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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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77:イケボイスの助祭に、ダンジョンマスターは赦される

 人は物語る生き物である。

 なぜなら、世界には「物語らねば耐えられないこと」が多々存在するからだ。


 例えば、その最たるものが「生と死」である。

 あまたの文明が、それぞれの神話や宗教で、人の始まりと終わりの物語を美しく、豪快に、時に不気味に、そして、もの悲しく描いている。シルヴィス教の物語もその例にもれず、「生と死」は銀の船の国てんごくとして組み込まれている。


「闇は、古来より人類が恐れる絶望の象徴。しかし、神々は、その闇を良しとされませんでした。神々は常に私たちを導き、この世界を光で満たし、安寧を与えてくださっています」


 そしてこの世界においては、夜空に圧倒的な存在感をもって鎮座するあの銀球も、「物語らねば耐えられないこと」であったのだろう。古来より、常に人々の話題となり、世界の疑問を吸収しながら、ゆっくりと信仰へとつながっていったと考えられる。

 

「あの銀の光は、神々の尽きることのない慈愛の表れなのです」

 月光を背負って説法を行うウォルフ

 炎や魔法の明かりがなくとも、夜の湖のほとりの草原で、説法を聞く面々の表情が、はっきりと視認できるほどに、月のある夜は明るい。


「そして今、私たちは神々がお守りくださるこの大地に生かされています。なぜ、神々はかくも惜しみなく、私たちに光と恵みを与え続けてくださるのか――」

 ウォルフはここでタメを作って、ワインで喉を潤す。


 タツキはこの瞬間に、期待やワクワク感、そんな感情がわっと増えてダンジョンに流れ込んでいくのを感じ取る。


「――それは、世界の真の敵との、果てしなき戦いがあるからに他なりません」


「真の敵だと」

「俺がやっつけてやるぜ?」

「ひょっとして、坊っちゃんのことか?」

「そんなわけないだろ」

 好き勝手なことを言う酔っ払いたち。


 しかし、タツキはハタと考える。

 自在にモンスターを創造し、人を迷宮に誘い込み、そこからエーテルという糧を搾り取り、エリキシルとして蓄えるのがダンジョンマスターという謎生物。これも、世界の敵なのではないだろうか。しかも二つ名は魔王の手先ときたもんだ。


「神々は闇を制しました。しかし、この世界は、光と闇の狭間に、混沌という名の邪悪を隠していたのです」


 ウォルフの、イケボイスによるありがたい講話は進んでいく。

 なるほど真の敵は、混沌らしい。

 天使も悪魔も両方呼び出せてしまう万魔殿パンデモニウムな俺はにふさわしい表現では?


 どうにも、ハラハラ感が顔に出ていたのだろうか。

 後ろから抱きすくめているチェリが頭をなでなでしてくれて、ウォルフがにっこりとほほ笑んでくる。


「そう、この世界の敵は、この宴席の主催、我らがダンジョンマスターのタツキさん――ではありません」

 おお!! 神よ、赦された!


「余談ですが、シルヴィス教の聖典である《旅行記》には、ダンジョンマスターに関する教えはありません。あるとすれば、2章、――そこに、水と大地があった、に記される《この世界に満ちる恵みを、私たちは余すところなく活かし、次代を育み、地に満ちていくべきである――》という記述ですね」

 ウォルフは聴衆を見渡す。


「この、《世界に満ちる恵み》の中に、ダンジョンから生み出される糧や、富も含まれる、と神学者たちは解釈しています。よって、シルヴィス教において、ダンジョンマスターは、自然の一部であり、恵みの一部なのです」


「恵み…」

 と、チェリがつぶやく。

「まぁ、普通のダンジョンマスターは、話すらできねぇ。自然の一部っちゃぁ、そうかもな」

 ロベルトが笑ってエールをあおる。

「なるほどぉ。私たちは、大自然の恵みと、仲良くさせていただいて、楽しくお話しているのですねぇ。おいしいお酒まで頂いて…」

 そして、眦がほんのりと垂れたエルローネが、なぜかなむなむとタツキを拝み始める。

 はっとしたチェリも、

「タツキ様、いつも感謝してます」

 と拝み始めるではないか。


「そうだ。豊穣の女神様だ!」

「「「女神様」」」

「え、ちょ、なに言ってんのよあんたたち」

 突然のなむなむ攻撃にタツキが苦笑していると、芋をもさもさとはやし、極上の料理を提供するサツキも、このノリで、さっそく崇め奉られている。

「今までずっとステーキを焼いてくれてた女神さまを、酒と料理でもてなすんだっ!」

「「「おーっ!」」」

「あんたたち…」


「ああ、ダンジョン・タウンにサツキ教が爆誕した」

 今度それっぽい神像でも建てといてやろうかな。

 左手は大地に向け、地面からは、芋の葉が芽吹いて、彼女の腰のあたりにまで巻き付き、右手は天に向け、その上にはおいしそうなふかし芋が乗る。そんな少女像が良かろう。削り残しクラフターで行けるかな――とか、脳内で悪乗りをしていると、


「で、お兄さん、結局敵は何だったの?」

 ルートが、愛しい人の雄姿に、瞳をキラッキラにして尋ねる。


「はい。世界の敵。その名は――」

 ウォルフが右手を月に掲げたその時、

「化け物だっ、助けてくれっ!! 俺たちの村に、見たこともない化け物が出たんだっ!!」

 答えは、別の場所、――ようやく目を覚ましたミアズナ村民からもたらされたのだった。


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