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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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66:祝祭生み出すダンジョンマスター

 ダンジョンマスターの基本的な魔技アーツには、《ユニット視点》と《ユニット憑依》が存在する。その事実から、いかなるユニットも自我を有する「個」ではなく、他者の意思を受け入れる「器」の性質を持っているのだろうと、タツキは考えたのだ。


 ただ、問題は、夜空に浮かぶ魂の、その「個」にふさわしい「器」を、どうやって選択するのか、ということだ。普通に喚ぶだけでは、何かが足りないだろうというのが、今のタツキの直観である。


 ぱちぱちと、炎の燃える音がする。

 城から食料や酒がふるまわれ始め、あちらこちらで歓声が上がり始める。

 同時に嗚咽やすすり泣き、死者を悼む昔語りも、風に乗って漏れ聞こえてくる。


「気が重いけど、直接聞くしかないんだろうな」

 タツキは足下に広がるダンジョンを静かに操作して、彼らの足元の地面もダンジョンパーツ《石畳》へと置換してゆく。


 タツキを中心に、オレンジ色の燐光が、ブロック状に、らせん状に地面を走り抜けてゆく。なんだろう? と、意識を向ける者もいれば、飲み食いに夢中で全く気づかない者もいる。楽しそうに燐光を追いかけて、走り回る子どもたちの姿も見える。


 様々な喜怒哀楽を、今度はダイレクトに受け取ったタツキは、たしかに30を超える、探していた思いの発信源を特定した。


 どこから行くべきだろうか。

 そして、行くことで本当に解決できるのだろうか。

 更には、解決することは、果たして正しい道なのだろうか。


 今や、超越者が如くの権能を有するタツキだが、中身は今も、ただの一般人である。


 幾多の経験で一皮むけた部分もないわけではないが、やはり、立ち止まり、逡巡してしまう事のほうが多いといえよう。


 だけど。


「タツキ様、一緒に行こっ」

「…ああ。頼むよ、チェリ」

 大切な人と一緒なら、不思議と足は前に出るのだ。


***


 力いっぱいに、天まで届けと泣いている女児がいる。

 その女児を胸に抱き、静かに肩を震わせる女性がいる。


 押し寄せる、純粋で、身を斬るほどの悲しみのエリキシルに耐えながらも「どんなお父さんだったの?」と、タツキは尋ねてみる。

 

 嗚咽とともに紡がれる父との思い出。

 語り、吐き出すことで確かに形作られていく、今は亡き父のイメージ。


 しかし、足りない。

 まだ、何かが。

 

「ぐすっ、パパに怒ってやんなくちゃね」

 もらい泣きでダバダバと涙を流すチェリが、女児の手を取って憤っている。

「ひっく、なんで置いてったのって、戻ってきてよって」

 

 そして、その女児の手に、当たり前のようにタツキの手も重ねてしまったのは、偶然か必然か。


「え?」

 突如として流れ込む、鮮やかなイメージの奔流。

 タツキの中で存在感をもって構築されていく、女児と、女児を抱く女性の記憶。


「パパのばかーっ! なんで置いていくのよっ! 戻ってきてよっ、大好きだよっ!!」


 召喚

 >ユニット≫神族≫人種≫

 操作など、意識していないのに、ツリーが自動展開されていく。


  ・ドワーフ

  ・エルフ

  ・ブラウニー

  ・獣人(系統選択可能)

  ・$%&'()*+,-./:;<=

  ・t@b5ia5yhu

  ・繝代ャ繝医↓縺

  ・#$%&’()*


 ぱらぱらと、既存のユニットを意味ごと置き去って、深く深く深く、展開するツリーは制御不能な深度に潜ってゆく。もはやタツキの脳裏は、銀色の不可読な文字に埋め尽くされている。これが緑色だったなら、まさにあの**のワンシーンだ。


「お願いだから、戻ってきて、パパ」


  ・rtf3yun9

  ・a;,croguq@5 u

  ・ニコラウス


 そして、タツキの脳裏に、可読文字が映り込み行き過ぎる――のを、気合と根性、としか表現できない謎の力で押し留める。


「――お前かこの野郎っ!」

 女児とチェリの、無垢な怒りに感化されたのか。

「戻ってきやがれっ!!」

 タツキも怒鳴った。

 こんなに思われてるお前は、死んでる場合じゃないだろ、と。


 そして。

 キンッ!

 と、いつもの見慣れた召喚陣と、鮮やかなオレンジ色のエフェクトの中心に、紫の星が吸い込まれて渦を巻く。

 

「――っ、…俺は、戦場にいたはずなんだが? お前たち、どうしたんだ? そんなに泣いて」


***



 その日、ワナジーマ防衛戦の戦死者は32名と記録されていた。


 この表記をどうするか。

 悩みに悩んだ当時の筆頭文官オーラスは、1周回って吹っ切れて「あの御仁のかかわることだから」と、一行書き加えることで、帳尻を合わせてしまったそうだ。


 戦死者32名。

 ――されど、帰還者32名。


 以降この日は、祭りにつられて《銀の船》が寄り道をした日として語り継がれることになる。


 そして、**の夏のお*のように、毎年、死者が帰ってくる日として。「今年も《銀の船》が寄り道してくれますように」と祈る、盛大な「大寄港祭ポートコールフェス」を開催する伝統が生まれるのだった。


読んでくださってありがとうございます。これで3章終わりです。

数話、入れることのできなかったエピソードを幕間として挟む予定です。

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