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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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93/99

86:隣村に、ダンジョンマスターは突入する

「あわわわわ、こ、こ今度は、ダダダ、ダンジョンマスターが攻めてきた〜!! この村はもうお終え〜だぁ!!」


***


 簡単な調査の結果。

 ミアズナは想像通りの寒村ではなく、それなりに発展の芽がありながら、しかし、ダメ村長のせいで寒村とならざるをえなかった村、ということが判明した。

 つまりはそれなりの潜在能力を持つ村、であるのだ。


『ここは、欲しいな』

『欲しいって、もう、おにぃのダンジョン床の上にあるじゃない』

『上にあるってだけだから、支配下にはない』

『変なところで真面目ねぇ』


 もう少し正確に表現するならば、ミアズナに対して、タツキはまだ《悪食の床スカベンジャー》を起動していない。


 これを起動すると、定期的に村民の不要物が消滅してしまうためだ。

 ワナジーマの場合は、地中にゼロからダンジョン空間を構築したので『ここ場所では、このような現象が起きるから気を付けよう』で、済んだが、すでに構築済の生活圏で、広域に《悪食の床スカベンジャー》を起動した際、何がエーテルになってしまうのか、タツキも全く分からないのだ。

 さすがに空き家やなんかがきれいさっぱり消えてしまっては、景観が変わり、住人達も違和感に気づくだろう。


 それゆえ、現時点でミアズナは、ダンジョンマスターの《税》ともいえるエーテルの徴収がなされていない状態、すなわち仮の領地なのである。


「ちなみに、次に商隊がやってくるのはいつくらいなんだ?」

「ワナジーマには今、復興需要があるから、商隊は毎月来ているそうだぜ」

「なるほど」

 とタツキは考える。


 ダンジョンタウンに居残りを命じられた2人組が、助けを求めにやって来たのは昨日である。それまでも散発的な襲撃があったのかもしれないが、ワナジーマ行きの商隊は、まだイロナシ襲撃スタンピードの事実は掴んではいまい。


 問題は逃げた村長か。

 己の失態を声高に宣伝することはないと思うが、己の失態を声高に「イロナシやダンジョンマスターのせい」にしてしまう可能性は否定できない。


 と、なれば。

「商隊が来るまでに、この状況スタンピードを解決し、村長関係者が来る前に、村人たちに俺たちの有用性を明確に示す必要があるな」

 2段構えに締め切りを設定すべし。


「よーし、2人のおかげでおおよその状況は分かったし、責任者も不在ってことだから、もう、正面突破しよっか。いつ、イロナシどもが攻めてくるかもわからないしね。――ロベルト」

