第2章:プロローグ
ダンジョンマスターが「ダンジョンに村を作る」ために「ダンジョンの住人」を募集している。更にはそれを国にすると豪語しているらしい。
その前代未聞の情報は、ミアズナ村長とクワナズーマ冒険者ギルド員の、それぞれが持つ情報網に慎重にのせられ、まずは水面下で拡散していった。
この世界では、古来より人とダンジョンは共生関係にあると言っていい。
人は、ダンジョンで命をかけることによって、ダンジョンに何らかのエネルギーとなるものを供給する。ダンジョンは、そのエネルギーを用い人に資源を提供するとともに、己が内部を拡張する。
その図式は、王都トキアトの学院も公式見解として認めているところである。ただ、その関係は「敵対的共生関係」といえるものであったはずだ。
ダンジョンはその内部で人が死のうと構わない――むしろ、積極的に殺しに来る。さらには、より多くの人を誘い込もうと魅力的な餌をまく。
ただし、即死はいけない。後に続く者が出なくなってしまうからだ。
一方で、人はダンジョンを管理下に置く。
不要と判断されたダンジョンは、ダンジョンマスターの殺害という形で消滅させてしまう。
そして、立地や生息モンスターが有益なダンジョンであれば、あえてダンジョンマスターを生かし、定期的に駆け出しの冒険者を派遣、ダンジョンの育成を手伝うことすら行うのだ。
与えあうために、殺し殺される。そんな歪んだ関係。
人の文明は、もはやダンジョンから算出される素材なくしては立ちいかなくなるほどに、その血濡れの共生関係への依存度を深めている。
件のダンジョンマスターは、それを、互いに手を取り合う、友好的でまっとうな共生関係に変えようというのだろうか。
「この件は他言無用とする。報告は一旦俺のところで止める」
「…どうされるおつもりですか?」
「決まってるだろ? 俺が直接ダンジョンマスターの面を拝みに行く」
その情報を受け取った一方は、そう言うと豪快に笑った。
「にわかには信じられんな」
「まったくです。しかし、放置して良い案件とも思えません」
「当然だ。アレが関わっている以上、早急に間者の一人でも送り込まねばならん」
そしてもう一方は、深い溜息の裏に陰湿な笑みを浮かべるのだった。