対面
通された部屋には、奥にもう一つ扉があって…最後の私が部屋に入ると背中側の扉は閉まった。
すでに数人の子供が膝を折って震えているのに目を見張る。
控えていたメイドさんがその数人の襟首を掴んで、ずるずると引きずり、ぽいぽいっと転移門に放り投げた。
平気そうな子達はその子達を馬鹿にしたような目で見てて、あんまり気持ちいい光景ではなかった。
明らかに平気そうではないのに、平気だと言い張って半狂乱になってる子達もいて、なんだかいたたまれない。
ある程度片付くと、再びメイドさん達は壁際に控え…
「それでは、聖竜女様と対面していただきます」
「お手をとって、名のりを」
奥の扉の両脇に控えていた双子?の騎士が言い……奥の扉がゆっくりと開かれた。
もしかしたら、さっきの段階でさっさと退場していた方が幸せだったかもしれない…という状況になった。
いきなりバタバタと倒れる子供達…半数はひきつけを起こして泡を吹いてる。
部屋に控えていた騎士とメイド達も膝まづいて礼をとっているようだが顔色は悪い。
明らかに生命の危機っぽい子がいても、転移門に放り込む余裕はなさそうだった。
……そんな中、まったく平気で突っ立ってた私は、慌てて膝まづいた。
いや、だって皆一斉に膝を折るからさ、偉い人に対面する作法かと思ったんだもん。
空気を読む日本人ですし。
でも明らかに昏倒してる子とか、呼吸ヤバイ子とか……
さっきは転移門に子供を放り込んでたメイド達も動けそうもない様子に気付いて、慌てて立ち上がり、やばそうな子達を引っ掴んで転移門に押し込んだ。
「ちょ、ギブギブ、騎士さんいったんドア締めてっ、この子らヤバイって」
しかし彼らは私を目をまん丸くした表情で見て、固まって動かない。
うっわ、もしかして何か作法とか儀式とかあるのかしらん?
えっと、握手して名のるんだっけ?
私は慌てて奥の部屋に走り込んで、天井から垂れさがった薄い布を掻きわけると、ソファーの上クッションに埋もれるように身を預けていた……黒髪黒眼耳の上部から紫水晶のような角を生やしたとんでもない寒気がしそうな美少女の手をとった。
「私マリア、よろしくっ」
ぶんぶんと数回振ってから、とってかえし
「ほら、握手して名のったから、ドア締めてっ、子供達手当してっ」
あんま性格よろしくなさそうな子達の集団だったけど、子供を見捨てるなんて目覚めの悪そうなことは出来ないものね。
私の促しになぜか驚愕の表情のまま従いかけた騎士達は、ひぅっと呻いて両膝をついた。
「…あ、の…まって」
擦れた声とゆったりと伸ばされた手が、締められかけてた扉を停止させた。
生気なく、表情も視線も死んでるようだった美少女がそこから……雰囲気恐る恐る顔を出した。
ゴフッと嘔吐する者、明らかに心停止しそうな様子で胸を押さえて痙攣する者、過呼吸起こしてやっぱり痙攣する者と、ヤバイレベルが一気に上がった。
え、衛生兵ーっと、内心で叫びつつ、美少女の手をとって奥のソファに抱きこむようにして突っ込んだ。
「ドアっ!締めてっ!!」
なけなしの力を振り絞るかのように、重厚そうに扉がパタンと締まるとほっとして力が抜けた。
そんな私の頬に、白魚の様な指が触れ…視線を誘導された。
抱き込んだ美少女の死んでるような眼が、私を映していた。
「……へ…いき?」
瞳がふるりと揺れる。
光が宿る。
これは…十年前、粥を口にした村人達が浮かべたものと良く似ていた。
絶望のどん底で、心が動かなくなっていた人が、希望に触れて…心を動かす様子と。
人外の美少女が恐る恐る確かめる様子は、なんというかけなげで可愛くて、きゅーんとなった。
頭撫で撫でしてやって、ぎゅっぎゅ抱きしめて、ほっぺにちゅっちゅしてしまってもよかろうなのである。
なんとなく、あっちゃー…という気分もあったけれど。