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プロローグ2

機内がざわつき始めたのは、僕達が会話を打ち切った直後だった。

「えー、このシャトルは、我々が占拠した」

「我々は土星圏解放同盟の者である!我らの要求は…え、えーと、現在収監されている我らの同志5名の即時の釈放である!」

機内放送から、こんな声が聞こえてきた。

機内放送の声は続ける。

「これから政府と報道機関向けのビデオを撮影する。そのための人質を数名選定するので、乗客乗員にはじっとして頂けると有難い。」

乗客たちは騒然となる。機内販売で機内を回っていたスチュワーデスが落ち着いてくださいと慌てて諌める。


間もなく、機内前方からマスクをかぶった男が合わせて10名ほど、歩いて来る。彼らの服装は皆一様にそろって黒ずくめで、うち何名かは肩にマシンガンを掛けている。「いるか?」「ちゃんと探すんだ。」「空港の監視カメラに写っていたのは、サングラスに黒尽くめだった。」こんなことを呟きながら、男達は誰かを探すようなそぶりで、突然の出来事に硬直している乗客達を物色していく。「人質の選定」と彼らは言っていたが、まるでその様子は特定の人物を

「…」下を向いて固まっている王女。

「お、おい、居たぞ。」男達のうち一人が気づいたようだ。こちらに向かってくる。

彼らは王女の席の周りに集まると、突然彼女に黒い袋を頭からかぶせる。

「きゃっ」「あなたが人質です。お静かに願いますよ。」

指示を出した男が丁寧な口調で言う。その男はマスクから肩にかかるほどの長髪がはみだしていた。リーダー格だろうか?

奴らは明らかに王女様を連れていく気だった。まずい



俺の心の中から、イメージが語りかけてくる。それはなぜかバッハだった。

「彼女を助けようぜ。よく妄想してただろ、こういうシチュエーション。」

バッハはヴェートーベンの「第9」をシンセサイザーで弾きながら語りかけてくる。

「いや、やめておこう。第一僕ではこんなテロリストに敵いっこないし、そもそも王女様を誘拐しようなんて考える国際犯罪に巻き込まれるなんてごめんだ。ここはじっとしておくんだ。それが賢明だ。第一、こんなところでなんの力もない僕がヒーローぶって出て行って何になる?現実は映画やコミックじゃないんだ。あのマシンガンでお腹を穴だらけにされて終了だろう。・・・いや、素手でやられるかもしれない。」

手に汗を握りながら、イメージに反論する。

「本当にそれでいいのか?男だろ?逃げんなよ」

「うん。いいよもう。それが賢明だ」

すると、バッハは第9の演奏をやめ、改めて語りかけてきた。

「お前、現実的なこと言ってれば正しいつもりなのかよ?」

「現実的で何が悪い!だから大人は嫌いだ。いちいち言うことが矛盾してるんだよ。バッハさん、いいから何か演奏しててくれ。」

「ほら、まずお前は何か嫌なことがあると一見正論じみた言葉で大人のせいにする。そのための理屈が見つからなければ、音楽で現実逃避しようとする。お前は今そのままの順序でそれを再現したぞ。」

「・・・」

「いいか?これはお前が変われるチャンスなんだ。ここでリアリストぶって何もしないでいることは、お前が嫌う大人とは同じ存在になることだ。一生後悔するぞ。」

「・・・」

「目の前の女の子がピンチなんだ。一度ぐらい、逃げるための口実を、実行してみろよ」

すると、バッハはAC/DCのHigh Voltageのサビ部分を演奏し始めた。

「HIGH!VOLTAGE! HIGH!VOLTAGE!ROCKN'ROLL!」俺を鼓舞するように歌い始める

俺のすることはただひとつ、彼女を助けること・・・俺のするべきことはただ一つ、俺のするべきことはただ一つ・・・俺は・・・


「お、おい、お前ら!そいつをどこに連れてくんだよ?」俺は衝動のままに声を上げていた。男達、そして乗客の視線が一斉に僕に集まる。


「ん?君は…彼女のお知り合いかね?」「だったら、何なんだよ?」「…少し君と話がしたい。来てもらう。」するとリーダー格の男は、手が空いていた周りの男に命する、そのうち二人が僕を腕を後ろ手に拘束し、機長室に僕らを連れて歩いていく。

「い、痛」

「おらっ、ちゃんと歩け」

ドスの聞いた声で後ろから煽られ、そこで初めて自分が今しでかしたことを実感する。

「じっとしておけば良かった…」

じわじわと、後悔が襲ってきた。アホだろ俺。何がHIGHVOLTAGEだよ。



「成る程、そういうことか…」

「どうされました、伯爵?」

「分かったよ、完全に分かったよ、あのテロリスト達の正体が。」

「あれらは土星圏解放同盟の人間ではないんですか?」

「ふむ、確かに土星圏国家のアルジャブラ、ギュラン、ローシャミル共和国は、我が国を含めた列強諸国と衛星資源をめぐって根深く対立している…『土星圏解放同盟』という武装組織も確かに実在している。だが彼らはおそらく彼らの名を騙った偽物だ。」

