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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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75:隣人の地へ、ダンジョンマスターは飛び立つ

「うーん、エルダーガーゴイルが良いかな。ウォルフ、こいつの脅威度ってどれくらい?」

「…突然、どうされましたか…?」

「気づいたら手遅れになってた、ってのは嫌だから、偵察くらいはしとこうかな、って」

 つつがなく宴会が始まり、めいめいに酒と食べ物がいきわたったのを確認し、タツキはジョッキ片手に、ひっくり返っている自称ミアズナ村民2名を指し示す。


「僕が…《静心の祈り》と《活力の祈り》を…かけておきましたので、…そのうち目覚めるかな、とは思いますが…、そうですね…」

 ルートと仲良く肉を食っていたウォルフだったが、タツキの質問を受け、己の記憶をたどり始める。この骨太スケルトンチックな青年も、最初のオドオド感が消えて、ずいぶんと落ち着いてきたように思える。


「お屋形様…、偵察であれば私に、クロベニにお命じください! 汚名返上の機会をっ!」

 その代わり、なのだろうか、新たに増えた仲間は、その凛としたイメージを全力で裏切る賑やかさである。

「クロベニは衛兵隊長だろ。ダンジョンタウンを守るのが仕事だよ」

「くっ」

 くっころ属性まで持ってそうな勢いだ。


「じゃあ、ここのみんなと仲良くなろうよ。仲良くなるのは衛兵さんの大事なお仕事だよっ。私がみんなに紹介してあげる」

「御台所様っ!」

「え? 私は台所じゃなくてチェリだよ。お料理そんなにできないもん」

 一緒にお風呂に入れたのが良かったのか、チェリはクロベニと仲良くなったようだ。見た目、クロベニのほうが年上っぽいが、なんと、チェリのほうがお姉さんポジションだ。クロベニのスペック、推して知るべし、である。


「じゃあ、クロベニ、みんなにお酒を注いで回るといい。この樽、持てるよな」

 タツキの《ダンジョンマスターの本能》上のクロベニは、ネームドな《黒砦大将軍ブラックジェネラル》である。可憐な少女の見た目ではあるが、

「はっ。10樽だろうと片手で行けます!」

エールがなみなみ入った樽を片手でひょいと持ち上げている。いったいどんな物理法則が働いているのだろうか?


「チェリはワインを持ってくか?」

「はいっ」

 その様子をほわ~と、お口をあけて見ているチェリにはおしゃれなワインを渡す。

 一瞬、エルローネさんの視線を感じた気がするが、きっと気のせいだろう。え、気のせいじゃない? 後で出してあげた方がいい? え、さっさと出せ? い、イエス・マム!


 などと、こそこそとやり取りをしていると、

「みなさ~ん、お酒の追加ですよ~。かわいい女の子もいますよ~」

元気いっぱいなチェリが、最初のテーブルに突撃する。その口上はどうかと思うが、野郎の多い元盗賊団たちには効果てきめんだ。場がわっと沸いた。


***


「それで…エルダーガーゴイルですが」

 野草と山菜のサラダをつつきながら、ウォルフが続ける。

 いや、君、もっと肉を食わないと肉を。いっぱいあるんだから。とか思っているとルートが焼き立てステーキをもってきて「はい、お兄さん、肉も食べてね」と甲斐甲斐しく切り分けているではないか。

「お、おう」

 俺はいったい何を見せられているんだ、チェリ、早く帰ってこい! ――的な気持ちを飲み込んでタツキが頷く。


「一般には、通常のガーゴイルの成長した姿…あるいは極めて古い個体と推測されていますね…。その体は…硬質な岩のような皮膚で覆われ…、並大抵の物理攻撃では傷一つ付きません。…魔法抵抗も…高いので、強力な魔法武器や魔技アーツを持たない…低ランクの冒険者では…ダメージを与えられないでしょう」


