86:隣村に、ダンジョンマスターは突入する
「あわわわわ、こ、こ今度は、ダダダ、ダンジョンマスターが攻めてきた〜!! この村はもうお終え〜だぁ!!」
***
簡単な調査の結果。
ミアズナは想像通りの寒村ではなく、それなりに発展の芽がありながら、しかし、ダメ村長のせいで寒村とならざるをえなかった村、ということが判明した。
つまりはそれなりの潜在能力を持つ村、であるのだ。
『ここは、欲しいな』
『欲しいって、もう、おにぃのダンジョン床の上にあるじゃない』
『上にあるってだけだから、支配下にはない』
『変なところで真面目ねぇ』
もう少し正確に表現するならば、ミアズナに対して、タツキはまだ《悪食の床》を起動していない。
これを起動すると、定期的に村民の不要物が消滅してしまうためだ。
ワナジーマの場合は、地中にゼロからダンジョン空間を構築したので『ここ場所では、このような現象が起きるから気を付けよう』で、済んだが、すでに構築済の生活圏で、広域に《悪食の床》を起動した際、何がエーテルになってしまうのか、タツキも全く分からないのだ。
さすがに空き家やなんかがきれいさっぱり消えてしまっては、景観が変わり、住人達も違和感に気づくだろう。
それゆえ、現時点でミアズナは、ダンジョンマスターの《税》ともいえるエーテルの徴収がなされていない状態、すなわち仮の領地なのである。
「ちなみに、次に商隊がやってくるのはいつくらいなんだ?」
「ワナジーマには今、復興需要があるから、商隊は毎月来ているそうだぜ」
「なるほど」
とタツキは考える。
ダンジョンタウンに居残りを命じられた2人組が、助けを求めにやって来たのは昨日である。それまでも散発的な襲撃があったのかもしれないが、ワナジーマ行きの商隊は、まだイロナシ襲撃の事実は掴んではいまい。
問題は逃げた村長か。
己の失態を声高に宣伝することはないと思うが、己の失態を声高に「イロナシやダンジョンマスターのせい」にしてしまう可能性は否定できない。
と、なれば。
「商隊が来るまでに、この状況を解決し、村長関係者が来る前に、村人たちに俺たちの有用性を明確に示す必要があるな」
2段構えに締め切りを設定すべし。
「よーし、2人のおかげでおおよその状況は分かったし、責任者も不在ってことだから、もう、正面突破しよっか。いつ、イロナシどもが攻めてくるかもわからないしね。――ロベルト」
「どうした、ダンナ?」
「今、村をまとめている奴は誰かわかるか?」
「ああ、神父のような奴が、集会場にいたぜ? まとめ役かどうかまでは分かんねーが」
***
「あわわわわ、こ、こ今度は、ダダダ、ダンジョンマスターが攻めてきた〜!! この村はもうお終え〜だぁ!!」
「あの男どもも、マオウの手下だったのかぁ!?」
そして、みんなでぞろぞろと正面突破した結果、当たり前だが冒頭の状況に至る。
イロナシ襲撃に備えて、鍬やら斧やら漁師の銛やらで武装した村の男たちに、予定調和の熱烈な歓迎を受けたのだ。
「お屋形様、2、3人切り捨てましょうか?」
「捨てんでいい、捨でんで」
想定どおりの状況にタツキは苦笑するも、
「ああーっ! お前は家畜小屋のっ!! お前が、お前がダンジョンマスターを連れてきたのかっ!? この裏切り者がっ! 村で養ってやった恩を忘れたかっ!!」
「あ”?」
チェリを指さしてのこのセリフに、こめかみ付近に青筋さんがこんにちわする。
「た、タツキ様――」
慌ててチェリがタツキをかばうように、押し留めるように前に出ると、にわかに村人たちの雰囲気が変わるではないか。
「――お、おい、こ、この状況!」
それを見た村人の1人が、ガタガタ震えながら、タツキのとチェリの双方を指さす。
「ああああっ!! ダンジョンマスターと穢れ女がそろったっ!? 神父様の言ったとおりになったぞっ!!」
ん? と、タツキは、青筋は維持しながらも首をかしげる。
そこにあるのはいくつかの違和感だ。
この村人たちの《恐れ》は、ダンジョンマスターであるタツキを認知した時よりも、穢れ女とされるチェリを認知した時よりも、タツキとチェリが、ダンジョンマスターと生贄の少女がともに在ることに対して、強烈に発散されている。
そして、神父様?
その疑問を、思考が追う前に、チェリが村人たちに物申す。
「タツキ様をいじめないでっ! タツキ様は、イイモノの――」
大勢の、粗末とはいえ武装した男たちだ。
しかも、かつては自分を虐げていたであろう彼らの前に、再び立ち向かうことのできるこの娘の《勇気》は、いったいどこから出てくるのだろう。
「黙れ、この化け物めっ! 貴様がいたから、この村は呪われたんだ! 貴様のせいで、化け物どもが湧いて出たんだっ! 村長様からもらった食い物、全部、貴様の口に入ったんだろうがっ! 恩知らずの、災いの種めっ!!」
そんなチェリを、男は、恐れと怒りに顔を真っ赤にして、口汚く罵倒する。
「た、タツキ様、どうか、どうか落ち着いてください……」
チェリはタツキに背を向け、彼を守るように腕を広げている。
まるでこの村の者たちの責任を、自らが背負う必要があるとでもいうかのように。
「穢れ女とダンジョンマスターが結託したんだっ! こいつらを生かしておいたら、みんな殺されるぞっ!」
「男どもを呼んで来いっ! あっちで戦えそうなやつは2人だけだ。村を守るぞっ!!」
村の男たちは、鍬や銛をかまえ、村と草原との境界である、粗末な木柵の後ろで徹底抗戦の構えを見せる。
「タツキ様、ごめんなさい、私のせいで」
取り付く島もない村人たちの態度に、チェリの背中は小さくなり、その特徴的な耳もしおれてしまっている。
「なんか、チェリのほうがずっと村長っぽいよな」
「ふぇ?」
そんな彼女の髪をわしゃわしゃと撫でて、タツキは心に浮かんだままを呟く。
「この村が俺の支配下に入ったら、チェリに村長を任せてみよっかな」
「えええっ?」
チェリは重く纏っていた悲しみの感情も吹き飛ばして、ブラウンの瞳を真ん丸にして振り返る。
「ダンナ、そいつはいい案だな」
「ろ、ロベルトおじさままでっ!?」
かつての――もしかすると今でも――忠誠対象であるチェリが罵倒される様に、かなりの《怒り》を内包していたロベルトが一転して破顔する。ただ、完全ににっこり、でないのは、おじさま呼ばわりされたからだろうか。
「ここが避暑地崩れの直轄地なら、村長はどこかの貴族の末かなんかだ。年齢的にも、チェリ様の復帰訓練にはちょうどいいんじゃねーか?」
「それは名案ですね。ぜひ、復帰して頂きたいです」
彼女の出自を知るロベルトが、あながち冗談にも思えない声音でそういうと、フードとローブで《穢れ》の特徴を隠しているエルローネが同意する。
「いいね、ミアズナ。ますます欲しくなった」
背景がわからず、首をかしげるヴォルドガングとウォルフにルート。そして難しい事には首を突っ込みません、なクロベニ。
さっきまでの勇気と決意はどこへやら、おめめをぐるぐる回して「あわわわ」とのたまうチェリ。
そんな彼らと村人ににタツキは宣言する。
「ミアズナの村民たちよ、覚悟しろ。このイイモノのダンジョンマスターが、君たちの衣食住、完璧に面倒見てやろうじゃないかっ!」




