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02:ダンジョンマスターの少年

 ダンジョンマスターの入り口への転移と、Eクラス資源収集ユニット「グノーメ」の帰還は同時だった。


 グノーメは運搬してきた資源を隠蔽された資源投入口に放り込む。

 資源はダストシュートのような通路を滑り落ち、最初の部屋に転がり落ちて、Eクラス戦闘ユニット「ゴブリン」によってその生命を絶たれる。


 運んできたものが熊だろうが牛だろうが、そして、人間の女だろうが、その流れは変わることのない。そのはずだった。だが。


バリバリ・・・ザザザ・・・


「転移の、瞬間にもノイズとは…。おかげで、位置がズレ…ッ!??」

「ええぇ!? 私、捨てられ、ひゃ、きゃー、むぎゅんっ!?」


ザザザ・・・ジジ・・・、バチッ!!!


 繋がった。

 そうとしか言いようのない感覚。

 ノイズが消える。思考がクリアになる。

 ワタシが、目を醒ます。


「おおお? なんだこれは、って、重い。誰だ『俺』の上に乗ってる奴!」

 俺? いや、ワタシ? いや、オレは俺だっ。


 しっかりしろっ! 俺は、ええと、俺は藤谷達己ふじたに たつきだ。

 それで、何がどうなってるんだ? 飲み過ぎてやらかしたのか? 

 こんな時は、そうだ、そ、素数か!? いや、そうじゃなくて、状況だ、状況を把握するんだっ!


「わぁぁ。うゃぁ」

 なんだか柔らかくて温かいものが俺の上に乗っている。

 人の、肌の匂い? てか、こいつ、ちゃんと風呂入ってるのか? でも、どこか甘くて、なんだか安心する匂い……。


「ひやぁ、いやぁ。変なとこ触るなー」

「うわ、やわらか…って、なんじゃこらーっ!!」


 火事場の馬鹿力的なものが発動し、ノイズに悩まされていた若きダンジョンマスター、いや、達己と己を認識した存在は、チェリをお姫様抱っこしてがばりと跳ね起きる。


「はわ、はわわわわっ」

 急に視点が持ち上がったチェリは、両手両足を縛られたままジタバタと狼狽し、その動作で頭をすっぽりと覆っていたフードが後ろに落ちる。


「うお…っ」

 ダンジョンマスターと生贄の少女。その視線が交錯した。


「なんちゅー美人…」

「黒目黒髪っ!? いーやーっ! たーべーらーれーるーっ!!!」


 びたったんばったんと、手足を縛られたままのチェリは達己の腕の中でまるでエビのように暴れまくる。


「おい、待て、食わん! 食わんから暴れるなっ!!」

 下手に暴れると資源回収口ダストシュートに彼女が落ちてしまう。

 慌てた達己はしっかりと彼女を抱きしめる。抱きしめて、子どもをあやすように、背中をポンポンと叩いてやる。


「大丈夫。何があったか知らんが、大丈夫だから」

 というか、大丈夫じゃないのは俺の方だから。


 元気に跳ねる栗色の髪と、小動物のような愛嬌にあふれたブラウンの瞳。14~5歳位だろうかと達己は推測する。

 抱きしめているといろいろ当たる柔らかさ。

 出るところはそれなりに出ているのだろうが、縛られた手足は細い。顔色や、髪の色艶からみても、栄養状態はあまり良くないのだろう。


 また、現代人の感性を持つ達己からすれば、体臭も感じられるのだが、困ったことに、なんというか、本能にくる匂いなのだ。思わず腰が引けてしまう。


「た、食べないの? 本当に私を食べないの?」


「食うかっ!」

 別の意味で食べたくなって困る、とはとてもとても口に出せない。

「だいたい俺が人を喰うようにみえるのか?」


 チェリのびったんばったんが収まったので、そっと地面に立たせるように下ろす。


「だって」

 チェリはまじまじと達己を見つめる。美少女に見つめられることに耐性のない達己は、挙動不審になりそうな己を必死に叱咤する。


「黒髪黒目はダンジョンマスターだって、マオウの手先だって、子どもでも知ってることよ」

「なんだそ…、ダンジョンマスター!?」

 何だそりゃ、と言いかけて、達己はダンジョンマスターの詳細を、全て知っている自分に驚愕する。


 いや、だって俺、**に生まれてるから、黒目黒髪は当たり前だろ?

「っう!?」

「どうしたの?」


 なんだ? 記憶が。

 落ち着け。ダンジョンマスターの記憶があるのはとりあえず置いておく。

ゆっくり、ゆっくり思い出すんだ。


 俺は****年に**の***に生まれて、**は*まで行って****に勤めて――


 なんだ…、これは……。


 も、もう一度だ。

 俺は藤谷達己だ。それは間違いない。


 俺は****年に**の***に生まれて、**は*まで行って****に勤めて――


「うああああ」

「えっと。大丈夫? ああ、お顔が真っ青」


 記憶が、抜け落ちて…

「あ、あぶないっ!!」


 力が抜け、膝からくずおれる達己を、縛られているにもかかわらずチェリが身を挺してかばう。しかし、体格差は殆ど無い2人だが、彼女に達己は重すぎた。


「ごめんね。私がひどいことを言ったから」

 チェリは固い地面に、そして達己は柔らかな彼女の上に倒れ伏す。

 肩を打ち付け、頬を擦りむいたにもかかわらず、縛られた両の手で、チェリは達己の背中を撫でた。


「お、おまえ・・・」

「お前じゃないよ、チェリ。あなたは?」


 あなたは?

 その問が、霧散しかけた達己を固定する。


 俺は。

 そう、俺、だ。俺は達己だ。

「タツキ」

 今は、とりあえずそれでいい。

2015/10/08:サブタイトルの書式を統一しました。

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