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ダンジョンマスターと生贄の少女  作者: 緑 素直


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66/99

63:悪心祓うダンジョンマスター

 酒と酒と酒、そして果実ジュースの入ったジョッキが、カン、と小気味よい音で打ち合わされる。めいめいが、湯に火照った体に冷えた液体を流し込み、それぞれの流儀で大きく息をつく。

 

「で、なんか興味深い話してたよね。ごめんよ、話の腰を折って」

「いえいえ、私の専用魔技オリジナル舞台之黒子ゲームマスター》にまつわる、しょうもない昔語りですよ」

「なぬっ!」

 タツキが食い気味に相槌を打ったのは、今度は脳内に舞台之黒子ゲームマスターを保持できたからに他ならない。ただ、思考に利用可能なのは、あくまで新概念である、専用魔技オリジナルとしての舞台之黒子ゲームマスターであり、この「ゲームマスター」なる音の連なりから、かつて連想可能であったと思われるいくつかの思考への経路は、やはり閉じられたままだ。


「概念から派生する、連想の制限…?」

 それはなんというか、度忘れのような、痒いところにもう少しで手が届きそうなのに届かないような、もどかしい感覚。 


「――そんなわけで私はこの専用魔技オリジナルを使いまくって、《脅威度》の高い方々とお近づきになるように立ち回っていたのですが、まぁ、何と申しましょうか、ある時気づいてしまったんですね」


「わかる、わかるぞ」

 一体何がわかるというのか、ウンウン頷きながらやってきたのはロベルトとカミューパパのゲオルグ。

「果たしてこれは俺の実力なのか? ってヤツだろ?」

 そう言ってロベルトは、ぐいっとジョッキのエールをあおる。ゲオルグの方は、ギースに会釈をすると、どこか吹っ切れた顔でカータヴェルの隣の腰を下ろした。


「それも無くはなかったのですが…、まぁ、ご覧ください」

「緑のサイコロ?」

 上に向けられたトーマスの手のひらには、くるくるとダンスを踊る2つのダイス。

 色はエメラルドグリーンで透過している。

「これが舞台之黒子ゲームマスターの具現です。そして私が《脅威度》を知りたい方に意識を向けますと――」

「おお、ダイスの目が!」

「トーマス殿? 俺の方を見てたが、これは出目が低いほうが脅威度が高いってことか?」

 出目は1と2の、合計3。


「おお、さすがは《武器庫アーマリー》」

 とゲオルグがよいしょするが、

「いいえ、高いほうが脅威です。そしてだいたいの方は2~4の範囲に収まります」

トーマスがさらりと言い放つ。


「次いでロベルト殿ですが――」

 1と4の5。

「ぐおぉっ! 《武器庫アーマリー》より《不破イモータル》のほうが強いってことかっ!?」

 と、悲痛な声を上げるギース。若い才能が気になるお年頃なのかもしれない。


「いいえ、これはおそらく、タツキ殿とのお付き合いが、それなりに長いためかと思われます」

「――って、どういうことだ?」

 それを慮ってか、トーマスがフォローする。

「あくまで計っているのは《脅威度》ですので――」

 強さとは無関係なのだ、と続ける。そして、


「最初の出目は本人要因の脅威度。次の出目は環境要因の脅威度。そして合計が、総合的な脅威度です」

「ふむ」

「そして私は、総合値が5を超える方々に商談を持ちかけ、その殆どで利益を得ていたのですが、ある時、それをはるかに超える事態に見舞われまして」

 そう言って、トーマスはダイスをカータヴェルに向けた。


 くるくると、エメラルドのダイスが回転を始める。

 出目は、5と6。

「おい、また回りだしたぞ」

 6と6。6と6。2と3。


 総合値40。


「私はこの現象を世界変革クリティカルと呼んでおります」

世界変革クリティカル…」

「はい。この世界を変えかねない影響度を検知した、ということです」

 くぴり、と、トーマスは果実水のジョッキを傾ける。

「そして、どうにもこの世界は、変革を嫌っているようなんですよね」


「——おお?」

 タツキは声を上げて立ち上がる。


 なんの脈絡もなく引き起こされた、ダンジョンマスターには分かる劇的な変化。

「旦那っ!?」「坊っちゃん殿、こいつは…」

「ああ、タツキ殿、皆様、ご心配なく。大丈夫ですよ。慣れていますから」


 膨大なエリキシルが、突如トーマスを包みこんだのだ。それも、憎悪や呪詛の類。圧倒的な負の感情の発露だ。エリキシルは感知できなくとも、さすがは歴戦の猛者たち。何某かの違和感を感じ、即座に臨戦態勢となる。


