61:無事を伝えるダンジョンマスター
聞くこと、知ること、やること。
それらは山積みな状態ではあるが、とりあえずの最優先事項は報連相である。
かの土下座ゲロゲロ事件は、タツキの中の優先順位を大きく組み変えていた。
――本人は、きっと、頑として認めないだろうが、あの瞬間で、きっちりと、これ以上ないくらい「尻にしかれた」というわけだ。
「というわけで、皆さん、ひと時の心の洗濯を楽しんでください~」
大浴場まで皆を案内すると、男性陣代表にロベルト、女性陣代表にカミューを任命し、自身はそそくさと脱衣場を出て、伝声の水晶球を取り出す。
「ああ、チェリ、無事終わったよ。そっちはどう?」
エリキシルを送れば、一瞬にしてつながった通信。
水晶球の前で、しっぽブンブンお預け状態だったわんこを連想し、うん、こっち優先してよかった、とタツキは内心胸を撫で下ろす。
より上位の遠見の水晶球ではなく、声しか伝わらない下位アイテムとしたのは、チェリ側から接続する必要がある場合の起動コストを考慮した結果である。加えて、伝声の水晶球はタツキにとっては前世で慣れた**そのもの。***会議****な遠見の水晶球より気楽に使えて気に入ってたりするのだ。
『お疲れさまでした! サツキ様もお風呂入って、ご飯食べて、よく寝てます』
食い気味に、聞いてないのにこっちが知りたいことを伝えてくれるチェリ。ずっと、最初に何を言おうか、考えてくれてたんだろうな、と思うと胸がほっこりと温かくなる。
「ありがとう。エルローネは暴走しなかった?」
なので、ついでに気になっていたことを聞いてみたら、
『タツキ様は私を何だと思っているんですか』
即座にその本人から返答があってビビる。
そういえば、前世の**のつもりで話していたが、これは会話が周囲に駄々洩れだった。
チェリがタツキたちの安否を気にしているのと同じくらいの重みをもって、エルローネも心配をしてくれていることは想像に難くない。すぐ隣にいることのほうが自然だったのだ。
「え、いや、ほら、エルローネはかわいいものとか、好きだろ?」
『はい、もちろん』
思わず、しどろもどろになって言葉を継ぐが、タツキも、サツキに関する追加情報が欲しいのもまた事実。
ゆえに。
「で、汚れを落としてさっぱりしたサツキはどうだったの?」
どう? という質問は相手に忖度や妄想を強いるためよろしくない、と、どこかの****本で読んだな、なーんてことを思い出しながら、興味本位で聞いてみたのだが。
『ふふ、ふふふふふ』
あれ、エルローネさんが、エルローネさんが、なんかおかしい。
『我慢しましたよぉ。ええ、我慢しましたとも。』
これ、もしかして、入れちゃダメなスイッチ入れちゃった?
『今は心と体を癒す大切な時期ですからね。それはもう、慎重に慎重を期して、隅々まで丁寧に、しっとりねっとり洗い清めましたとも』
お、お姉さんが、お姉さんが、何かエロい。
『その結果、サツキ様は、チェリ様に勝るとも劣らない逸材であると痛感いたしました――』
ぴぃ、と、自分の名が出たところでチェリの小さな悲鳴が聞こえる。
『チェリ様は幼さを残しながらも女性の魅力を余すところなく内包する豊かで柔らかくそれでいてしっとりと吸い付くようなお肌と包容力と時にカリスマ性あふれる可愛らしくも愛らしいお声でわたくしの心を鷲掴みにしてまいります一方サツキ様はまさに乙女としての穢れなき犯しがたい神聖なオーラを纏った天女のような肢体を包む白くきめ細やかなお肌には磨き上げれば一片の瑕疵もなく短めに整えさせて頂いた艶やかな黒髪は小さくはかなげなかんばせと相まって一層の庇護欲をそそりその強気ながらもどこか甘やかなお声にわたくしはわたくしはわたくしは――』
「――あああ、えっと…」
すまん、サツキ、強く生きるんだ。兄貴(?)は人選を誤ったかもしれない。
チェリとサツキのすばらしさを早口で語るマシーンになってしまった、エルローネの精神はどこか遠い所に行ってしまった。
「チェリ上等兵、チェリ上等兵、生きてるか? 応答せよ」
「あうぅぅ、褒め殺しは、褒め殺しはダメなのです~」
お、ちゃんと生きてた。
「褒め殺し? 綺麗になったサツキはまだ見てないから何ともだけど、チェリに関してはエルローネの言うとおりじゃないか?」
「あばばばば」
あ、いかん、こっちまで**る――不具合を起こすと話が進まなくなる。
「とまぁ、ふたりとも、楽しい掛け合いはこの辺にして」
「あー、タツキ様、ひどいですぅ、あ、いえ、嬉しいんですけど――むぎゅ、ってエル姉様、抱き着かないでくださいぃ」
位置は離れたが、流れ込んでくる感情は、優しくて暖かな喜悦である。
このようなやり取りができる時間と空間を、守りきれたことに、タツキは改めて安堵する。
「サツキが起きたら、そっちから連絡を入れるようウォルフに伝えておいてくれ。危険なことはなくなったけど、こっちはまだまだやることが山積みなんだ」
「あ〜、ウォル君」
「あら、ウォルフ様」
「ん? どうした」
チェリとエルローネ、ふたりが顔を見合わすような間があって、
「彼は今、殿方としての階段を…」
なにそのアダルトな響きは…って、ああ、そういえば、このエルローネ姉さんは尊敬すべきアダルトの達人だった。
「転げ落ちているところではないかと…」
「あー、お兄さん、また鼻血!」
「登ってないんかいっ!?」
いったい何をしているのやら、遠くでルートの発する呆れ声に、再び暖かなエリキシルがはじけるのだった。




