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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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87:隣村住民を、ダンジョンマスターは誑かす

「ミアズナの村民たちよ、覚悟しろ。このイイモノのダンジョンマスターが、君たちの衣食住、完璧に面倒見てやろうじゃないかっ!」


「しゃべった!? ダンジョンマスターが人の言葉を話したぞ!?」

「そりゃそうだ。俺はただのダンジョンマスターじゃない。イイモノのダンジョンマスターだからな」

「イイモノ? どういうことだっ!? 俺たちは騙されないぞ!!」

 しかし、村人との間に横たわるのは、当然ながら猜疑による断絶だ。


 ゆえにタツキはにやりと笑う。

「ほー。果たして、これらを見てもそう言えるかな?」


 タツキ足下の草原。

 ダンジョンマスターは、ダンジョンコアと接続している必要があるため、そこは、常にタイル1つ分だけはダンジョンパーツである。


 タツキはそれを少し拡大し、

「た、宝箱が生えてきた!?」

 草原からにょきにょきと、2つの宝箱をクリエイトする。


「ふっふっふ」

「ダンナ、顔、顔。それは悪役の顔だぜ?」


 タツキは、ロベルトも苦笑いする、とても悪い顔をして、その1つを開ける。

「まずは衣だな。君たちの服はボロボロじゃないか。俺を受け入れてくれれば、清潔な衣類が毎日着替え放題だぞ」


 出てきたのは、ダンジョンタウンの集合住宅や公衆浴場に定期的にポップする、貫頭衣をはじめとする最も基本的な衣類一式。


「それから、仕事も戦いも、そんな装備で大丈夫なのか?」

 次いで、2つ目の宝箱を開けると、ピカピカの農具に剣や盾、弓が入っているではないか。


「そして食だ――」


「お、お屋形様、ご尊顔が!」

 その悪役面にはらはらしながらクロベニが呟くも、

「背伸びして悪い子ぶって、タツキ様、可愛いなぁ」

「御台所様…」

ニマニマするチェリに、なるほどこれが夫婦めおとというものか、と納得する。


「ま、まだあるのか!?」

 心揺らいで戦慄する村民たちの前に、タツキがポケットから取り出したのはマジックボックスだ。

 すごくいい笑顔で、それを男たちに見せつける。


「君たち、顔色が悪いなぁ。きっと碌なもの食ってないんだろ?」

 彼は鼻歌を歌いながら、周囲に灼熱床トラップを内蔵したダンジョンマスター特製の過熱台を構築していく。なんか最近、こればっかり作っているような気がしないでもなく、もう、手の感覚で作れてしまうくらいに熟達してしまった。


「あら、そういえば私たちも、朝ご飯、まだでしたね」

「私、お肉がいいですっ!」

 今までの悲痛なお顔はどこへやら、満面の笑みでチェリが注文する。

「おう、チェリのそういうところ大好きだ」

「ふえぇぇ!?」


 そのやり取りに、ヴォルドガングが、がははと笑い、ダンジョンチームに笑いが伝播していく。

「ほら、君達も、仲間誘って食べに来いよ。大半は昨日の宴会の残りを温め直すだけだけど、うちのシェフは腕がいいからな、きっとうまいぞ」


 《常識》対《食欲》。

「うああ、肉だ、おい、肉だよ」

「ものすごくいい匂いがする!」

 あるいは、彼らの世界観の根源を成す、穢れやダンジョンマスターは悪であるという《概念》対《食欲》。


 熟達の僧でもなければ、抗うことができない、3大欲求の一つを熱烈にを刺激する匂いの暴力。


「さらにここで、すごいの出します!」

 どーん、とマジックボックスから取り出されたのは大きな鍋だ。


「なんと、煮込みです! 凄腕シェフ・サツキが昨日から煮込み続け、朝ご飯用に持たせてくれた、極上の肉煮込みです! ボアの旨味が凝縮した、しかし、スープは透明で臭みのない究極の一品だぁ!」

『おにぃ、むずがゆいからやめて』

 サツキの遠隔ツッコミは無視し、鍋にたっぷり入ったそれを、がん、と加熱台において、がぱっとふたを開ける。

 マジックボックス内で熱をも保っていたその鍋からは、優しくも空腹を強烈に刺激する、深い滋養のにおいが漂ってくる。


「は、腹がきゅうきゅう泣きやがるっ!?」

「お、おお、俺達も食べていいのか?」

「おい、お前、しっかりしろ、相手はダンジョンマスターだぞ!!」


 後ひと押し。

「えーっと、少しだけならお酒も出すよーっ!!」

「本当ですかっ!!」

 と叫ぶのはもちろんエルローネ。


「さぁシルフ、このおいしそうな匂いと、楽しそうな雰囲気を、村の隅々にまで運んでくれるか?」

 そして最後の最後に、ダンジョンマスターらしく、ユニットを呼び出す。 

 >ユニット≫神族≫種≫シフル_ユニットランクB


「か…、風の御使い様…!?」

「あはは、お兄さん、変な顔してないで食べに行こっ、最高の朝ごはんだよっ!」

 ウォルフがスケルトンな瞳を見開いて、何かつぶやいたのを、上機嫌なルートが上書きしてしまう。


「も、ももも、もう駄目だっ!」

「穢れても構わん、俺は食うっ!!」

「村の奴らも呼んでくる。頼む、ダンジョンマスター、食い物残しておいてくれよっ!!」


 後に村人は、この出来事を述懐してこう述べたという。

 あの時の坊ちゃんは、どんな悪魔より悪魔だった、と。


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