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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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89:ついに、ダンジョンマスターは村人たちの勧誘に動く

「俺…、ステーキ焼く魔技まぎが生えてくるかもしらん」

「と~ってもおいしぃですっ! サツキちゃんのお料理みたいですっ!」

『ふふん、私が監修してるから当然よね』


 村人たちはもとより、なぜかチェリやクロベニを筆頭に、ダンジョン・タウンメンバーも並び始めた《ダンジョンマスターのステーキコーナー》。しかも、リピーター続出で列がループしている。

「すまん、坊っちゃん、恥を忍んでもう1枚!」

「はいはい、お腹壊さない程度に頼みますよ、ウルチさん」


 そして、チェリが丁寧に村人たちの名を呼んでいくものだから、タツキまで、リピーターの名前を憶えてしまった。


「くそぉ、俺も煮込み食べたかったな」

 一方で、欠食村民たちの食欲を過小評価していたらしく、大鍋に5杯分ほど持ってきた煮込みがあっという間に消費され、今やステーキ用の肉在庫も風前の灯火。肉熟成担当のレイスもどこか寂しそうである。


『また作ってあげるわよ。おにぃがボアを呼んで、クロベニに捌いてもらえば材料はいくらでも手に入るでしょ?』

「え? クロベニって、ボア、捌けるの?」

「もぐ? もひろんでふ、おまかへくはふぁい」

 全力でステーキをほおばっていた彼女が即答する。


「ならいいか。でもまぁ、大鍋5杯でこの景色が得られたのなら安いもんだよな」

「ほんとですね」


 この寒村には、意外にたくさんの人が住んでいたのだ。

 そう思える程度にはにぎやかになったミアズナの入り口前の草原。


 酒精でほんのりと頬を染め、お腹いっぱいでひっくり返る大人と、

「ねーねー、あしたもお肉食べられる?」

タツキの服の裾を引っ張る女の子や、

「おねぇちゃんのしっぽ、気持ちよくていい匂い」

「あらあら、くすぐったいので、優しく触ってくださいね」

エルローネのモフモフの虜になる、将来に一抹の不安を覚える男の子。


「チェリ姉ちゃん、村では助けてあげられなくてごめんね」

「そんなことないよ。アツマ君はたくさん私とお話ししてくれたから、お姉ちゃん、とってもとっても助けられてたよ」

 そして、かつての村人だったチェリと心を交わしてゆく子どもたち。


 頃合いかな。とタツキは次なる行動に出る。

「と、言うわけで皆さん、こんな感じの毎日を保証しますので、ダンジョン・タウンの住人になりませんか?」

 住人勧誘活動だ。

 ダンジョンマスターには、悲願の住人増を達成させる義務がある。

 と、いうのも、衣食住が足りて、礼節を知った元盗賊団たち(野郎比率多め)は、新たな出会いを求めつつあるのだ。主にあぶれてしまった野郎どもが。


 ワナジーマ地下の人々も、タツキダンジョンの住人ではあるのだが、いかんせんダンジョン・タウンから距離が遠く、乗り物を使ったとしても気軽に交流というわけにはいかない。一方、ここミアズナなら、ダンジョンタウンから、フライングマウントで湖上を飛べば5分だ。徒歩でも30分足らずで到着可能だが、どうせなら《飛行生物定期便》なんかを運用するのも楽しいかもしれない。


「正直、あんたのところの住人になりたい。毎日がこうなら最高だと思う。だが、ミアズナは俺が生まれ育った村だ。そう簡単には離れられんよ」

「えー、お肉食べたい」

「でも、洞窟で暮らすのはちょっと…」

「美味い酒と腹いっぱいの肉があるなら、俺は洞窟でもいいかな…?」


 うんうん、そうだねぇ、とチェリがみんなの声を聞いてゆく。

「じゃあ、みんな、ここミアズナにいたまま、美味しいご飯が毎日食べられて、新しいお洋服が着られて、毎日お風呂に入れたら、どうする?」

「チェリ姉ちゃん、お風呂って何?」

「あったか~いお湯につかって、あ”~、っていうの」

 チェリ、その説明はおっさんだ…。


「そしてぶくぶく泡の立つ石鹸で体を洗って、毎日さっぱりいい匂いで、ほこほこ暖かく眠れるんだよ」

 その説明に、子どもたちがとてとてとチェリに歩み寄り、ぴったりとくっつく。

「…ほんとだ、お姉ちゃん、いい匂いがする」

 あ、ちょ、こら、アツマ少年、チェリに抱き着くんじゃないっ。それは俺のだ! 

「お屋形様? さっきから変な顔をされて、お腹でも痛いのですか?」


「それは本当か?」

 チェリの言葉に村人たちが色めき立つ。

「本当に、ここに居ながら、そんな生活ができるのか?」

「ミアズナにいてもいいのなら…」

「でも、相手はマオウの手先だぞ」

「いや、あいつら見てみろよ」

 そのようなやり取りを経て、腹も満ちて、少し冷静になった村人たちは、改めてダンジョンチーム一行を観察し始める。


「みんな貴族様みたいにきれいにしてる」

「シルヴィスの助祭様までいるぞ!?」

「穢れのお姉ちゃんたちも、みんな優しい」

「村長様の方がマオウの手先よっ!」

 タツキには、少しずつ、村人たちから漏れ出るエーテルが、不安から、期待の方に傾いていくのが感じられる。


「あなたたち、穢れに近づくとは何事ですかっ!! 奴らが来ますっ! その者たちは捨て置いて、早く集会場に避難しなさいっ!!」

と、その時、2つの出来事が同時に起きた。

 聖職者のような恰好をした男が、突如として怒鳴り込んできたのだ。


 さらに、

「お、おいっ! 空だっ! また彼奴等が来るぞっ!!」

晴天が、水中からそれを覗いたかのように波打ち始め、

「うわぁ…、やべー景色だな。水が滲んで、滴り落ちてくるみてーだ」

「これが…次元侵略スタンピードの始まり…」

そこからボトボトと油膜に包まれたような粘体が落下してくる。


「に、逃げるぞ!?」

「ああ、あんたたちも一緒に!」

「神父様は捨て置けと…」


 霧散した柔らかな空気。

「あ~、そうそう、俺、衣食住を保証するって言ったけど、《衣》と《食》しか証明してなかったよね」

「お兄ちゃん?」

「あんた、こんな時に何言ってるんだっ!?」


 それを惜しむように、タツキはのんびりと宣言する。

「《住》を今から見せてあげようではないか!」

 エーテルがタツキに集まる。

 さりげなく、ロベルトとクロベニがタツキを守るような位置に動き、


「みんな~、ちょっとだけ揺れるよっ! 転ばないように踏ん張ってねっ!」

 そして、阿吽の呼吸でチェリが村人たちに注意を呼び掛けるのだった。


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