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現人神の神器

「くっくっくっく! あーはっはっはっはっは!」


 妾は笑いが止まらなかった。

 エレガントさの欠片もなくソファに腹を抱えながら寝っ転がり足をばたつかせた。

 ドレスにシワを作ろうが今は構わない。

 なにせ数百年ぶりだ。

 こんなに楽しいのは!!!


 妾はもう一度手紙を読んだ。



 体育館裏に来いやボケ!

 お、お前が俺に何もしてないんだったら許してあげないこともないんだからね!


 X月XX日。

 さいたまスーパーアリーナに来やがれ!

 ま、負けたら土下座して謝るんだからね!


 だいすけ



 地頭の悪さがにじみ出る文章だが、決闘を申し込んでいるのだろう。

 この魔界の王の一人たるベリアルに喧嘩を売るとは良い度胸だ!


「まさか! まさか! この妾に決闘を申し込むとは! ふはははは! こんなに面白いのは何百年ぶりか! 今代のソロモンの指輪は面白いのう!!!」


 だいすけという男。

 浄眼それに背中の呪い。

 あれはとてつもない力を持つ神仏の手によるものだ。

 どんな戦いを見せてくれるのだろうか!

 今から楽しみで仕方がない。

 妾はレースで飾ったテーブルの上に置いたベルを力一杯振り回し、何事かとやってきた使い魔に笑いながら指示を出した。


「リリム! リリムを呼べ! ひーッ! 面白い!!!」


 ベリアルは笑いを止めることができなかった。



 埼玉のソドム。

 ……ということは特にない。

 さいたま市にある『さいたまスーパーアリーナ』に俺は来ていた。

 さいたまスーパーアリーナの地下には真の強者を決めるためのリングが存在する。

 表の格闘技を追い出された格闘家が夜な夜な武器以外の使用以外の一切をがうんたらかんたら……

 ってなんで俺がそんなところにいるんだわさ!!!


 ……責任者出てこい!

 謝れ!

 俺に謝れ!

 土下座して謝罪しろ!


「協会を通してベリアル側に果たし状を渡しておいた。なあにここで死んでも人の身で悪魔と戦った漢として死ねるんだ。最大の誉れだ。よかったな!」


 マサやん……あとで殴らせろ。


「……にしても相手はベリアルかー……死ぬな俺……」


「はあ?」


「はあ?」


 なにそのバカを見る目。


「あのな。だいすけ。ベリアルの勢力をわかってるのか?」


 はい?


「マサやん。だいすけくんは現代っ子なのでもうちょっとわかりやすく言ってあげないとわかりませんよ。あのね、だいすけくん。世界最大のスーパーの従業員数ってわかります?」


「え? 1万人くらい?」


 我ながら頭が悪い。

 もちろん数字は適当だ。


「190万人です。ベリアルも同じくらいの規模の社長さんです」


 ベリアルすげえなおい。


「では、日本屈指の神社のコネがあるとは言え、アホアホ大学生がいきなり会って貰えるとでも思いますか?」


 その規模になると最終面接でも重役すら出て来ないかも。

 言い返す言葉がねえ。


「なので、だいすけくんの相手は社員さんです」


 社員……

 どよーん……

 なんか俺勘違いしてたわ……

 「ベリアルに狙われる俺凄くね?」とか思ってたわ……


「だいすけ。お前の相手はリリムだ」


 リリム。

 それならわかる。

 エロい姉ちゃんだ。

 その時、俺の天才的頭脳にお約束とも言うべきあるアイデアが次元の向こうから送信された。


 あれ……?

 バトルのどさくさにセクハラしても怒られないんじゃね?


 わきわきわきわきわきわきわき。


 俺の手の指が勝手に動く。

 覚られないように顔だけはクールな表情を作る。


「だいすけくん。バレバレですから……」


 バレテーラ……



 俺が地下闘技場に入るとエロい格好の姉ちゃんがいるはずだった……

 ……アレ?

 目をゴシゴシとこする。

 おかしい……目の前にはエロい姉ちゃんではなくライオンの化け物がいるようだ……


「えっとタイム」


 俺は手を上げる。

 そして何事かと目を丸くするライオンに人差し指を突きつけた。


「異議あり!!! 貴様は今、全世界のDTを敵に回した!!! ここはエロいコスチュームの姉ちゃんがあっはーんうっふーんって言いながら出てくるとこだろ!!!」


「なに言ってるんだ……あのバカは……」


 いつの間にか横にいたマサやんが心の底から呆れたような声を出した。


「だって! セクハラしたかったんだもん!!!」


 俺は地団駄を踏む。

 くっそー! DTのドリームをデストロイしやがって!!!


「せーくーはーらー!!! ないと戦わないんだからね!!!」


 俺は更に駄々をこねる。

 エロいねえちゃんにセクハラできないなんて死ぬのと一緒だ!!!


