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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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78:世界の敵と、ダンジョンマスターは対峙する

「化け物だっ、助けてくれっ!! 俺たちの村に、見たこともない化け物が出たんだっ!!」

 その叫びに呼応するかのように。

「なんだあれは?」

 それは2地点同時に観測された。

 イビル・アイの視界内と、この、宴会場の眼前で。


「水面の油膜か? いや、周囲のエーテルを吸って反応してる。――ミアズナから来た2人の恐怖感情を辿ってきた?」

 *******、もとい、**金属、ええぃ、はぐれたメタルなスライムを100倍くらいグロテスクにした奴だな。

 タツキは制限のある概念を無理やり喚起させ、脳内にその異質な存在を刻み付ける。


 そのような、色と形の定まらぬ流体が、そこから、人間の手が生えたり、動物の顔が現れたり、刻々と在り方を変えながら、ゆっくりとこちらへと近づいてくるではないか。


「――もしかすると、こいつが」

「はい。僕も見るのは初めてですが、この、あまりにも異常な感覚は、それ・・に違いないと判断します」


 チェリとクロベニ、女子2人にサンドイッチ状態のタツキがウォルフから同意を得る。

 漏れ出る不安感情を押し留めようとするかのように、後ろからチェリが、ぎゅむむとタツキを抱きしめ、眠るクロベニがピクリと身じろぎをする。


「皆さま、お気を付けください。これぞ、世界が光と闇の狭間に隠した邪悪なる混沌――」


 酔っ払いパワーか、それとも聖職者としての矜持か。

 このような状況下においても、ウォルフのイケボイスにはいささかの陰りもなく、

「おお、神々よ、これこそが――《千姿万形を操り億の世界を啜り滅ぼす者》それが光と闇の狭間に潜む混沌なり――、そう、旅行記に記されている悪に違いありません!」 

朗々と状況を謳いあげる。


「名前、長っ!」

「ダンナ、突っ込むところはそこかっ!?」

 名付け。

 それは未知を既知にする行為。無限を有限に落とし込む魔術。


「いよっしゃぁ、要するに、あのセンシ何たらをぶちのめせばいいんだろっ!? 荒事なら俺たちに任せろっ!!」

 それに鼓舞されたのはダンジョン・タウンの住人たちだ。

「安全第一だぞっ、剣、斧、槍、盾、好きなものを持ってけっ!」

 それをタツキが褒章アイテムの大盤振る舞いで支援する。


「ちょ、あんたたち、うかつに突撃しないでよっ!!」

俺たちの女神サツキ様に勝利をっ!!」


『お、おにぃっ!』

『許す。何でも喚んで支援してやってくれ!』


「「「ヒャッハーっ!!」」」

 盗賊団に先祖返りしたかのようなノリで、アルコールの力も借り、道の化け物に突っ込んでいくダンジョンタウンの住人達。


「偉大なる神々は言いました。混沌の邪悪を退ける唯一の方法は、強い心の力である、と。ゆえに、支援します。――燃え上れ、炎のごとく《勇者の祈り》」


「一番斧は俺のもんだっ!!」

 タツキの支援とウォルフの法術スペルを受け、その集団から一歩頭抜けて、ふるふると色と姿を変え続ける化け物に斧を振りかぶるはヴォルドガング。

「お頭に続けっ!!」

 そして、タツキの獲物を手に、駆けつける元部下たち。


「誰がお頭だぁっ! 今は――」

 クマ顔の偉丈夫は、大地を踏みしめ、その斧をたたきつける。

「――町会長だって言ってんだろっ!!」


 矜持とともに撃ち込まれた刃は、そのサイケデリックな不定形の半ばにまで食い込み、

「スライムにちゃ、固てぇなっ!!」

高密度の粘土に刃をたたきつけた感覚とともに、

「「「ぐぁっ!?」」」

「くそっ、てめぇっ、そりゃ悲鳴か!? 攻撃か!?」

 黒板を爪でひっかいた、あの音を凝縮したような、不快な反撃に見舞われる。


「あんたたちっ、下がりなさいっ!」

 ひるんだヴォルドガング達。

 ぶるぶると、表面を波打たせ始めたサイケデリック粘体。

 それを攻撃の予備動作と読んだサツキは、双方の間に深緑の召喚陣を割り込ませ、5体のゾンビを文字通り肉壁として召喚する。


 その直後に。

 ぞんっ――!

「ウニか?」

 とは、タツキの談。

「毬栗」

 とは、チェリの感想。


「ちぃっ! お前ら、離れろっ」

 肉壁ゾンビに必殺の棘を遮られ、無傷のヴォルドガングたちが距離をとる。


「おにぃ、あれっ!」

「ああ。見てる。あいつはエーテルを吸ってる」

 棘に刺さったゾンビたちが、白化していく。色を失い、そして、形が崩れ始め、さらさらと風に散り、世界から失われる。


「ウォルフ、あいつの真上に明かりを」

「はい、――共通法術コモンスペル持続光ライト》」

 タツキは、今や高位のダンジョンマスター。エーテルの流れを読み、その結晶たるエリキシルの在処がわかる。


 そして、その情報が示すとおりに――

「…、い、色が、無ぇぞ。あれが、あいつの足跡なのか? 移動経路が、ナメクジが這ったような跡が、白くなってやがる…」

 ――月光では暴けなかった、世界の傷跡が白日の下に晒される。


「イロナシ、か…」

 そして、その光景が、過日のやり取りを喚起する。


『本当の次元侵略スタンピードは、時々起きるから気をつけなさいなぁ』

『儂らはイロナシと、呼んでおる』

『別の次元からぁ、この世界のエリキシルを狙っている奴らがいるのよぉ』


「イロナシだ」

「え?」

次元侵略スタンピードが起きている。ミアズナを守らないと」


 タツキは、ミアズナを一気に己のダンジョンに組み込むべく、ダンジョンコアとして結晶化するエリキシルから引き出した、濃密なエーテルをその身に纏うのだった。


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