、崇めてくれはりますな」
自分は神だと名乗る者ほど、うさんくさい者はない。だけど、神さまかどうかはおいておくにしても、真紀には、ヤマブキが怪しい者には見えなかった。
それに、その関西弁。関西出身の芸人さんが、テレビ番組で関西弁で話すのをよく聞いているけれど、生で聞くのは初めてだ。なんか……おもしろい。
「今日はちょっと、真紀はんに用がありますねん」
「な、何ですか?」
「わてな、今、恋愛成就の資格試験を受けてましてな」
レンアイジョウジュのシカクシケン!?
「恋愛成就を取り扱うには、試験に合格せなあきまへん。そのための、資格試験ですわ」
「はあ」
何を言っているのかよくわからないが、とりあえず相槌を打つ。
「それで、その試験の課題が真紀はんでんねん」
「……?」
「真紀はんに、恋を成就させたい相手がいてはったら、成就させる。それが、試験の課題いうことですわ」
「はあ」
わかったような、わからないような。
「なんで、あたし?」
「それは、わてにもわかりまへん。試験官が決めはったことですから」
この人、いや、神さまか、の言っていることは、本当だろうか。話自体は、思いっきり怪しいけど、人とは違う摩訶不思議な存在が、現に、真紀の目の前にいる。だとすれば、その話も、信じていいのかな。