幕間のダンジョンマスター2
トラップパーツ《灼熱の床》があちらこちらでせりあがり、マッドボアやケイオスブルなど、獣系モンスターの絶叫が響くここは、恐怖のダンジョン空間である…、なんてことはなく、ワナジーマの慰霊祭――もはや慰める霊はすべて復活してしまったので、ただの大宴会、その後半の部「大焼肉大会」会場である。
「おらー、お前ら、解体手伝えーっ! 手伝ったやつらは自分が食いたいとこ持ってっていいぞーっ」
「はぁい、ブロックになったお肉はぁ、このお化けに渡してねぇ。あっという間に熟成されておいしくなるわよぉ」
そして、黒髪美人な誰かさんも、参加が当たり前であるかのように、しれっと混じりこんでおられる。彼女の隣にぼんやりと立つ肉熟成担当者(?)はレイスか何かであろうか? そして、平然とレイスに肉を渡して、嬉しそうにお礼を言うワナジーマの民は、もしかして、適応力がめちゃくちゃ高いのだろうか?
レイスも、大勢に感謝されてどことなく嬉しそうに見える。
「あらぁ、カータヴェル様ぁ、モツ系はいけませんわぁ。それらは鮮度が命ですから、こちらの、タツキさんのスライムでしっかりと下処理をされてくださいねぇ」
さらにはカータヴェル(若い版)も血濡れの心臓を大事そうに両手で抱え、肉熟成処理の列に並んでいたりする。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「世界が**ってるわ」
「ああ。…BBQってやつは、世界を平和にするんだな」
前世持ちの2人は、当然解体などできるはずもなく、楽しそうにモンスターを解体していく住民たちを眺めながら、ちびちびと酒を舐めなめる。
サツキの出した薬酒は**酒のような味がしてなかなかに美味い。
ちなみに、サツキに干し肉をねだっていた双子は、
「あー、ピチピチのおにくきたー」「ぷりぷりなおにくきたー」
と言って、振り返ることすらなく、あっという間にいなくなってしまったそうだ。
「あ~も~、あの双子はっ。どうせ私はカサカサの干物女ですよっ!」
「ええと、サツキは――」
ぷりぷりと思い出し怒りをするサツキにタツキは尋ねる。
「――前世の記憶があるのかい?」
「え? そりゃ、あるでしょ。でも、夢の記憶のように、部分的にしか残ってないというか」
「……じゃあ、俺のことも覚えているのか?」
と、おっかなびっくり聞いてみると、ぼむっと顔を赤くする。
「ええと、そのことなのですが」
えいや、と景気づけなのか、薬酒の杯を空けて、サツキはおどおどと説明を始める。
外見年齢10代前半、タツキと2人で並べば妹率90%強の彼女だが、実に堂に入った酒の飲み方をする。まぁ、干物がどうとか言ってる感じ、中身はそれなりの年齢、ということなのだろう。恐ろしくて聞けないが。
「実は…、ですね」
そんな彼女が、なぜか丁寧語で、そして時折上目遣いで説明してくれたことは以下のとおりであった。
曰くタツキのことは、お兄ちゃんっぽい。お兄ちゃんに違いない。多分きっと、お兄ちゃんだろう。といった感じの「推定お兄ちゃん」とのこと。そして、今の所は、タツキは本当の兄ではない可能性もあるが「お兄ちゃん」と呼ぶのが一番しっくり来るのだそうだ。
「と、いうわけで、私にお兄ちゃんがいたことは確かなんだけど、そのあたりの記憶はもう曖昧で」
「うーん」
空になったサツキの杯に薬酒を注ぎ直し、自分もチビリとなめながらタツキもつぶやく。
「ダンジョンマスターの本能ってヤツが、そのへんに上書きされてる気がしてならない」
「あー、それ分かるよお兄ちゃん」
