表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/99

65:星託されるダンジョンマスター

 ゲオルグの勝利宣言。

 その舞台を居城ヴァルハジーマ城前広場としたこと。


 タツキが作った空間でそれを行うことを良しとしなかったのは、辺境伯としての矜持故か。はたまた、これから行われる祭事の性質ゆえか。


 場にはこの戦いで命を落とした者たちが、この短時間で集められるだけ集められ、木製の櫓が設けられ、火葬の準備が整えられていた。


「民よ! ワナジーマの者たちよ!」

 ゲオルグが吠える。

「今、我々は焼け落ちた故郷を前に、深い悲しみと疲労に打ちひしがれているだろう」

 完全に日が落ちた城下に広がるは、暗闇の所々に赤い炎がくすぶる、負け戦のような光景。


「だが、顔を上げ、見よ! 我々は生き延びたのだ! 炎と死の波が城壁を乗り越えようとした時、貴様らは臆することなく、自らの町を守るため、故郷を燃やすという苦渋の決断を下した! 戦う者たちは剣を取り、戦えぬ者たちは互いを支え、この城へと避難した! 貴様らの勇気と団結が、このワナジーマの魂を守り抜いたのだ!」


 ゲオルグが突き上げる拳。

 応! と、近衛が応え、その相槌が「おおおおおっ!」と雄たけびとなって広場に広がっていく。 


「しかし、我々だけではこの危機を乗り越えることはできなかった。迫り来る死者の大群を前に、我々は打ちひしがれ、希望の光は潰えようとしていた。その時だ。思いもよらぬ援軍が、深き闇の底から現れた」

 深き闇の底。

 その表現に、カミューがやや顔色を陰らせる。地獄の暴走絨毯を思い出しているに違いない。


「クワナズーマの冒険者ギルド、ギース殿とルイーゼ殿。彼らが率いる精鋭の冒険者たちだ。彼らは獅子奮迅の活躍を見せ、我々を助けてくれた!」

 トーマスと従者のリクとクウは冒険者枠なのだろうか。

 まだゆっくりと説明していないため、彼の認識のうちではそうなのかもしれない、とタツキは考える。


「そして――。我らが長きにわたり、世界の敵と見なしてきた存在、『ダンジョンマスター』。彼が、ワナジーマを救うため、その強大な力を振るってくれたのだ!」

 ――あれ、俺? うそ、ちゃんと評価されてる!?

 あの娘大好きパパの180度の転身に、タツキはわが耳を疑う。


「最初は信じられなかった。私自身も、迷いがあった。だが、彼の力は疑いようもない。ワナジーマの町は確かに犠牲になった。しかし、貴様らの足下を見よ! 新たな領地が、新たな生活の場が、この地下に広がっているではないか! ダンジョンマスター、タツキ殿は、我々が暮らす新たな場所を作り上げてくれたのだ」

 むずがゆくって仕方ない。

 仕方ないむずがゆさに加えて、左右からどすどすと肘うちが来るのだからたまらない。

 左からチェリが、これは単にうれしくて、えい、えい、としているだけだと思われる(彼女から漏れ出るエリキシル談)。そして右からはカミューが。こちらは「今だ、早くガツンしろ! 新しいでっかいのを建てて皆の度肝を抜くんだっ」とか言っているに違いない。


 ――いや、ここでガツンすると、パパンの見せ場を奪っちゃうから待とうね。

 と、**会系で、チェリのえい、えい、の5倍くらい痛い、カミューの肘うちどすどすにタツキは耐える。


「民よ! 我々ワナジーマの民は、王家の穢を一身に集め、この辺境の地で生き抜いてきた。故に、我々は異質なものを受け入れ、共に歩むことを知っている。その精神が、今、我々を救ったのだ!」


 そして、演説は佳境に入る。


「もう一度言おう! 貴様らは、ワナジーマの民として、異形を受け入れ、共に生きる者たちだ。私は貴様らの、その寛容を誇りに思う」


 2度、繰り返されたこのフレーズ。

 それは、ゲオルグ自身のための必要な儀式であったか。


「今日からワナジーマは、新たな道を歩む。我々は、この地下空間を都市の中心とし、ワナジーマを再建する! 傷は深い。だが、我々には希望がある! ダンジョンマスター、タツキ殿の協力のもと、我々はより強く、より豊かなワナジーマを築き上げるだろう!」


