エピローグ
ここは、関西地方のとある神社。
その一角で、四方山話をしているふたりの神さま。神社を訪れる参拝客には、姿も見えないし、声も聞こえない。
「ほう、ヤマブキはんが恋愛成就を」
「そうですねん。中学生の男の子でしたけどな」
「ほう」
「家族旅行でこっちに来はったときに、うちにお参りしはったんですわ」
「そうですか」
「明るうて元気なお人ですけど、恋愛のこととなると、ちと尻込みしてしまうお人で」
「なんでまた」
「えらいモテモテのご友人がいてはるんですわ。それで、どうしても自分と比べてしまうんでしょうな。自信を失くしてはったんと違いますか」
「それでも、上手いこといきはったんですな」
「はい」
「それで、どないして成就させはりました?」
ヤマブキは、真紀に会って、恋愛成就の資格試験の話をしたことを、かいつまんで話す。
「ほう、そら、おもろいこと、考えはりましたな。せやけど、わてら、資格なんていりまへんがな。うそ八百でんな」
「資格試験や言うたら、真剣に聞いてくれはりますさかい、これも、方便ですわ。まあ、シャレもありますけどな」
ヤマブキは、ぺろっと舌を出す。ヤマブキは、おもしろがって、資格試験の設定を事細かに考えたのだ。
「せやけど、結局、わては真紀はんに、健太はんは真紀はんのことが好きや、て正直に伝えただけですわ。あとは成り行き。上手いこと進みましたさかい」
「そら、よほどいい相性やったんでしょうな」
「そういうことですわ。素直で優しいおふたりでしたさかい」
「それにしても、ヤマブキはん」
もう一方の神さまが、ヤマブキをまじまじと見る。
「あんさんとこ、商売繁盛の神社でっしゃろ。恋愛成就の祈願なんて、ほうっておいてもよろしかったのに」
ヤマブキは、ちょっとニタッとする。
「そうですけどな。これからの時代、神社も手広くやっていかなあきまへんで」
「なるほど」
「今はインターネットいうもんがありますさかい、御利益があるいうのは、パーッと世間に広がるんですわ」
「さすが、ヤマブキはんは商売上手でんな」
それからヤマブキは、フッと息を吐く。
「まあ、こない言うてますけどな、結局のところ、恋愛成就は、やってみると楽しいもんなんですわ」
「ほう」
「心があったこうなるいうか、こっちまで、幸せな気分になるいうか。あんさんも、いっぺんやってみはったらよろし」
「そうですな。交通安全なんて、叶って当たり前みたいなとこありますからな。恋愛成就でもして、幸せのおすそわけ、いただくのもよろしいかもしれませんな」
「そうでっせ」
ヤマブキは、真紀と健太の顔を思い浮かべて、にっこりする。
「ほんま、恋愛成就はいいもんでっせ」
お読みいただきありがとうございました。
ヤマブキのイラストは、作者の依頼により、M様に描いていただいたものです。