「いや、慣れでどうこうできるレベルの濃度じゃないぞ、これ」

 ダンジョンへの吸収を試みるも、所有権的なものがタグ付けられているようでタツキの権能が及ばない。

「もちろん、ぶっ放していい技量をお持ちの方には、強制的に発散のご協力をお願いしておりますので」

「ほっほ。ということは、フロストノヴァを頂戴した儂は、お主のお眼鏡にかなったというわけか」

「アンデッドに氷系統はほとんど効果ないでしょう?」

「うぅむ。儂、あの時も生身じゃったんじゃがのぉ…?」


『ご老人。今回のことはとして警告させていただきます』

 つまり、あの時のフロストノヴァは、属性まで配慮したうえでの八つ当たり行動であったというわけだ。


「このように、私の能力の肝は、ダイスの合計値に比例して、術者の戦闘能力と、そして破壊衝動が向上するところです」

 と、トーマスが己の専用魔技オリジナルの根幹を紐解く。


「なるほど、この瘴気じみたエリキシルが破壊衝動の根源っぽいけど、ほっといて大丈夫なの?」

 集合したグログロとしたエリキシルからは、をををぉぉおお、とか亜亜亜ぁぁああ、とか、怨嗟の声が聞こえてきそうだ。


「あっはっは。ご心配なく。こんなときのために、リクとクウがいるのですよ」

 ああ、あの双子ね。

 大喰らいで、主をからかう、どこか隠密的な――と、タツキは周囲を見回す。


「え、どこにいるの?」

 しかし居るのはぐいぐいとジョッキを空けまくるおっさんやお兄さんやおじいさんばかり。あ、子どもたちもジュース樽の周りではしゃいでいる。が、あの双子っぽいのはいない。


「ああっ!」

 ポン、とトーマスは手を打つ。

「そういえば、普段は全く意識しておりませんでしたが、あの2人は、そう。たしか、女子、であったように思います」

 たらり、と、トーマスから汗が滴ったのは、湯の暑さ故だろうか。


「ごごご、ご老人、もう一度憂さ晴らししてもよろしいか?」

 彼はおもむろに、グリン、とカータヴェルに向き直ると、グッと拳を握りこんだ。眼が半分くらいマジだ。


「かっかっか。そんなことされたら死んでしまうわい」

 一方、全く、これっぽっちも死にそうにない顔で、カータヴェルが優雅にジョッキを煽る。


 そんな、にわかに混沌としてきた場をおさめるのは、

「はいはい、分かった分かった。俺が何とかするよ」

やはり我らがダンジョンマスター、タツキである。


>ユニット≫獣族≫陸種≫夢喰らいバク_ランクC


 ぼむん、と召喚陣から出現したのは白黒ツートンカラーの四足獣だ。概念は共通なのか、タツキの記憶にも残ってる獏よりも、より丸っこく、よりふくふく・・・・しており、ついでにモフモフしている。サイズも縮んでいて、一抱えくらいだろうか。

「うぷ」

 その愛玩動物感満載の白黒モフモフが、おもむろに長い舌を伸ばしてトーマスの顔をべろりと舐めた。


「うーん、エリキシルは多少減ったけど、焼け石に水だな」

「あ、あの、タツキ殿、わたくし、今、猛烈に嫌な予感がしてきたのですが?」

 夢喰らいバクの涎をざぶざぶ流しながら、トーマスが次なるタツキの行動を予見する。


「はい、トーマスは湯船から出て」

 タツキは、わかってるじゃないかと腕を組むと、


 キキキキキンッ!

「20匹もいれば、十分浄化できるだろ?」

「ひぃっ、やっぱりっ!」

 と、オレンジの召喚陣を多重形成する。


 そして、

「さぁ、みんな」

凶々しいエリキシルをまとったトーマスに、20の毛玉が全く同じモーションで、じゅるりと舌なめずりをする。

「かかれっ!」

 モフモフ×20をトーマスへとけしかけた。


「い〜や〜!?」

 そして、タツキの号令を受けた20の白黒毛玉たちは、我先にとトーマスにまとわりついて、所構わずペロペロべろべろし始めるではないか。


「…なんか、ばっちい絵面だな、おい」

「う~ん、さすがに20匹もいると、なかなかのエリキシル吸収率」

「旦那って、時々鬼っすよね」


 あ~れ〜、とか、そ、そこは〜、とか、新しい扉が〜、とか叫ぶトーマスに、

「やっぱりお馬鹿だねー」「そうだねー」

女湯方面の壁向こうから、楽しそうに笑う双子姉妹の声が聞こえたような気がした。


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