「いいから戦ってこい!」


 マサやんキック。


「えぶら!」


「おっし。おいお前ら! 俺が見届け人だ! 武器も含めて一切の使用を認める! ゴーファイッ!」


 えー!

 っちょ!


「ホレ武器出せ!」


 うわああああんッ!

 クソッ! やったらー!

 俺は背中のケースから武器を抜いた。


 それは剣というにはあまりにもスリムすぎた。

 (途中略)まさにバットであった。


「ま、まさか! それは……!!!」


 ライオンが驚いたような声を上げた。

 つかなんで知ってるの?



 ※注意。

 ここからは信仰上の問題で遠回しの表現が多くなります。


 俺が生まれるずっと前……

 1985年……バット一本で世界を変えた男がいた。

 その男はその神の如きプレーで関西の黄色と黒の球団を優勝に導いた。

 カーネル●ンダースは道頓堀に放り込まれ、行方不明だったタイタニック号が発見され、日本人宇宙飛行士が誕生。

 そのバットの威力は青函トンネルを開通させ、イスラエル軍をレバノンからの撤退させ、ソビエト連邦を崩壊に追い込んだ。

 その男の残した神器。

 それがこのバットだった。


「かっとばせー! だいすけー!!! 巨●なんてぶっ殺せー!!!」


 紗菜の狂気に満ちた声が響く。


「いや俺サッカー派だし」


「このサカ豚が!!!」


 紗菜が罵声を浴びせる。

 うわあああああああん!

 酷すぎる!


「だいすけくん……あきらめたらそこで試あ(略)」


「それはバスケじゃ!」


 つい黙っていられなくなりツッコミを入れる俺。

 くっそーみんな俺に優しくない!

 もういいもん!


「バックスクリーン三連発アタッーク!!!」


 叫びながら俺がバットで襲いかかる。

 もうやけじゃ!

 俺がバットをフルスイングするがライオンはひょいっとそれをスウェーして器用にかわす。

 その瞬間、それは起こった。

 俺がバット振った遙か先。

 闘技場の壁、その半径2メートルほどがベコリとヘコんだ。

 一瞬の間を置いて、そこがちゅどむと一気に爆発した。

 爆風で転げる俺とライオン。


「まさかアレはラ○ディ・○ー○のホームランバット!」


 わざとらしくマサやんがそう言い、


「し、知っているのかマサやん」


 紗菜もそこにノリノリで相乗りと。

 後で薄い本ゴミに出してやるからな。


「うむ。1985年、はんしんた(以下信仰の都合で略)」


 解説キャラと化したマサやんがどうでもいい解説を入れる。

 つかね30年前でしょ!

 俺生まれてないでしょ!!!

 バカなの!

 ねえバカなの!!!

 マジでバカなの?

 俺は爆風と粉塵で爆破コントのオチのような姿になりながらも這い上がった。

 ここまま死んでたまるか!!!

 絶対にあのバカどもと悪魔に仕返してやるんだ!!!


「ふっ……なかなかやるじゃないか……」


 コンクリの破片が頭を直撃したのかピューピュー血を吹き出しながらライオンが言った。


「あの大丈夫っすか?」


「うるさい! 人間にバカにされたままでいられるか!!! くっくっく! 我が奥の手を味わうがよい!!!」


「いや、あのピューピューいってますけど……」


「うるせー!!! かかってこい!!!」


 先方もそう言ってるし、仕方ないので俺はバットを構える。


「おどりゃ死に晒せえええぇッ!」


 俺の正義の一撃を食らえ!!!

 あっ! 本音と台詞を間違えた!!!

 俺のバットがライオンの頭を捉える。

 よし! 勝った!

 俺がそう確信したその瞬間だった。


「フハハハハハッ! 喰らえ!!!」


 バットがライオンの頭を捉える寸前、何かが現れた。

 それは世界各国に店舗を展開する揚げ鶏チェーンのマスコットキャラクターの像。

 大佐(カーネル)

 あれ?

 名前だっけ?

 大佐だっけ?

 まあいいや大佐で。

 つかなんで大佐がいるん?

 それにしても妙に小汚い。


「だいすけやめろッ! それはそれだけは触れるなああああああああああッ!」


 かっきーん!

 もう遅いって。

 俺のバットはサンダース大佐をフルスイングした。

 あれ? 壊れない。

 しかも爆発しない!

 なんだこれ?

 俺が困惑していると大佐の目が光る。


「ふははははは! かかったな!」


 大佐が振動を始め声が聞こえてくる。


「許サヌ……許サヌ……タイ(都合により略)ファン……我ヲ川ニ沈メ……未来永劫呪ッテヤル」


 大佐から瘴気があふれ出した。

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