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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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86/99

79:少女たちに守られながら、ダンジョンマスターは領土を広げる

 タツキが、ダンジョン・コアから膨大なエリキシルを引き出し、エーテル変換を行った途端に。

「おい、ダンナ、明らかに狙いが変わったぞ」

 緊張した面持ちで、ロベルトが両手剣を抜刀し、タツキを守るように立つ。

「やっぱりあいつ、エーテルが欲しいんだ。エーテルに惹かれる害虫のような存在、イロナシ」


 だが、事は一刻を争う。

 なぜなら、

「ミアズナ周辺の森の一部が白化している。あの辺が出所かもしれない」

ガーゴイルとイビル・アイは、その発生源らしき変異を見つけたからだ。


「ロベルト、護りは任せた。俺は街道沿いにダンジョン化を進め、そのままミアズナを手中におさめる。サツキ、さっきみたいにロベルトを支援してくれ!」

「承知した!」

「任せなさいっ」


「坊っちゃん殿、俺たちもいますぜっ! お前ら、飛び道具か長物に持ち替えろっ!」

「町会長さんが、あいつにつけた傷が消えていません。攻撃は有効です。皆さんにも、――燃え上れ、炎のごとく《勇者の祈り》」


「おおー、漲ってきたぜっ!」

 ロベルトを中心として、タツキたちのテーブルにも支援の法術が降ってくる。

「俺にもちゃんと効くんだな」

 タツキも、ダンジョンマスターではあるが、心の奥に灯がともったような、今ならなんでも成し遂げられるような、強い気持ちになる。


「神々は、正しき心に加護をお与えになります」

 ウォルフが、彼にしては珍しく得意げな顔をする。


「だけど、ちょっと効きすぎじゃないか?」

「え?」


 なんと、ゆらりと立ち上がったエルローネが、左手にワイン瓶を持ち、右手でタツキの出した剣を持っているではないか。

「私、娼館で護身術も修めてたんですよぉ~」

 などと、ほんのりと頬を染め、眦の垂れた美しいお顔でのたまっている。


「あー、ロベルト、あちらのお方の護衛を最優先で頼むわ…」

「お、おおっ!? い、いや、イロナシの狙いはあくまでダンナなんだが」

 タツキもあわてて防御系のユニットの検索を始める。

 何せ、背中でふんすふんすと、チェリの鼻息がどんどん荒くなっていっているのだ。このままでは、ナイフとフォークあたりをグーで握って前線に飛び出しかねない。


「お兄さん、ポーションは、爆発だよっ!」

 そして立ち上がる、もう一人の女傑。

「ルートさんまでっ!? 落ち着いて。ああ、静心の祈りで中和を…っ!」

 紫色の、いかにも爆裂しそうなポーション瓶を両手に持ったルートに、助祭モードのウォルフも、さすがにあわて始める。


「皆様、ご安心ください」

 そこに、涼やかで落ち着いた声が降ってくる。

「町の皆様をお守りすることは、衛兵の誉れです」


 そうだ。俺やチェリに勇者――、もしかすると狂戦士バーサーカーかも、なバフがかかっているのだから、俺を抱きしめるように寝ていた彼女にも、等しくかかっている。


 酔いがさめたのか、それとも、溢れる闘争心が酔いを凌駕したのか。ダンジョンタウン最強のユニット、名付きネームド黒砦大将軍ブラックジェネラルのクロベニは、ゆるりと立ち上がると、その凛とした美貌に、燃えるような闘志を纏わせて宣言する。


