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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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98/99

91:寒村の防衛に、ダンジョンマスターは思いめぐらす

『足止め系は機能するな』

生気吸収ドレイン系は全くダメね』

『槍衾は刺さってるのにダメージがない』

『ほんと、あいつらって、一体何なの?』


 いつの間にか、検証大会が始まっていた。

 その結果、足止めはできるが、罠ではダメージを与えられないという認識で一致する。地面から生えてきた、無数の槍が刺さろうが、紫オーラを纏った死神の鎌で切られようが、奴らは粘菌のような、スライムのような特性を発揮してぬるりとすり抜けてくるのだ。

 そして、すり抜けた先で、今度は四足獣のような形態に変化して、駆けだしてくるから始末に悪い。


 かと思えば。

「あ、チェリ、一番手前の落とし穴から抜けてきたやつを頼む」

「はーい。いっくよー!」

 槍衾より小さな運動エネルギーであるはずの矢が、相変わらず一撃必殺の威力を誇る。

 矢が刺さった部分が穴が開くように抉れ、その穴に吸い込まれるというか、裏返るようにして、この世界から消えていくのだ。


『あの挙動、キモいわ』

『同感』

『断末魔の叫びとか、あるの?』

 サツキと共有しているのはイビル・アイ視点なので音声は届けられない。


『スライムが高速でブルブルしたらこんな音かなって感じの、濁った振動音的な何かが』

『ますますキモい』


「あっ! あっちも抜けてる。いっけ〜!」

 鹿のような何かに変態し、駆け出しかけていたイロナシの背に、ストン、と矢が吸い込まれ、ブブブとかビビビとか苦しげに振動して、そして裏返って消える。


『威力もそうだけど、この距離でしっかり当てられることも驚きよね。彼女の外観が《エルフ》なことに関係してるのかしら?』

『でも、お――、い、言われてみれば…』

『なにか言いかけた?』

 でも、おっぱい大きいよ、と、迂闊に念じそうになったので慌ててチェリに聞いてみる。


「チェリ、すごいぞ! 弓が得意だったんだな」

「う~ん? 私、弓は使ったことがないよ。…でも、なんていうのかな? とっても体が綺麗に動くの」

「――なるほど。もしかしたらチェリは、弓の魔技アーツを持ってるのかもな」

 彼女の言葉に改めて思い返すのは、ダンジョンマスターがユニットに憑依し、魔技アーツを使う際の感覚だ。


「えへへ、だったらいいなぁ――。あっ、あっちにもっ!」

 どちらかといえば鈍臭い方のチェリだが、確かに彼女が言うように、弓引く動作は淀みなく美しい。


『うーむ。今度から防具は胸当てがあるタイプがいいかな…』

『おにぃ、それ、どこ見て考えたの?』

 思わず念じてしまった思考に、サツキがしっかりと反応する。


『弦が当たると痛い、と、何かで知った記憶がある』

 今のチェリはローブ系の装備ゆえ、静と動の間で、たゆんたゆんと躍動している。何が、とまでは言うまいが。


『…もう。大きさに貴賤はないんだからね』

『全面的に同意するけど、それ、野郎のセリフでは?』

『うっさい。ほら、チェリはいいからあっちもちゃんと見る!』


 あっち、というのは前衛組である。

 エルローネをアタッカーとした3人組に、護衛の黑砦シリーズたちだ。

『こっちも安定の一言だな』

『女王様のおかげね』


 そう、女王様である。 


「エル! 1体流すぞ!」

「はいっ!」

 パシィンッ!!


「こっちのトドメも頼む!」

「お任せくださいっ!」

 ペシィンッ!!


『華麗なる鞭さばき』

『コール・ミー・クイーン、ね』


 昨夜と同様に、彼女にはショートソードを支給しようと思っていのだが、耳元で『鞭がいいのですが』と、潤んだ瞳で囁かれ、思わずロベルトをガン見してしまった。

 ロベルトは首をブンブン振っていたが、なるほど、これもチェリ同様、勝手に体が動く系かもしれない。


『いつもの《娼館で習った》ってやつかしら? でもこれ、そんな、習ったレベルの動きじゃないわよ?』

『前に使った際に、ものすごく手に馴染んで、その感覚を覚えていたとか?』

 もしかするとエルローネお姉様は、夜の街限定の、真の女王様だったのかもしれない。

『ありえそうね…』


 実に生き生きとした表情で鞭を振るっているので、要らぬ方に想像が膨らむ。

『ケモミミだから獣使いで、鞭に補正がかかる、とかかしら?』

『――もしそうだったら、何か作為を感じるよな』


 エルフなチェリが弓を得意とし、モフモフのエルローネが鞭を得意とする。もしかしたら、鱗持ちのカミューも、剣以外の適性を持っている可能性がある。


『しかし、ユニット攻撃が効かないってのは完全に予想外だな』

『罠と一緒ね。斬れはするのにね。ダメージがないみたい』

 黒砦シリーズだが、斬ろうが叩こうが、イロナシたちにはダメージがないことが分かった。そのため、常にダンジョンチーム側が多対一になれるよう安全管理に回ってもらっている。


『なんとなくだが、クロベニだったら行ける気がするんだが…』

 ロベルトも、ヴォルドガングも、威力こそ違えど、確実にイロナシたちにダメージを蓄積させることができている。

『駄目よ。今はこっちが圧倒的に優勢だから、ベニはステイよ。おにぃ達の護りが薄くなる』

「はい、御館様、この群衆です。不届き者がいないとも限りません。クロベニは御館様方のお護りにに徹したいと思います」


 彼女のベースはユニットである。タツキとサツキのやり取りが聞こえているのだろうか、クロベニは即座に反応を示した。


「…私たちはこのように、皆様の安全を保証します。故郷のミアズナに住みながら…、衣食住に加え、安全も手に入るのです。…いかがですか? ダンジョン・タウンの住人になりませんか?」


 群集とは、参謀ウォルフの提案である。

 彼は、望む村人たち全員を城壁の上にあげ、この戦いを見守ることを許したのだ。


 彼らの合意が取れれば、タツキは《悪食の床スカベンジャー》を解放し、ここミアズナを完全なるダンジョン空間とする。

 防衛戦は、新たな局面を迎えたのだ。


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