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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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74:宴の始まりを、ダンジョンマスターは宣言する

 てきぱきと、もはや慣れた手つきと連携で、ボアの食肉化処理を行う住人たち。

 彼らのサポートのため、開通式は門の外で行うことになってしまった。


「ももも、申し訳ありませんお屋形様ぁ! かくなる上はこの腹掻っ捌いて見事果てて御覧に入れますぅっ!!」


 何が起きたのかと言えば、血みどろの惨劇である。

 そして、土下座ガールの爆誕である。


『また、つまらぬものを斬ってしまった』

 どや顔で、どこかの世界の文化的情報きめぜりふを発したクロベニが刀を鞘に納める。

 チン、と涼やかな納刀音が響いたその瞬間、ずるりと3体のボアの頭部が地に落ちるがしかし、突進してきた巨大質量であるそれらの勢いは当然失われることなく。


「え? ひ、ひにゃぁぁぁぁぁぁっ!!!!???」

 クロベニが、外見相応の可愛らしい悲鳴を上げ、


 どごべしゃぐぎごちゃっ!!


といった、湿った感じの嫌な音をまき散らしながら、ドバドバと血を噴出しながら転がるホラーな肉塊と化したボアだったものが、新しいダンジョン入り口の草原を転がり、


 ドゴンッ(×3)!!


と、真新しい門扉に激突してしまったのだ。


「果てますぅ、果てまするぅぅ!!」

 その結果、血みどろ侍ガールの切腹騒動に発展し、

「果てんでいい、果てんでいいからっ!!」

えいやと晒された、うっすらと、割れた腹筋の見えるお腹とおへそにドキドキしたりしながら、

「ダンジョン指定したら一瞬できれいになる」

 タツキは己のダンジョン空間を、新たな入り口の外の草原へと大きく拡張し、悪食の床スカベンジャーであっという間にぶちまけられた血糊をエーテル変換したのだ。


 その結果、宴会会場は門外の新たなダンジョン空間へ移動。

 現在、めいめいでボアの食肉化処理を行っているところだ。


「チェリ、悪いけど、先にクロベニを風呂に入れてやってくれるか」

「は、はいっ!」


 すっかり意気消沈し、小さくなったしまったクロベニをチェリに預け、スライムなんかを召喚しながら、ボアの食肉加工処理を手伝っていると、

 

「人がいるっ! 村だ、本当に村になっているぞっ!」

「お願いです、助けてください、ミアズナがっ!」


いかにも村人然とした、質素な貫頭衣を纏った男たち、――自称、ミアズナの村民が転がり込んできたのだ。


 ミアズナは、タツキが《ワタシ》だったころ、最初の侵略対象になった程度に距離が近い。彼らはその間を全力疾走をしてきたのだろうか、顔色を失い、唾も飲み込めないほどに憔悴し、強い恐怖の感情を放っている。


「何があった? まぁ、落ち着け」

 ロベルトが、その男の肩を掴み、宴会用に用意されていた、ダンジョンマスター製の水(酔い覚まし用)を手渡す。

「ああ、す、すまない」


 男たちは受け取って、そのペコポコした感触に驚き手を放しかけるも、ロベルトの指導に従ってキャップを外し水をあおる。

「う、うめぇっ! この水は何だっ!?」

「透き通った味がする!」

「大げさな。この辺の水だって都に比べればずっとうまいんだぜ」

 男2人をロベルトが、人好きのする笑顔でなだめると、2人の顔に幾分生気が戻ってくる。


「まったく。入口を作った途端、いきなり色々なのが飛び込んでくるな。幸先がいいのか悪いのか」

 さすがはロベルトだ。コミュ力高い。

 恐怖の感情の、己のダンジョンへの流入が落ち着いたところを見計らって、タツキが苦笑しながら顔を出す。


 すると、

「あー、ダンナ」

こめかみを押さえたロベルトから、

「なに?」

「まだ早えーっすよ。せめて、俺が説明した後で出てきてくれませんか?」

と、呆れた顔でダメ出しを喰らう。


「え? どういうこと? って、あれ? なんで2人から過去イチの恐怖感情が?」


「「ぎゃぁぁぁっ、黒目黒髪っ、ダンジョンマスターだっ!!」」

 そして、2人はタツキのダンジョンに、じゃぼじゃぼとエリキシルを供給しながら、恐怖と疲労がピークに達したのか、仲良くひっくり返ってしまったのだった。


***


「そういえば俺たちは魔王の手先だったっけ? だいたい、魔王ってどこにいるんだよ?」

「私だって知らないわよ。魔神窟の最奥にいるんじゃないの?」

 ひっくり返った男たちが目覚めない限りは、特に対応のしようがない。

 よって、レイスによって瞬間熟成されたボア肉のいいところを、じゅうじゅうとステーキにしているサツキのところに、タツキは愚痴り来たのだ。


「いや、俺、今ランク9。魔神窟は推定ランク8らしいぞ。そして俺の召喚可能なモンスターに魔王はいない」

「さすがエンドコンテンツおにぃ」

「変な呼び方やめて」

 あと1ランクが上がって、魔王を呼び出せてしまったらどうしよう、とか思うではないか。

「だけど確かに、この世界で気づいた瞬間は何かに隷属させられていたよな」

「囚人服でね。いい趣味してるわ」

「俺たちを縛っていた、あれが魔王なのか? だとすれば、あれは個というよりは…」

 なんだろう、仕組み、法則?


「はい、おにぃ、口あけて」

「はい? むぐぐっ――、熱っ、う、うまっ!!」

 放り込まれたのは、焼き加減ばっちりなボア肉の欠片。


「それは後でいいんじゃない? ほら、周りを見なさいよ。みんな、おにぃの号令、待ってるわよ」


 見れば、ボアステーキの良い香り漂うサツキの調理スペースを中心に、準備を終えた住人たちがジョッキ片手に集まってきていた。少し離れたところには、こちらへと小走りで戻ってくるチェリとクロベニ、湯上り少女たちの姿も見える。

 目を回した二人組も、近くでどんちゃん騒ぎをしていれば、そのうち目覚めるだろう。


「魔王なんて後でいい。こんなうまいものは、出来立てで食わないと罰が当たるぞ」

「わかってるじゃない」

 むぐむぐごくんと口の中のものを飲み下す。


「よーし、これから開通式という名の宴会を始める。今回の目玉は凄腕シェフのサツキが目の前で焼いてくれるボアステーキだ。みんな、力いっぱい飲み食いしてくれっ!」

「「「おーっ!!」」」


 日の沈みかけた湖のほとりに、大歓声が響き渡るのだった。


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