「望む方は私に続いてください。――我が名はクロベニ。いざ、参るっ!」


 クロベニが滑るように大地を蹴る。

「なっ、視える!」

「どうしたロベルト?」

「クロベニ様が、私たち、戦う意思を示した者たちを指揮しておられます」

「エルローネ?」

「ベニちゃん、分かった。私も行くね。タツキ様を守る!」

「チェリっ!?」


 ロベルトとエルローネ、そして弓を選択したチェリまでが、タツキの眼前に立つではないか。


「となれば、ダンナはダンナにしかできねーことに集中だな」

 両手剣を担いでエルローネに並ぶロベルトに、

「そう。ミアズナ掌握が最優先だね。行こう、お兄さん」

ルートが補足する。


「はい。行きましょう。――祓え、神域のごとく《防魔の祈り》」

 そして、どこか月光に似た、法術抵抗力向上のバフが、クロベニの魔技アーツ軍学の賦与者ハルファス》指揮下の者たちに降り注ぐ。


「皆様、削り尽くしてください。この種の手合いは一片も残してはいけません。はあぁっ!!」

 降り注ぐ、クロベニの斬撃。

 迎え撃つは、

『Gyurぃぃぃiiiieeeっ!!』

精神を削る高周波。しかし。


「おおっ、こりゃいいぜ、絶叫攻撃が和らいでやがるっ!」

 ウォルフの守りがその威力をそぎ落とし、

「よし、俺たちも衛兵隊長のねーちゃんに続くぞっ!!」

「「「おおおっー!!」」」

町会長ヴォルドガングたちが、タツキの生み出した斧や槍で、イロナシを滅多打ちにしていく。

 それら導線や連携は、長年の訓練の成果であるかのように美しい。

 

「見事よね。クロベニの魔技アーツのせい? ウォルフの《法術スペル》と違って、私たちには効いてないみたいだけど」

「そうだな」

 ダンジョンマスターに対しては、反逆や誤爆防止のための、安全回路なんかがあるのだろうか。

 などとタツキが考えていると、サツキが、やや遠慮がちに、チェリがしていたように背中からそっとタツキを抱きしめる。


「おにぃのことは私も見ててあげるから、さっさとやっちゃいなさい」

「お、おう。ありがとう」

 ちっちゃくても、ちゃんとあたたかくてやわらかくて、多幸感に包まれる。

 などと、若干失礼なことを考えながら、タツキはエーテル浸食と、物質転換。状態固定と形状記憶化、すなわちダンジョン空間の拡張作業に集中していく。


「今ですっ、エルローネ様」

 クロベニが開き、ヴォルドガングたちが穿った空隙。そこに、ロベルトの後ろから飛び出したエルローネが、《軍学の賦与者ハルファス》の導きのまま「え~ぃっ!」と、ショートソードを一閃する。


『Gyiiiiyyyaaaぁぁぁああぁeeぇぇeaaa!!』

「うぉっ!?」

「どういうことだ!? 俺たちと威力の桁が違うぞっ!」

 斬撃を受けた部分が蒸発したかのように抉れ、イロナシが確実にその体積を減じる。


「そして御台所様っ! 止めをお願いしますっ!!」

「チェリだってば。いっくよーっ!!」

 そして、

「むむむむむむーっ!!」

と、顔を真っ赤にして弓引くチェリ。

「ええっ?? 何あのエーテルの奔流!? あんなの、おにぃでなくたって見える」

 引き絞られた弓。そこにつがえられた矢に集まる感情は、タツキに対する思慕であり、この町に対する愛着であり、そこに暮らす人々に対する慈愛であり、チェリがようやく手に入れた、小さいけれど、暖かで、優しい世界に対する深い愛情であった。


「どーんっ!!」

 ダンジョンマスター2人にしか見えない莫大な感情。それが《軍学の賦与者ハルファス》の支援を受けて、まっすぐイロナシに吸い込まれる。


「すげぇっ! 貫通したぞ!?」

「どてっ腹に真っ黒な穴が」


『aAAaぁぁa――』

 それが断末魔の叫びだったのだろうか。

 チェリの弓が開けた暗い穴。そこに、イロナシの残された部分が落ち込み、『――xxaあAaaa…』一瞬の抵抗を見せるも、ぎゅるりと裏返るように、あっという間に吸い込まれ、跡形もなく消えてしまったのだった。


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