スカウト?
さて、田植え完了おめでとうの宴…に、いつの間にか紛れ込んでた傭兵の人達と監査役人さんが、まさか無事に生き延びているとは思ってなかった村人達と、この現状(日本の田舎風)に、上の判断を仰がないと…と、いったん帰還してから三週間。
村には再び馬車が来た。
今度はなぜか三台。
「まさか十年分の税を収めろとか無茶ぶりしないよね?」
ちょっと不安になって呟くと、村人達も不安そうな表情になった。
とりあえず馬車を村の真ん中、集会所の庭に止めてもらう。
村の代表としてチヨばあちゃんと、その孫のヨリが馬車から下りて来たふぁんたじーな人達を集会所へと招く。
子供達も中央の貴族の馬車っぽい物にビビッて、今日は大人しく両親の側にくっ付いていた。
豪華な馬車から出て来たのは白銀の長髪と髭の、ひょろりと背が高く細い老人だった。
ファンタジーのエルフの魔法使いの老紳士みたいな人だ。
「か…っ、かっこいい」
私の呟きが聞こえた村人達にぎょっとしたように振り向かれたが、そんな驚かれることじゃなかろうなのである。
シブカッコイイだろうに。
「マリアちゃん…怖くないの?」
こそっと横から聞かれたが、首を傾げる。
良く見ると村人達の大半が少し青ざめて怯えていた。
全然平気そうなのはチヨばあちゃんとヨリ、あとは鍛冶職人のミアンさん、土木魔法使いのゲンさん、他数人くらいだろうか?
老紳士の人は、馬車から降りて私達を見回すと、全然平気そうなメンバーそれぞれに目を止め、酷く驚いた様子だった。
「すまぬが、私を見ても平気な者達も集まってくれぬかね」
目が合って、思わずにこっと微笑んで愛想を振りまいてしまった私は、逃げられるわけがなかった。
この前来た監査役人さんよりも、エリートっぽいメガネの男性とチヨばあさんとの話し合いは比較的簡単に終了した。
国が十年間放置した間の税は免除され、税も取れる麦の一割と負担は軽い。
その代わりに米のの買い取りや生産の手引きと、ここと似た気候の土地へと何人かの移住か派遣を依頼された。
「前領主のせいで、貧しい農村が多すぎるのです。麦の取れなくなった土地も多く…」
深くため息をつく役人さんに、老紳士の方が肩を叩いて慰めた。
「よかったら転移門を村に設置しよう、この村は実に豊か…単純に米を主食としているだけではなかろうて」
「転移門?」
ここに集まった村人皆で首を傾げると、老紳士は苦笑して説明してくれた。
「遠く離れた土地と土地とを、簡単に行き来できるようにする法術であるよ」
おお、ふぁんたじー
「しかしかなりの法力が…」
「少なくとも私を見て平気でいられるこのメンバーならば、問題はなかろうて」
んん?何か使用に適性が必要っぽいね。
「村人に生まれ育った土地を離れろというのは、あまりに非道だぜ役人さん」
傭兵のリーダーっぽい男性が言う。
「そうね、土地を離れると変色しやすいですし」
「短期間の出張くらいにした方がいいですね」
「婚姻を結べば移住も問題ないですが…」
良く分からないが、村に転移門を設置することは決まったのだった。
集まった村人達の中に一人、色彩の違う者…を、彼らは密かに注目していた。
黒髪に黒い目、柔らかな肌色の少女だ。
穢れのない黒は珍しい。
それだけに生まれつきなのだと分かる。
生まれつき黒の色彩を持つ者は、穢れや魔に耐性がある。
どのような身分だろうと、その存在は報告され…聖竜女と面談しなければならないことを、一段落ついた話しあいの後で切りだすと、比較的穏やかだった村人達が殺気だった。
「マリアちゃんは村の恩人だよ、いくら役人様だって…」
じわじわと髪先から濁ってゆく村人達に、彼らは慌てた。
「別に村から彼女を取り上げるつもりはないっ、ただ黒の色彩を生まれつき持つ者は、王夫候補なのだ」
聖竜女…次代の王を産む女性の夫候補と説明された村人達は、一同揃って首を傾げたのだった。