「どうした、ダンナ?」

「今、村をまとめている奴は誰かわかるか?」

「ああ、神父のような奴が、集会場にいたぜ? まとめ役かどうかまでは分かんねーが」


***


「あわわわわ、こ、こ今度は、ダダダ、ダンジョンマスターが攻めてきた〜!! この村はもうお終え〜だぁ!!」

「あの男どもも、マオウの手下だったのかぁ!?」

 そして、みんなでぞろぞろと正面突破した結果、当たり前だが冒頭の状況に至る。

 イロナシ襲撃に備えて、鍬やら斧やら漁師の銛やらで武装した村の男たちに、予定調和の熱烈な歓迎を受けたのだ。


「お屋形様、2、3人切り捨てましょうか?」

「捨てんでいい、捨でんで」


 想定どおりの状況にタツキは苦笑するも、

「ああーっ! お前は家畜小屋のっ!! お前が、お前がダンジョンマスターを連れてきたのかっ!? この裏切り者がっ! 村で養ってやった恩を忘れたかっ!!」


「あ”?」

チェリを指さしてのこのセリフに、こめかみ付近に青筋さんがこんにちわする。

「た、タツキ様――」

 慌ててチェリがタツキをかばうように、押し留めるように前に出ると、にわかに村人たちの雰囲気が変わるではないか。


「――お、おい、こ、この状況!」

 それを見た村人の1人が、ガタガタ震えながら、タツキのとチェリの双方を指さす。

「ああああっ!! ダンジョンマスターと穢れがそろったっ!? 神父様の言ったとおりになったぞっ!!」

 ん? と、タツキは、青筋は維持しながらも首をかしげる。


 そこにあるのはいくつかの違和感だ。

 この村人たちの《恐れ》は、ダンジョンマスターであるタツキを認知した時よりも、穢れとされるチェリを認知した時よりも、タツキとチェリが、ダンジョンマスターと生贄の少女がともに在ることに対して、強烈に発散されている。

 そして、神父様?


 その疑問を、思考が追う前に、チェリが村人たちに物申す。

「タツキ様をいじめないでっ! タツキ様は、イイモノの――」

 大勢の、粗末とはいえ武装した男たちだ。

 しかも、かつては自分を虐げていたであろう彼らの前に、再び立ち向かうことのできるこの娘の《勇気》は、いったいどこから出てくるのだろう。


「黙れ、この化け物めっ! 貴様がいたから、この村は呪われたんだ! 貴様のせいで、化け物どもが湧いて出たんだっ! 村長様からもらった食い物、全部、貴様の口に入ったんだろうがっ! 恩知らずの、災いの種めっ!!」

 そんなチェリを、男は、恐れと怒りに顔を真っ赤にして、口汚く罵倒する。


「た、タツキ様、どうか、どうか落ち着いてください……」

 チェリはタツキに背を向け、彼を守るように腕を広げている。

 まるでこの村の者たちの責任を、自らが背負う必要があるとでもいうかのように。


「穢れ女とダンジョンマスターが結託したんだっ! こいつらを生かしておいたら、みんな殺されるぞっ!」

「男どもを呼んで来いっ! あっちで戦えそうなやつは2人だけだ。村を守るぞっ!!」

 村の男たちは、鍬や銛をかまえ、村と草原との境界である、粗末な木柵の後ろで徹底抗戦の構えを見せる。


「タツキ様、ごめんなさい、私のせいで」

 取り付く島もない村人たちの態度に、チェリの背中は小さくなり、その特徴的な耳もしおれてしまっている。

「なんか、チェリのほうがずっと村長っぽいよな」

「ふぇ?」


 そんな彼女の髪をわしゃわしゃと撫でて、タツキは心に浮かんだままを呟く。

「この村が俺の支配下に入ったら、チェリに村長を任せてみよっかな」

「えええっ?」

 チェリは重く纏っていた悲しみの感情も吹き飛ばして、ブラウンの瞳を真ん丸にして振り返る。


「ダンナ、そいつはいい案だな」

「ろ、ロベルトおじさままでっ!?」

 かつての――もしかすると今でも――忠誠対象であるチェリが罵倒される様に、かなりの《怒り》を内包していたロベルトが一転して破顔する。ただ、完全ににっこり、でないのは、おじさま呼ばわりされたからだろうか。


「ここが避暑地崩れの直轄地なら、村長はどこかの貴族の末かなんかだ。年齢的にも、チェリ様の復帰訓練にはちょうどいいんじゃねーか?」

「それは名案ですね。ぜひ、復帰して頂きたいです」

 彼女の出自を知るロベルトが、あながち冗談にも思えない声音でそういうと、フードとローブで《穢れ》の特徴を隠しているエルローネが同意する。


「いいね、ミアズナ。ますます欲しくなった」

 背景がわからず、首をかしげるヴォルドガングとウォルフにルート。そして難しい事には首を突っ込みません、なクロベニ。

 さっきまでの勇気と決意はどこへやら、おめめをぐるぐる回して「あわわわ」とのたまうチェリ。


 そんな彼らと村人ににタツキは宣言する。

「ミアズナの村民たちよ、覚悟しろ。このイイモノのダンジョンマスターが、君たちの衣食住、完璧に面倒見てやろうじゃないかっ!」


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