 この瞬間ゲオルグは、タツキに、そして、その左右に陣取る、一切の穢れなき笑顔を見せる《穢れ》たちに視線を送った。

 その表情は、初めて彼と相対した時と比べれば、圧倒的に晴れやかだ。


 そして、その澄み切っているであろう心のままに、彼は高らかに吠えたのだ。


「貴様らの力を貸してくれ! 苦難を乗り越え、共に未来を切り開こうではないか! ワナジーマに栄光あれ!」


「「「栄光あれっ!!」」」


 日の落ちたヴァルハジーマ城前広場を、希望に満ちた大音声が包み込んだ。


***



「さぁ、我々の命と歴史をつないでくれた、偉大な英雄たちを空に送ろうではないか」


 演説を終えたゲオルグが、松明を手に簡易な火葬場となった一角へと足を向ける。

 そこに横たえられた者たち。炎が彼らを天に還すまで、彼らを囲んで飲めや歌えの大騒ぎをする。それが辺境流の弔いである、とカミューがタツキに教える。


 都市主要部が焼け落ちる規模の戦いであった一方で、人的被害は奇跡的少数。そう、言っていいのかもしれないが、少なくない者たちの命が失われた。


 コツコツと、軍靴を響かせながら歩むゲオルグが、タツキたちダンジョンチームの前で一礼をして、行き過ぎる。

 それは特に定められた行為ではなかったのに、一拍の後に彼の家臣が、そして多くの民たちがゲオルグ倣っていく。


「ふむ、見事じゃ。小さくはあるが、今、確実に世界は変革した」


 枯れ木か、はたまた焼け残った死体の一つか。

 周囲からその程度の認知度で捨て置かれていたカータヴェルが、突如としてその異様な存在感を顕とする。


「おい爺さん、急にどうしたんだ?」

 しかし、害意や敵意が微塵も感じられないため、問いかけるギースの声音も穏やかだ。


「ここに、32と8の魂がある。儂は32を引き渡すために、8については頼み事とするために、事の顛末を見届けておったのだよ」

 そして「風呂と酒のご相伴に預かれたのは望外の幸運であったのぉ」と付け加える。


「魂?」

 ふいに老人の背後に、満天の星を背負った青黒い夜空に、更に大きな40の輝きが追加される。


「綺麗…」

「吸い込まれそうになります」

「ああっ、脅威度判定をしたいっ! きっと見たことのない値がっ!! だがしかしっ!?」

「やめてよねー」「おしごとふえるよねー」


 揺らめき、渦巻き、さざめく光の集合体。

 恐ろしく細かな光の粒が集まって、大きな光になっているような、その粒のひとつひとつが、互いに密に繋がり合って情報をやり取りしているような。それらは、圧倒的な存在感を放っているのに、とらえどころのない、とても不可思議な存在だった。


魂縛ソウルバインド。これはカオルコの専用魔技オリジナルの効果でな」


 星より大きく、複雑に、そして奇妙に明滅する40の光球を従えて、カータヴェルはヒタヒタと、松明を、死者が横たえられた木製の櫓に焚べんとするゲオルグの方向に――、いや、

「…俺?」

「そう。引き渡しには、お主の御技が必要なのじゃよ」

タツキの眼前で立ち止まる。


「お主は神系ダンジョンのユニットさえも召喚できる。そうであろう? 万魔殿パンデモニウムよ」

「え? ダンジョンマスターなら誰でもできるんじゃ? やろうと思わないだけで」

 それはあの時、初めて《ダンジョンマスターの本能》を覗いた時、直感的に感じた事柄であったが。


「少なくとも、カオルコにはできぬそうじゃ」

「え? ――じゃぁ、サツキは?」

「だから、腐ったのしか出せないって。骨とか、ゴーストとかも出そうと思えば出せるけど、コスパ最悪だよ」

 いつの間にかエルローネに後ろから抱きすくめられているサツキが、ぷぅ、とほっぺたを膨らませる。


 ツリー自体が選択できないってことか? と、タツキはちら、とダンジョンマスターの本能に問い合わせ、


 >ユニット≫神族


そこに格納されている、カータヴェルが指摘した1族3種のうち、これであろうと思しき種を展開する。


 神族

 ≫御種

 ≫使種

 ≫人種

  ・ドワーフ

  ・エルフ

  ・ブラウニー

  ・獣人(系統選択可能)


「まったく、何のゲームだよ…って、あの時つぶやいてたっけ」

「ふに?」

 無意識プレッシャーを感じているのか、タツキは、あの時は、酔いつぶれて隣で寝ていた少女の髪をモフモフする。


「それっぽいユニットが出てきてさ、エルフだったら魔法を使ったり、ドワーフだったら道具を作ったり、獣人だったらその身体能力で侵入者をやっつけたりするのだと思ってたんだけどなぁ」


 じっと見つめていると、不思議な郷愁が喚起される光球。それを魔技アーツが縛った「魂」と呼ぶのなら。そして、わざわざ神系ダンジョンユニットを指定してきたのなら。


 タツキはカータヴェルの、その落ちくぼんだ、しかし、黄金色に輝く、生命力に満ち溢れた目を見て問いかける。

「器にできる、という理解でいいんだな?」


 タツキの能力を、覗き見ることのできない面々も、「神」なる単語から、そして、揺らめき漂う40の星から、おぼろげながらにこの先を思い描いたようだ。

 真摯な面持ちで押し黙っている。


「かっかっか、タツキよ、お主は出来の良い生徒のようじゃな」

 奇しくもそのカータヴェルの哄笑と、


「ワナジーマの民よっ! これより宴を開始する。英霊たちを空へと送るのだっ!!」

 ゲオルグの宣言、そして櫓への着火は同時。


 その瞬間。


 闇夜に赤い花が咲き、悲喜交交の感情を乗せた声がこだまし、爆発的に、幾多の思いが交差した。


 多くは、タツキのダンジョンに吸われてしまうのだが、その一部は捕らわれることなく、たしかに空へと還っていったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