「?…」

「残る七名は乗客の監視にあたるようだね・・・。マイハニー、合図をしたら作戦開始だ。君の体内にある生体銃を取り出す準備をしておきなさい。」

「伯爵・・・アクションはもうこりごりです・・・私は「研究助手」じゃないんですか?」

「すまないね。ちゃんと単位はあげるから許してくれないかい。ハニー。」

「・・・今度が最後ですからね。」



「おらっ、入れ。」

俺はコックピットの床に投げ出される。ここまでに歩いてくる途中で、既に手錠をかけられていた。一方、王女様は床に丁寧に座らされた。その後、俺と王女様はロープで体をぐるぐる巻きにされ、足も縛られる。ほぼ身動きが取れない状況になった。

操縦席に目を向けると、パイロットと目が合った。だが、関わりたくないものを見るような表情をした後、目を逸らされる。

「まず少年、勇敢な君に話がある。」

リーダー格と思われる長髪男は言った。

「いま、お前と一緒に連れてきた女、これが誰か分かるか?」

「誰って…お前らは王女様を狙ってのハイジャックなんじゃ

「あーあ、少年、アウト〜」突然、ふざけた口調になる男。男は手で銃の形を作って(俗に言う田舎チョキ)俺の額に突き付け、「ばーん」と撃つ真似をした。俺の背後のハイジャック犯が笑う。

「え、え?」

「坊やの他に、王女様に気づいた感じの乗客は居たか?」

「い、いや…」

「まあ、居ないわな。変装は凝ってたし。近くから凝視しないと分からないレベルだ。第一見つかってたら、乗客一同大騒ぎだしな。」

どうやらこの長髪男にとって、王女がこのシャトルに乗っている事実が周りに知れることは都合が悪いようだ。

するとそのリーダー格の男は座っている王女の目線に合わせてしゃがむ。

「これはこれは、ご機嫌麗しゅうございますか?王女殿下?」

と、仰々しく、かつふざけたような態度で王女に話かけた。

「あ、貴方達…お兄様の手の者ですか?」

「さあ、どうでしょう?ご想像にお任せします。」

「…貴方達の目的は私の命でしょう?」

「それも御想像にお任せします。ふふ。ふふふ。」

何がおかしいんだこの男は。奴がマスクの下で失笑しながらしゃべっているのが自分にも分かった。腹が立つと同時に、こんな状況で笑っている人間には恐怖を感じざるを得ない。

「まさか貴方達、乗客の方たちを巻き添えにするつもりで・・・」

「まあ、それも止む無しですかな。全員、OUT~ってことで」

「そんな、それは・・・帝国の名において決して許されないことです!」

「その帝国のお偉いさんの命令でやってんですよ、こっちは。」

「そ、そんな…私だけを殺せば、それでいいことでしょう?」

「土星の田舎者の名前を騙ったり、いろいろ気を使ったんですがねぇ…うーん、やっぱり乗員800名もいりゃあ、このうち誰かが俺たちのクリティカルな存在になりうるかもしれない。そうするとあとから面倒くせえしな…ウン、消しておくかな。」

そう言って長髪男は立ち上がり、2名の部下に

「お前ら、作戦はプランDだ。DESTROYのD。爆破だ。皆殺しだ。とりかかれ。」

「「YES SIR!!!」」

(そ、そんな、爆破する?この機体を?えっ、え?)


まるで軍隊のような敬礼をした後、部屋を出ていく2名のハイジャック犯。これから他の構成員らに作戦を伝えに行くのだろう。飛行機を爆破した後、きっと彼らは脱出するだろう。(でも、俺は今縛られてて・・・そしたら・・・)

目の前で繰り広げられる非現実的な現実に、僕の頭は混乱する。

そして死を実感する。

怖くはなかった。想像ができなかったから。


でも、悔しかった。自分が否定してきたカスみたいな世の中、糞みたいな社会、嘘つきの大人たちとは違う存在になりたくて、勇気を出した。でも、結果はこれだ。なんてざまだ。傑作だ。結局、自分は負けたんだ。自分が散々バカににしてたものたちに。それが悔しい。悔しい悔しい悔しい。

「くそくそくそ、くそぅっ。」

思わず心の内の声を口に出してしまう。長髪男と王女様がこっちを見る。

「ちくしょう!」

もう一度、壁に叩きつけるように言う。今度はパイロットも振り向いた。顔が真っ青だ。

すると、長髪男は

「少年、ねえいまどんな気持ち?ねえ?ねえ?まあ、その無謀な勇気に敬意は評してやるよ。ハッ」と煽ってきた。

「っ…」睨むしかない俺。くそう、俺は、俺は…!


と、

その時。

コックピットのドアが勢い良く開いた。

「た、大佐ァ」

部屋にいたものは全員、息をのむ。

なぜなら、先ほど部屋を出て行ったハイジャック犯の片割れが血まみれで脇腹を押えながら入ってきたからだ。

「オ、オイ!何があった?」

「へ、変な二人組の男女、に全員、全滅、変な銃で・・・グボァッ」

口から血を吐き、入口にうつ伏せに倒れる男。

するとその背後から、

「生体銃、動作良好、と…エークセレンッ!」

「伯爵、あと一人ですよ…」

白衣を着た二人組が現れた。

「安心してくれ、二人とも…ヴィジュアル系サイエンス・ヒーローの登場だ…。」











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