第3章:プロローグ
地中の2メートル四方の部屋と、大人1人が余裕を持って入れそうなサイズのガラス瓶。
そこに満タンに蓄えられた夕焼け色に濃く輝く液体。
そして、ワタシ。
それはダンジョンマスター、つまりはワタシが随分と見慣れてしまった風景。
ザ・ザザザ・・ザザ・・・・
大丈夫。ワタシはマオウ様に「ダンジョンマスターとしての本能」を与えられている。
よって、これからすべきことも理解している。
0008895a の装着によって分岐条件は満たされた。
そう、本能がワタシに告げているのだから。
ザ・ザザザ・・ザザ・・・・
絶望や恐怖、諦観、猜疑に怨嗟。
ありとあらゆるマイナスの感情によって、満たされたり削られたりしたワタシの魂。
これからワタシは、自身の維持よりも優先された命令を受け取ることになる。それを忠実に実行することこそが、分岐先におけるワタシの存在意義。
さぁ、命令を。
絶望や恐怖、諦観、猜疑に怨嗟。
ワタシの胸の内の、さらに内に蓄えられた、痛くて重くて、苦しくて、ジグジグとワタシを苛む、しかしワタシの命そのもの。
それらを解き放つ命令を。
その結果、たとえワタシが空っぽになってしまっても。
ザ・ザザザ・・ザザ・・・・
その結果、たとえワタシが消えてしまっても。
ザ・ザザザ・・ザザ・・・・
ワタシは少しも意に介さない。
何故ならば。
仔馬がやがて、誰よりも早く駆けるように。
雛がやがて、誰より優雅に羽ばたくように。
この分岐に至ったダンジョンマスターはやがて、すべてのエリキシルを消費しつくし、静かに世界から消えてゆくのだから。
そこまでが、本能の定めるところなのだから。
で、あるはずなのだが。
「お、にい、ちゃん…、わ、たし、こわい…」
この恐怖は、いったい何処からくるものなのだろう?