そして、タツキの場合は万魔殿関連の能力がデカすぎて概念部分をも侵食していると仮定している。
「でも、その兄貴の思い出が、サツキをサツキに戻したんだから、いい兄ちゃんだったんだろう」
「それは、そうだね」
サツキはタツキに注いでもらった杯を舐め、
「うん、あいつのためにも、いいお兄ちゃんだった、ってことにしとく」
と、笑う。
「それで、こっちの素敵なお兄ちゃんは、どうやって我に返ったの?」
「え、あ、ああ」
不意打ちの形容詞と笑顔にやられる。
頬を染め、こてりと首をかしげる様は破壊力がデカい。
「ほ、ほら、ちょうどいいタイミングで、ダンジョンマスターの生贄に捧げられたチェリが激突してきてたんだよ」
としか説明しようがないので、そのまま正直に答える。
「げきとつ?」
「ああ。上から、ドスンと俺に落ちてきた。で、2人でモガモガしているうちに、我に返っていたんだ」
残念ながら、それ以上説明のしようがない。
「えー!?」
うん、そりゃまぁ呆れるよね。
とタツキは思ったが、サツキのお目々はキラキラしていて、なんか思った反応と違う。
「「それ、なんてラブコメ!?」」
そして、同方向の反応がかぶる。
「カオルコさん!?」
「それでぇ、それでぇ? それからどうしたのぉ? お姉さん、すっごく気になる!」
「えっ!? え、ええと、その、それからいろいろあって今に至るというかなんというか」
オッサンメンタルに恋話などできるはずもなく。
しどろもどろに答えるタツキに、カオルコはそのターコイズブルーの爪をあごの先に当ててしばし黙考したのち、
「ふーん。じゃぁ、チェリちゃんに聞いちゃおうっと」
「あわわわわっ」
いつの間に仲良くなったのか、ただ単に、食欲に忠実に従った結果だったのか、2人と行動を共にしていた、お肉をたくさん運搬中の肉食少女にターゲットをチェンジした。
「え、ええとねぇ、あのねぇ」
「ふんふん」
「まぁ」
「それでねぇ」
「あらあら」
「タツキ様ったら」
「きゃー」
「お兄ちゃん、やるぅ」
「えへへー」
チェリとカオルコ、そして、彼女のオーラ的な何かにおっかなびっくりだったサツキまでもが連れ立って別席に行ってしまい、ガールズトークに花を咲かせ始めるではないか。
「ええ、っていうか、わらわらなんか集まってきた!?」
そこに、エルローネにルイーゼに、ダリアさんたちを伴ってカミューたちが。ついでに大道芸人のようにお肉満載の皿をありえない枚数抱えた双子たちまでもが合流。
「ああ、もう、灼熱床拡張して椅子いっぱい出しとくよー」
元席には甲斐甲斐しく世話を焼くダンジョンマスターと、
「かっかっかっ。気配りができすぎると便利に使われてしまうぞ」
大事そうに持ってきた心臓を、切り分け焼いていくカータヴェルだけが残される。
「ふむ。では、我らはこちらだな。タツキ殿、すまんが宴会場の拡張を」
「坊っちゃん殿、ついでに新しい酒を出してくれ」
「旦那、キンキンに冷えたやつで!」
「すばらしいっ! このダンジョン牛はまだ食べたことがありません! ああ、私には果実ジュースをっ!」
そして、こちらもどこから湧いてきたのか、集まってきた男性陣にも顎で使われるダンジョンマスター。
ほれみろ的な表情で、うまそうにハツを食うカータヴェル。まだまだレアっぽいのだが、ヴァンパイア的にはその辺りが最高なのだろうか?
「万魔殿よ、儂はワインだ。血のように赤い奴を所望する」
「あいあいさー」
そして酒がいきわたり、
「では改めて――」
「「「乾杯っ!!」」」
ゲオルグの発声で、女子会及び野郎2次会の火ぶたが切って落とされるのだった。




