70:町の衛兵候補を、ダンジョンマスターは呼び出す
ニフヌ大湖に小さな半島のように突き出た土地の、まさに突端。
そこから、岸壁に刻まれた細い階段を下ること、一般的な建造物にして約4階分。陽光に美しくきらめく、青い湖面とほぼ同じ高さに、タツキのダンジョン入口は在る。
この使い勝手の悪い、――良く言えば敵に攻められ辛く、ついでに魚釣りもできたりする玄関口をくぐれば、そこはダンジョン1階層。
装飾パーツ《水晶》が、外界の陽光をふんだんに取り込む《水晶の広場》である。
ダンジョンマスターの謎技術によって、こんこんと枯れない水が湧き出る装飾《噴水》を中心に、床パーツ《石畳》を用いた道路が十字に敷設されており、タツキたちは十字の中央・上下・左右で、町の機能をざっくりと分けている。
「十字の中央」は、多くの人が集う憩いの場。
現在はトーマスの商館と、サツキの薬局が建っており、ゆくゆくは商店街とする予定だ。
次いで、現在の入り口側である「十字の下」は、最も天井が高く、3階建ての集合住宅と、24時間、いつでもかけ流しのお湯が供給される公衆浴場が存在する。湖の下をくぐるワナジーマへの直通ルートもこの区画に存在するため、旅人たちの宿場街としての機能も期待できそうだ。
そして左右は、どちらも生産区画だ。
「十字の右」には、ついさっき建築した鉱石用の倉庫のみがあり、さっそく喚びだされたグノーメたちが、収集してきた放置鉱石を分類しながら格納している。
将来的には、これらの素材を扱える技術者を呼んで「モノづくりの区画」としたい。
他方「十字の左」は、サツキ印のポーションで、芋がもさもさ生えてきた畑と、粗末な木製の柵で囲われた鶏型モンスター飼育施設を有する農業区画だ。ダンジョンタウンの食は、将来的には《ダンジョンマスターの栄養バー》に代わって、ここでの収穫物と、湖での漁、そして森での狩猟の成果によって、より豊かになっていく予定なのだ。
「じゃ、サクッと衛兵役のモンスターを決めて、新たに正面玄関を作るとしますか」
そして最後に、新たな入り口となる「十字の上方」、天井の最も低くなる部分には、この町の玄関口として行政区を設け、戸籍管理や納税、衛兵の詰め所などを作っていくこととした。
「「「異議なし!」」」
***
記念すべき第1回目の町内会――という名の会食を終え、面々はサツキの薬局《五月堂》の地下倉庫から、店舗カウンター裏を通って外(と言ってもダンジョン内だが)に出る。
タツキたちの生活スペースや、ダンジョンコアたるエリキシル容器に続く下層への階段は、今後の防衛上の観点からそちらに移設したのだ。
『おにいのSランクモンスターを店番に置いとけばいいのよ』
とは、サツキの言である。
『腐ってない、できればイケメンがいいな』
という追加注文まで頂いている。どちらかと言えば、この追加注文のほうに大きな熱量がある気がしてならない。
「いやぁ、おいしかったです。ごちそうさまでした!」
「坊っちゃんの出してくださる焼き菓子のようなメシもいいのですが、やっぱりほかのものも食べたくなりますね。おかげで仲間にも芋を食わせてやれそうです!」
一瞬でできた芋畑に勤労意欲を刺激され、「次はあの種植えてみようぜ」と、畑面積を拡張しに戻る農業組。
「坊っちゃん、次は魚料理で頼む。新鮮な奴を土産にもっていくからな」
他方、すっかり胃袋をサツキに掴まれてしまった感のある元お頭で、現町会長(先ほど任命)のヴォルドガング率いる漁業組に別れを告げ、ダンジョンチームはさっそく入り口を作るための現地調査にのりだすのだ。
「いってらっしゃーい」
「気を付けてね」
なお、4人の女性陣は薬局《五月堂》の開店準備、という名のガールズトークをするらしく、正面玄関構築部隊はタツキ、ロベルト、ウォルフの野郎組である。
「ダンナ、やっぱりこっちが入り口で正解だ」
「確かに、天井が低いと気持ちが沈むね」
中央広場から歩くこと15分程度。一行は「今の入り口」から見ての終端、新しい入り口建設予定地に到着する。
「この…、頭上に、圧迫感を…感じ始めるあたりから……外とつなげて…しまいましょう」
骸骨祈祷師で純情青年のウォルフが、少し背伸びをし、魔術の発動体と思しき短杖で天井岩盤をコツコツと叩く。
「で、衛兵なんだが、黒砦シリーズで十分じゃねーかな」
平時ゆえ重い板金鎧は着ていないが、両手剣はしっかりと背負っているロベルトが防衛問題に対する案を出す。
「え~? あいつらギースさんに鎧袖一触されてなかった?」
一方のタツキは、黒砦はやられ役であるといったイメージがぬぐい切れていない。
なにせ、どこぞの二刀流で悪食で酒好きのおっさんが、一瞬で10体以上の《黒砦兵》を蹂躙したのだから。
ちなみに、ワナジーマ戦役も終わり、タツキと行動を共にする理由のなくなったギースとルイーゼは、泣く泣くクワナズーマに帰っていった。まぁ、泣いていたのはギースだけであったが。
大の大人が「働きたくないでござる(意訳)」等駄々をこねるので、労働者の悲哀を知る者として餞別に酒樽をいくつか提供してやった。今後何かあったら便宜を図ってくれるに違いない。
「あー。おやっさんは変態の類だからノーカンで」
「黒砦…は、通常、…中堅冒険者が……パーティーを組んで…挑む相手です……」
変態かぁ――。そうか。変態ならしょうがないな。
深く納得したタツキは脳内でスキルツリーを展開。
「じゃ、せっかくだから部隊っぽくして召喚するか」
そしてオレンジの召喚陣が複数閃き、黒の兵士たちを次々と生み出してゆく。
それらは、盾持ちの兵士《黒砦兵》、杖持ちの術師《黒砦魔兵》、最後に統率者たる《黒砦大将軍》である。
「…旦那、どこかの都市でも攻め滅ぼすつもりっすか」
「前回、黒砦兵10体でギース無双されたから、今回は兵10体に魔兵10体、統率者1体って感じで」
「…だ、大将軍は…、王都の…《魔神窟》深部で……目撃証言のあった…Aランク…上位…」
「うん。大は小を兼ねるということで」
強いは弱いよりもよかろうなのだ。
と、豪奢な鎧を纏いながらも、俊敏な動作を予想させる鋭利なシルエットを持つ《黒砦大将軍》を、タツキは満足そうに見るのだった。
「まぁ、ダンナも変態の類だからな」
「そう…ですね…」
――という、2人の会話は聞こえないふりをして。




