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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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95/100

88:ただひたすらに、ダンジョンマスターは肉を焼く

 鍋から湧き上がる煮込みのにおい。温め直したサツキの料理と、新たに焼き始めたボアの肉から立ち昇る、油の焼ける暴力的な香り。


 それらを、シルフが魔技アーツ風の御使いフールフール》にて、村の隅々にまで届けていく。

『ほら、怖くないよ~。こっち来たら美味しいご飯があるよ~』

『おいしいお肉がたくさんあるよ~』

『お腹いっぱい食べられるよ~』


 ついでに、メッセージも乗せられるとのことで、次期村長候補(?)のチェリにそれを担当してもらったのだが、そこはかとなく漂うこれじゃない感。

「チェリ様、それは子どもや動物を手名付けるやつですね」

 その違和感を、エルローネがぴたりと言い当て、

「大人も大勢いらっしゃるのですから、こうですよ」

と、自信満々に、

『1人一杯までですが、お酒もふるまいますよ~』

同レベルのメッセージが風に運ばれていく。


「あーあ」

 と、楽しそうに笑うタツキ。

「田舎村ですからねぇ。みんな坊っちゃん達のように、学のある奴らばかりじゃねぇ。この呼びかけでちょうどいいと思いますぜ」


「何があったんだっ!? 救援が来たのか!?」

「違うって言ってるだろ! ダンジョンマスターだっ!」

「私たち、おいしく食べられてしまうの?」

「だから違うって! ダンジョンマスターが飯食わせてくれるんだよっ!」

「ダンジョンマスターが?」

「にわかに信じられねぇ」

「でも、このおいしそうな匂い…」


 さすがに村人全員というわけではないだろうが、手に手に木製の皿をもって、ダンジョンマスターという、彼らの世界における畏怖の象徴に対峙することを決意できた者たちが、《恐怖》と《困惑》の感情を纏って集まってくる。


「は~い、順番に一列に並んでくださいね~」

「お、お前は、家畜小屋のっ!」

「お盆を受け取ったら、1品ずつ持って行ってくださいね」

「こっちは獣の穢れ!?」

「煮込みとボア肉は食べきれないくらいあるから、そんながっつかなくてもいいぞ~」

「だだだだ、ダンジョンマスター!?」


 タツキはあえて給仕担当を、自身を含む《異形》の3人とした。

 ここに至って拒絶する奴はもう知らん、というわけだ。


 もちろん保険として、ロベルトとクロベニが安全管理に目を光らせているし、先に飯を受け取った門番たちが美味そうに食事する様子も、彼らの視界に入るようにしてある。


「ああああ、アンデッドモンスター!?」

「えっと、…あれは肉の熟成担当だから気にしなくていい」

 若干、余計なのも混じっていたりするが。


「おい、どうするよ」

「俺は行くぞ! あんなうまそうな料理を前に引き返せるかっ!」

 村人たちを呼びに行った、入り口を守っていた男がチェリからお盆を受け取ると、

「その、なんだ…。感謝する」

ぼそりと礼の言葉を述べて、料理を受け取っていく。

「どういたしまして。カナイさん」


「あの…」

「はい、どうぞジィコさん」

「あんた、どうして、私たちの名前を」

「皆さんと仲良くなりたかったから、覚えました」

 並んだ村人1人1人の名前を呼びながら、笑顔で皿に煮込みを注いでいくチェリ。


「さ、よろしかったら、一杯だけですがお酒もどうぞ」

「ああ…。よく見れば、あんたも別嬪さんだな…」


 慈愛溢れるチェリと、フードを脱いで、ケモミミをあらわにしながら、気品あふれる所作で酒を注ぐエルローネ。


「ほら、焼きたては美味いぞ。皿ごと持っていくといい」

『おにぃ、今よ! 手早くひっくり返して次の肉を投入!』

 そして、遠隔でサツキの監修を受けながら、ひたすら肉を焼くマシーンとなるタツキ。


「え? ええと、あれはですね。肉の熟成担当、その…、料理人のようなものですのでお気になさらず。マジックバック内って、時間が進んでないみたくて、いつまでたっても狩りたてほやほやなんですよ。困りますよねー、あはははは…」

「あっ、はい」


 そして、喜び勇んで肉を受け取った村人の視線は、決まって、調理台の上に置かれた大きなボアの肉塊を前に、うにゃうにゃと枯れ果てた両手を動かし、紫色っぽいエネルギーを吸収しているレイスに釘づけになるので、乾いた声で説明してやる。


『あの、サツキさん…』

 毎回これをやるのはつらいので、恐る恐る囁いてみるが。

『熟成工程を省くのはダメよ。そんなことより、おにぃ、手が止まってる。下味付けて、焼いて焼いて、ほら、それはひっくり返す!』

『えっ? は、はいっ!』

『よそ見してないで、しっかりと肉の声を聞くのよっ!』

『はいぃぃぃ!』


 遠隔でビシビシと指導を受けながら、ひたすら肉をひっくり返しながら、俺、この集団の責任者だよな? 一番偉い立場だよな? と、毎度似たような疑問で首をかしげるタツキであった。


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