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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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71:衛兵部隊の隊長に、ダンジョンマスターは困惑する

 ひとつ、ここで問題が浮かび上がる。


 この世界の衛兵は、都市防衛から犯罪者の捕縛まで、街の治安維持全般を所掌するらしい。さらに、冒険者ギルドも無いような、小さな町や村の衛兵は、ダンジョン調査から、余力があれば迷いネコ探索まで、冒険者さながらの対応が求められるそうだ。もっとも、そのような小さな町や村では、攻められたり、治安が乱れたりすることは稀で、衛兵側も普段は暇を持て余している、という事情もあるようだが。


「そうなると、こいつら自己判断できないんじゃないかなぁ」

 大将軍ジェネラルを中心に微動だにせず整列する黒砦シリーズだが、彼ら(?)はダンジョンモンスターである。

 ダンジョンで、モンスターが行うことは単純命令――侵入者を排除せよ――に尽きるのだから、複雑な自己判断機能など、搭載しているはずもなく。つまり、彼ら(?)をデンと町の入り口に置いておく場合、来る者分け隔てなく、等しく虐殺していく未来しか見えないのだ。


「住民の言うことを聞けっ、てな命令じゃダメなのか?」

「…それでは、犯罪に…つながる命令にも、…応じてしまいますね」

「うーん、ロベルトに指揮命令権を与えるか?」

「俺はダンナとチェリ様の剣ですぜ。信頼はありがたいんですが、緊急時にこいつらを指揮する余力はねーっすよ」


 盲点である。

 さらには、サツキの薬局イケメンSランクモンスター店番計画も、お客様惨殺計画に早変わりだ。


「あっ!」

「…どうしました?」

 皆でうんうんと頭を抱えていたところ、突如タツキがポン、と手を打つ。

「これって、もしかして、こういう時に使うものなのか?」

「これ…とは?」

「ああ、そうか、2人は見えないんだった」

 ダンジョンマスターの本能にアクセスし、何かないかと考えていたタツキは、そこにあった《ソウル×7》の記述に気づく。


『お主のモンスターに受肉させるのよ。お主に忠誠を誓い、自律的に行動する将となろう――』とは、カータヴェルの言葉だ。


 普段はタツキのエリキシル容器、すなわちダンジョンコア付近が居心地が良いのか、そこで静かに揺らめいているだけの魂たち。

 ――この中に、町の治安維持に関わりたい者はいるか?

 呼びかけてみれば、そのうち1つが静かにエーテルを放ち始めるではないか。


「じゃあ、おいで」

 それらはすでにタツキの支配下にあるため、反応を示した1つを、ダンジョン内のモンスターの配置を変える要領で、己が眼前に転移させる。


「――ああ、あのとき死霊術師ネクロマンサーの爺様に託されてたやつか」

 ゆらゆらと揺らめきながら輝く紫の星。

 ロベルトとウォルフも納得の表情となる。


 そして、星は――何者かの魂は、ゆっくり《黒砦大将軍ブラックジェネラル》に近づき、

「いいよ。そいつに入って、部下を指揮して、この街の治安を守ってくれ」

その胸の中心に吸い込まれるように消えた。


「うぉ、まぶしいっ!?」

 そして、一拍ののちに、橙色に脈動し、タツキのエリキシルを消費しながら融合、改変、再構築が始まる。

 漆黒の鎧を纏った漆黒のシルエットが、オレンジ色に発光する飴細工のようになったかと思えば、グネグネと、その輪郭を失って新たな形を作り始める。


「お屋形様――」

 ほどなくしてそれは最初の言葉――やや古風な――を発し、

「へ? お屋形様?」

新たな姿かたちを定めたことで、エリキシルの、創造創成の輝きはその役割を終える。


「――どうか、この私めに、名をお与えください」」

「お、おお?」

「女…、の子…?」

「ダンナ…、大将軍、どこやった?」


 発光がおさまり、その輪郭が明らかになった時、そこにいたのはモンスターなどではなく、

「サムライガール? なんで!?」

タツキの、概念の壁すらぶち破って、《サムライ》と認識するより他ない、刀と羽織袴の女の子だった。


***


 白く、みずみずしい肌と、長く真っすぐな、濡れ羽の黒髪。

 比喩のとおり、つややかで美しく、しかし、完全な黒髪ではないようで深い赤を含有している。そして、髪色と同じ、深緋の瞳と深紅の唇。歳の頃、10代半ばから後半の、触れると斬れてしまいそうな美少女が、刀を佩き羽織袴の姿で、そこに跪いている。


「お屋形様」

 驚愕に固まるタツキたちに、

「どうか、名づけを」

彼女は再び請願する。


「ええと、じゃあ、――クロベニ?」

 その願いに対し、タツキは悩むことなく、彼女の真っすぐで、長く艶やかな髪の色で答える。黒砦シリーズは、脳内でクロスケと呼んでいたので、その残留成分が含まれている疑いは否定できないが。


「クロ…ベニ…」

 少女は恐る恐るその音を自らの口に乗せ、そっと、己の長い髪に手をやり、

「クロベニ」

そして、嬉しそうににっこりとほほ笑んだ。


「お屋形様。私クロベニは、今よりあなた様のものです。どうか、この魂、御心のままに使い潰してください」

「あああ、重い、重いって」


 感極まった声で宣言し、地に額をこすりつけんばかりに平伏するクロベニにタツキは閉口する。


「じゃあさ、最初のお願いを聞いてくれるか?」

「はい。お屋形様。何なりと」

 彼女は居住まいをただし、刀の位置を整える。


「そんなに畏まらなくていいって」

 ごめんよ、戦闘事じゃないんだよ。

 と、タツキはそんなクロベニに、どことなく脳筋要素を感じ取り――カミューと相性がいいかもしれない――先に謝っておく。


 なにせタツキは疑問で一杯なのだ。

 おそらくロベルトもウォルフもそうだろう。


 《将》を作る、と死霊術師ネクロマンサーの爺さんに託された星、――すなわち、あの時生き返る術のなかった魂は、将ではなく《サムライガール》になってしまったのだから。


「まずは、クロベニ、君のことが知りたい。分かる範囲で良いから教えて欲しいんだ」

 クロベニの白い頬にさっと朱がさし、

「は、はい! お屋形様。何でもお聞きになってください!」

真っすぐな瞳でタツキを見る。

「じゃ、じゃあ、ま、立ち話もなんだから――」


 椅子を4脚出して、テーブル、はなぜか褒章一覧にないので、建造物パーツの円柱を部分構築することで代用し、その上に、ダンジョンマスター印の水と、褒章の高級茶葉と、お茶うけに謎の栄養バーを出す。


「――少し早いけどおやつの時間ということで」

 こうして、新入りクロベニと古参男子3名の圧迫面接、もとい、ダンジョンタウンの端でのティーパーティーが始まったのだった。



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