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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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64:復興夢見るダンジョンマスター

 もちもちぴかぴかとぅるんとぅるん。

 年頃の娘から妙齢の奥様方までの視線を一手に集めているのが湯上がりトーマスである。

 どうも、夢喰らいバクの唾液には美肌成分が豊富に含まれていたらしい。


「タツキ殿!! これもぜひ、私、お抱え商人トーマスの新しい商品にさせてくださいっ! 美容液として販売しましょうっ!」

 瘴気チックなエリキシルが綺麗サッパリ無くなったトーマスが興奮気味に詰め寄る。

「ま、まぁいいけど、安全性とかちゃんと検証してからだぞ」


 ついさっきまで、**座りでプルプルしながら「もうお婿に行けません」等とのたまっていたので、ちょっとばかり悪いことをしたかなぁと思ったが、さすがは商人。転んでもただでは起きない気構えを持っている。


「なんだか人が増えてきたな。少し拡張するか?」

 一方で、いまだ***銭湯1棟のみが建っている、このただっぴろい地下空間だが、人口流入が止まらない。


 あの時あの場にいた、焼け出されてしまった人たちに対しては、十分な規模で構築したつもりだったのだが、うわさを聞き付け、被害を免れた地区の住人達もやってきたのだろう。田舎の城塞都市とはいえ、小規模ながらラコウ交易の玄関口の1つ。総人口は少なくないようだ。


「ならいっそ、この空間そのものを、ワナジーマの目玉になるような観光施設としようかな」

 全員収容が無理ならば、より多くの人たちが楽しめるランドマークにすればいい。


 タツキは****銭湯だったものを、簡易宿泊機能もこちらに集約した、温泉旅館規模に再構築すべく、内部デザインをダンジョンマスターの本能内で試算、構築準備を開始する。


「タツキ。この後、父上が勝利宣言をされるそうだぞ」

 そんなタツキの隣に、湯上りのカミューがすっと滑り込んできた。


「あとは、城の食糧庫を開放しての慰霊祭になるのが戦後の恒例だから、その辺りのタイミングでガツンと建て直してはどうだ? タツキの能力を皆に知らしめるいい機会になる」

 そしてふんす、っと「私いいこと言った」的なオーラを出して、胸を張るのがなんとも可愛らしい。


 ついでに視線が時々、もちもちお肌となったトーマスに吸い寄せられていたりするのは、剣術に傾倒していても女子なのだなぁと、メンタルおっさんなタツキが勝手に思うところである。


 翻ってこちらは。

「なんですかこれ!?」

 ぷにぶに。

「え、あの、ちょっと」

「ちょっと! どうなってるんですか、これ!?」

 もちもち。

「お客様、ああ、お客様、お触りはいけません、お客様!?」

 ぽむんぽむん。


 あのトーマスをしてドン引きさせているのが、幼少よりキースの薫陶を受けて育ったお姉さん、ルイーゼである。

 トーマスのほっぺたや手の甲を入念に、ねっとりと観察している。


「これはもしかして、あの湯こそが、女冒険者の間で噂の美肌の湯だったのですか!? 私も美肌になっていたりしますか!?」

 ルイーゼのお肌はいい感じに真っ赤である。もしかしなくとも酔っ払いモードであり、絡まれる素面のトーマスはたじたじだ。


「なるほど、温泉旅館に美肌の湯、か」

 どんな噂が流れているのかは知らないが、実現できればワナジーマ復興の良い材料になるのではないだろうか。


 タイムリーなことに、不死系ダンジョンの褒章は薬品系に優れると聞く。サツキと話ができるようになったら、一緒に研究してみるのも悪くない。

 材料さえあれば、ルートとウォルフのインテリカップルが***…、もとい、美肌温泉の素くらいは作ってくれるのではなかろうか。


 タツキは、そんなことを考えながら、着々と勝利宣言とやらの準備をするワナジーマ警備隊一同を眺めるのだった。


***


「到着です! どーん」

「どーん」

「え、ええと、どーん?」


 まもなく式典が行われるということで、タツキが手配したフライングマンタがお客様を乗せて地下空間に到着する。もちろん乗ってきたのはお留守番部隊の面々だ。


 効果音を自給自足して、一番に降り立ったのがチェリで、それに続いたのが、いい感じに我々に染まりつつあるエルローネ(恐らく酒入り)。疑問形なのがサツキである。


 その後、

「はい、お兄さん、ここは男子が先に降りて、女子をエスコートする場面」

「は…はい。ルート…さん、その…、どうぞ…」

 殿方としての階段、とやらを登り損ねたウォルフが、おっかなびっくり、赤いスケルトンと化しつつルートをマンタからおろして、ダンジョンチーム再集結完了である。


「チェリ、ありがとな。そして、サツキ」

 タツキはぶんぶん降られる尻尾を幻視しながら、チェリの頭をなでなでポンポンして、復活したサツキと向き合う。


「顔色は随分と良くなったけど、もう大丈夫なのか?」

「うん。単に、こき使われて衰弱してただけだから、ご飯食べて寝て、ポーションでも飲んでおけば全快よ」

 隷属生活の汚れを落とし、明るく笑う彼女は、エルローネが整えてくれたショートヘアがよく似合う、快活な印象のある少女だった。


「そっか。ま、何にせよ病み上がりだから座ってればいいさ」

 そう言って、タツキはすでにお風呂の脱衣場や待合室でおなじみの籐椅子を1脚クリエイトする。

「ありがとう、お兄ちゃん。さすが魔系のダンジョンマスターね。私が出せるのはポーションばっかりだから羨ましいな。モンスターだって腐ったのしか呼べないし。あーあ。前世が腐女子だったからバチが当たったのかなぁ」

「え? あ、お、うん?」


 何やらツッコミどころ満載なセリフだ。

 腐女子がマスクされないのは、それに準ずる概念がこの世界にもあるということで――

「タツキくん、どうして私の方見るの? その顔、もしかして、なにか失礼なこと考えてない?」


 反射的にチラ見しただけなのにルイーゼが、しっかりとその意味アイコンタクトを理解してくる。

「いえ、ぜんぜん、まったく、これっぽっちも!」


 やっぱり女子ってみんなエスパーなんだよ。

 己の鈍さを棚に上げ、全力で釈明するタツキに、サツキがクスクスと笑い始めると、


「皆様、領主様の勝利宣言が行われます。ここより出て、領主居城ヴァルハジーマ前広場にお集まりください」

ゲオルグ勝利宣言の開始の報が、辺境伯近衛よりもたらされるのだった。


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