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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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85:隣村を、ダンジョンマスターは調査する

 私、チェリは心配です。

 村に近づくにつれて、頭がぐるぐるしてきます。


 怖い、という気持ちが、心の底から湧き上がってきます。

 しかしそれは、ミアズナに対する恐れではありません。


 この村での生活は、私にとって、それほど苦ではありませんでした。

 もちろん楽でもなかったけれど、景色はきれいだったし、家畜の世話も好きでした。 


 でも、チェリは怖いのです。

 そして、とても心配なのです。

 その心配の対象は、自惚れかもしれませんが、タツキ様です。


 タツキ様が、その、サツキちゃんの言葉を借りると、ブチ切れ? てしまわないか、とても心配なのです。


 かつてのミアズナでの生活は、私にとって日常でした。だから、今も私はなんとも思っていません。ですが、タツキ様から見たそれ・・が、もしも、赦しがたいものだったとしたら。


 王都の魔神窟をも凌駕する、この国最強のダンジョンマスターが、怒りのままに力をふるう姿を、私は見たくありません。


 タツキ様はあの時、ゆくゆくは国を作るとおっしゃいました。多くの人の上に立つ者は、軽々しくその本心を見せてはいけないのです。


 些事に執着してはなりません。

 私が、あなた様の弱点になるかもしれないと気づく者は、少なければ少ないほどよいのてす――

 

 ――って、あれ?

 今、私、何か難しいことを考えていたような?


***


「ダンナ。村長は、クワナズーマに救援を求めに行って不在らしーぜ?」


 あくまでタツキのイメージだが、ミアズナは、チェリにひどい扱いをした、迷信・因習のはびこる閉鎖的な田舎村である。


 タツキがワタシ・ダンジョンマスターだった時代に、先に攻め込んでおきながら言うのも何だが、もう、第一印象が最悪なのだ。


 ゆえに。タツキはミアズナを、よそ者を全力で拒絶する、偏屈な村に違いないと考えていて、そんなよそ者アンタッチャブルな村と、どのように接触するべきかを、出発前に現地人を交えて協議したのだ。


 だが。

「「俺達が口添えしても絶対無理っす!」」

 彼らは口を揃えてそう言い切った。


 ミアズナから脱出し、ダンジョン・タウンの宴会に巻き込まれ、サツキの美味い飯とタツキの旨い酒で洗脳、もとい、心変わりさせたにもかかわらずだ。


「穢れ女とダンジョンマスターなんて、最凶最悪の組み合わせですよ!?」

「口添えしたら俺達がボコられます!」

「それ以前に、みんなチビりますって!」


 ついでに、必死な形相で、ものすごく失礼なことを言い放つではないか。


「もういい。お前ら居残り!」

 と、いうわけで、未だ偏見の抜けきらない、そして、抜けたら抜けたでボコられるらしい村民は、ダンジョン・ジョンタウンでお留守番を命じざるを得なかった。


 そのため。

「村長の求心力は相当に低いみてーだな。あちこちで、1人で逃げたんじゃねーかって、噂されてるぜ」

「がはは、そんなの逃げてるに決まってるじゃねぇか。屋敷の蓄え馬車に詰め込んで、持てるだけ持ってったんだってなぁ?」


 まずは穏便に情報収集を行おうと、比較的身なりがしっかりとした、つまりは板金鎧のアラサーイケメン、ロベルトと、熊の町会長ヴォルドガングを、斥候として派遣したのだ。


 何分、今回の遠征メンバーは、彼らを除けばダンジョンマスターを筆頭に、穢れ2名に侍ガール、骸骨僧侶に女の子である。困ったことに、彼らの他に、対外交渉できそうな人材がいない。


 使い勝手の良い《二重に歩く者ドッペルゲンガー》先生にお出まし頂こうかとも考えたのだが、適切なコピー対象が居ないことと、憑依・操作するのが、この世界の常識を持ち合わせていないタツキなので、情報収集においてボロが出そうなので廃案となったのだ。


「坊っちゃん、こりゃ、典型的な田舎の寒村でさぁ。村長が金目のモノ持って逃げたってんなら、こんな村、昔の俺たちでも襲いませんぜ」

「ダンナ、湖側に小さな教会があった。住人が欲しがるとは思えねーから、ここは都の避暑地かなんかを目指して開拓されたんじゃねーかな」


 そして、2名の斥候が思いのほか優秀であったおかげで、実際のミアズナは「思っていたほど閉じていない」ということが分かってきた。


 なんでも、ワナジーマへの物資輸送時の中継地となるため、2月に1度程度、決まった商隊の往復があり、それによって村では賄えない物資や、都市部の情報などを得ているようだ。さらには、ラコウと取引のある商人たちも、同様に、ここを中継地として使うため、年中をとおして人の往来はあるらしい。


「にしては、寒村すぎないか?」

 と、タツキは村の入り口遠くで首をかしげる。

 人の往来、それも商人たち往来するのであれば、もう少し栄えていたって良いのではないか? 彼らだって、うまい飯と良い寝床は欲しいだろう。 

「そういう奴らは村長宅に泊めて、相応の値段で接待するそうだ。村長の小遣い稼ぎのひとつだったらしーぜ?」


 サツキとともに、イビル・アイで見ていたが、この騎士、アラサーイケメン故、お姉さま方を中心に情報収集に励んでいた。

 彼女らが言うには、湖を一望できる高台に、でんと立つ立派な村長宅。商隊が来ると、村人を使用人として働かせ、そこで彼らを饗応していたとのことだ。


 しかも、そんな立派な邸宅なら、このような非常時こそ、民の避難所として解放すればいいものを、主不在であるにも関わらず門扉は固く閉じられており、人々は村の中心にある粗末な集会場に身を寄せていたのだ。


「主に湖から取れる魚や貝の加工品を、商隊に卸してたみたいですぜ」

 一方で、意外にもヴォルドガング、職位ジーンが斧戦士でありながら、なかなかに小器用な男であった。

「盗賊家業で身につけた情報収集術でさあ」

 そう謙遜する彼は、人がいなくなった村内をひととおり歩き回って、この村のおおよその生活水準を推測し、重要物資――この村の場合は農作物や水産物――の保管場所、つまりは盗賊としての略奪対象をひととおり把握してきたのだ。


「家畜小屋もありやしたが、何故か空っぽでしたし、おおかた、他の産業に手を出そうとして上手くいかなかったんでしょうな」


「「あ、あはは」」

 タツキとチェリが、お互い目を合わせてから苦笑する。流石に、中身はダンジョンの、尊い生贄になったのだ、とは、言いがたかったのだ。


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