「ロベルトはどう思う?」

 こちらは全く逆で、酒瓶にかしずかれるエルローネに、ロベルトが様々な料理を少しずつ取り分けるという執事ムーブをしている。だが、タツキは見逃さない。ロベルトが席に戻ってくるたびに、テーブルの下で、モフモフしっぽがさりげなくロベルトの足を優しく撫でているのだ。くっ、さすがエルローネさん、なんて高度ないちゃつき。チェリ、早く帰ってこい! ――的な気持ちを飲み込んでロベルトの返答を待っていると、


「俺なら両断できると思うが、俺の専用魔技オリジナルありきだな。防御力と飛行能力に加え擬態能力も持ってるから、偵察にはもってこいなんじゃねーか?」

こちらも肯定的な回答が返ってくる。


「…あとは、低位までではありますが…攻撃法術アタックスペルが使えましたね」

法術スペル、つまり魔法か!」

 ウォルフの言葉で意図せずタツキの中の14歳が目覚め始める。

 魔技アーツはさんざん見てきたが、意外にも法術スペルはウォルフのそればかり見ている気がする。ファンタジー定番のファイアボールにすら、いまだ出会っていないことに気づく。


「もし…、クロベニさんの能力が…黒砦大将軍ブラックジェネラルのままでしたら…、彼女は中位の攻撃法術アタックスペルも使いこなすはずですが…」

「え?」

 タツキの視線の先には、あれよあれよという間に酒を注がれ、元盗賊団の住人たちと肩を組んで、謎の歌を歌い始めた残念少女×2の姿が見える。いや、ちゃんと有益な関係性を築いているのだから、そう残念ではないのかもしれないが、そこにAランク上位モンスターの威厳は欠片も残っていなさそうだ。


「飛び道具は邪道、とか言い出すんじゃねーか?」

「うわ、言いそう」

 ロベルトの言にタツキは苦笑しながら、さっそくエルダーガーゴイルを召喚。

「んじゃ《これ》持って、ミアズナまで偵察に行ってくれるか。住人たちに見つかることなく、村全体が見られる位置に滞空または潜伏するように。場合によっては憑依するからよろしく」

 ざっくりとした命令を下す。


 ちなみに「これ」とは、ギース戦やワナジーマ防衛線でも地味に活躍した魔族異種のランクCユニット、触手目玉の《イビル・アイ》である。

 飛行型モンスターにこれを持たせ《ユニット視点》を発動すれば、あら不思議、高性能偵察****…、4つくらいの回転翼で安定飛行するあれ――の出来上がりなのだ。


「よく…そんな組み合わせ…、思いつきますね」

「え? レイスで熟成肉作るより普通じゃないかと思うけど」

 呆れるウォルフに、カオルコ先輩の妙技について言及してやる。まぁ、そのおかげで《スライム血抜き》を思いついたのだが。

「ダンナのヤバさは、万魔殿パンデモニウムより発想の方だと思うぜ」

「ロベルト、ヤバい言うな」

「いやいやいや。発生して数か月のダンジョンが実はランク9だぜ? こんなのがポコポコ居たら世界が滅びる」

「ひどい言われようだ」


 そんなやり取りの間に、ぬちゃべちょじゅるりと、エルダーガーゴイルの岩のような左腕にしっかりと触手を絡ませる目玉。初見だったのか、エルローネさんの耳としっぽが、ぶわって逆立ってるのが面白可愛い。


「まぁいいか。じゃ、行ってこい」

 法術スペル的な何かの働きなのだろうか。

 羽ばたきの音もたてず、おそらくダンジョンマスターにだけ知覚できるエーテルの残滓を残して、エルダーガーゴイルが星空へと舞い上がる。


「そして、ここで《ユニット視点》を発動すると…」

 タツキの視点が、人間型のそれから、広視野かつ高精細の、目玉の魔物のそれに切り替わり、

「おおーっ、夜空に散りばめられた星々の光を、水面でいだくニフヌ太湖!」

その美しさに思わず歓声を上げる。


「遊覧飛行をしながら飲む酒って最高だな」

 そして、本来の目的を一時的に忘却し、星空での一献を楽しむのだった。


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