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すれ違い

「え? ギエンがこの町にいた?」

 トーヤは数日の旅を終えてたどり着いたディムの町できょとんとした。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「あん? トーヤがディムに向けて旅立った?」

 ギエンは、トーヤの手がかりを求めて訪れたディクサシオンの冒険者ギルドで目を見開いた。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「ギエンって、あれですよね。いかにもドワーフって風貌の髭もじゃの男」

 トーヤは復興も半ばのディムの町で町長に尋ねる。ちなみにザイヤーはディムに着くと共にフラッとどこかに行ってしまった。トーヤもコニーも別段彼と一緒に行動する義理はないので、そのまま放置しているが。

「そうですよ、彼こそこのディムを救った英雄です。襲い来る魔物の波に、雷を放つ魔道具の斧を手に獅子奮迅の大活躍! 『ディムを落としたければ、俺を殺してから行け!』の台詞には年甲斐もなく痺れましたなぁ……しかも、その後ドワーフ秘伝の鍛冶の腕を存分に振るって様々な道具を修理してくれましてなぁ……彼がいなければ、まぁまず間違いなくディムの復興は5年は遅れていましたよ」

 まるで我が事のように自慢する町長の話をトーヤは話半分に聞いていた。


(ギエンが……? 意外と言えば意外だけど……)

 いじめられていたトーヤが言うのもなんだが、別にギエンはそこまで悪人ではない……少々性格には難があるだろうが。困っている人を見て手を差し伸べるところまでは、まぁあり得ないとは言えない。だが、見ず知らずの町のために命を賭けるかと言うと……

(そこまではしないでしょ。たぶん噂に尾ひれが付いているんじゃないかなぁ)

 恐らく、逃げ遅れたか何かで仕方なく魔物相手に戦っているところを町人が見て、救世主だ何かと持ち上げられている……そんなところだろうとトーヤは当たりを付けた。

 それは、自分がギエンに与えた影響を軽く見ているトーヤの甘い見積もりだったが……トーヤもあえて町長の言葉に反論したりはしなかったため、この場で彼の誤解が訂正されることはなかった。


「で? 問題のリャーマンとか言う連中はどこよ?」

 トーヤの後ろに控えていたコニーが面倒くさそうに口を挟む。予想外のギエンの名にすっかり本来の目的を忘れかけていたトーヤも、コニーの言葉で慌てて町長に尋ねる。

「そ、そうだ! 町長さん、リャーマンって人達ってこの町に滞在してませんか!?」

「……? 彼らに用ですか? 残念ながら、『他にも救いを求めている人はいるから』と先日この町を発ったばかりですが……ギエンさんも、『復興の目途が付いたなら』と同時に旅立ったのですが」

「……入れ違いか」

 リャーマンとも、本来予期していなかったギエンともすれ違うことになったトーヤは溜息を吐く。そんなトーヤを気の毒に思ったか、町長は付け加えるように言った。


「あぁ、でも解放軍の皆さんはまだ滞在中ですよ? リャーマンの皆さんとも繋がりがあるらしいですし、彼らとコンタクトを取ってみてはいかがですか?」

「……どこにいますか? 教えてください」

 トーヤは腰の剣を確かめつつ、尋ねる。町中でいきなり襲い掛かってくることは無いとは思うが……相手は『革命』を目論む集団である。用心してしすぎることはあるまい。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 


「トーヤってアレだよな? おどおどしているパッと見ホビットみてーな変なドワーフ」

 ギエンは情報料代わりに頼んだジョッキの酒を煽りながら、ギルドの受付嬢に質問する。

「おどおどしているかどうかはわかりませんが、まぁそうですね。『大き目のホビットかな』と言うのが最初の印象ですけど、礼儀正しい方でした」

 マリーは正直にその質問に応じた。


「え? あいつドワーフだったのか?」

 周囲で聞き耳を立てていた冒険者が意外そうに口を挟んでくる。

「俺と同郷だよ。色々事情あって行方不明だったんだ……まぁなんだかんだ言って逞しい奴だから、なんとかして生きているだろうとは思ってたけどよー」

「フフッ。信頼しているのですね」

 マリーが愉快そうに言う。


「……あぁ。俺の恩人だ。こんなところで死ぬタマじゃねー」

 ギエンも特に否定はしなかった。普段ならマリーのからかう調子にムッとするところだが、なんとなくそうはしなかった。


「……なるほど、トーヤさんの話通りの方ですね」

「あん? あいつ、俺のことなんて言ってやがったよ?」

「気難し屋のひねくれ者だと」

「よーし、マオ。今すぐディムへの馬車捕まえてこい。一度締めてやらなきゃならん」

「でも、義理堅くて信頼できる人でもあるとおっしゃってましたよ」

「……フン」

 本当に今すぐにでもギルドを飛び出しそうだったギエンは、鼻を鳴らして席に戻る。


「……それで? アイツいつ頃戻ってくるのよ? つーか、ディクサシオンで何やってる訳?」

 椅子に体重を預けながらギエンが億劫そうにそう呟いた。

「さぁ? いつ帰ってくるかまではちょっと断言しかねますね。トーヤさんは『早ければほとんど往復するだけ』とは言っていましたが、逆に言えばそれは遅くなる可能性も考慮しているということでしょうし」

「……そうか」

 ギエンは特に何の感情も浮かべずにそう言った。


「それと、ディクサシオンで何をやっていたかですが……魔道学院で学生をやっていましたよ? 今は何か学院と協力してゴソゴソやっているみたいで、本人は『学生だけど立場は微妙』なんて言っていましたけどね」

「ほぉ? 世に名高き魔道学院の学士様と来たもんか。アイツも出世したもんだ」

 ギエンは特に疑いもせず、マリーの言葉を受け入れた。トーヤの才能に誰より嫉妬し、その価値を認めていたギエンだからこそ、彼が「ドワーフの身で魔道学院に入学した」などという信じがたい所業を為したと聞いても、あっさり信じられる。


「で、ギエンさんどうするんですか? ディムに戻りましょうか。それとも……」

「何馬鹿言ってんだ。滞在一択だろこの状況」

 ギエンはあっという間に飲み干した酒のお代わりを頼みながらマオに応じる。


「トーヤがいつ戻るかわからん以上、ここでディムに戻ったら下手したら行き違いだぞ? ディクサシオンに戻ってくるだろうことがわかっているなら、ここで待った方が得策だ」

 そしてギエンはマリーに向き直る。


「というわけでしばらくこの街に滞在しようと思うんだが、何か適当な仕事はないか?」

 ギエンはけち臭い性分なので、そこまで懐が寂しいわけでもなかったが、無為に日々を送ることを嫌う性格でもあった。


「えぇっと……冒険者ギルド(ウチ)が紹介できる仕事となると、荒っぽいのが中心ですよ? まぁ背中の武器を見る限りじゃそれでも行けそうですけど……」

 熟練の職員であるマリーは、ギエンの佇まいを見るだけでその実力の一端を悟った。


「ま、何でもいいや。鍛冶屋はしばらくコリゴリだよ。適当に日銭を稼げるなら、それに越したことは無い」

 ギエンはカラカラと笑う。



 ……この場において、マリーはトーヤのプライベートに関わる事情だと判断してギエンにトーヤの旅の目的を説明しなかった。ギエンもまた、「トーヤが帰ってから聞けばいい」と特にそれを尋ねることはしなかった。

 それはほんの些細なすれ違いに過ぎなかったが……ひょっとしたら、彼らの運命を左右したかもしれないすれ違いであった。

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