第一幕その五
オレの第六感が全力でアラートを鳴らしている。
カッターシャツの下に悪寒が走るが無理矢理気にしない方向で。
しかし、高2にもなって夜道が怖いというのも恥ずかしい話だからな……
女子じゃあるまいし。
ゴクリと唾を飲み込み、地面に置きっ放しの買い物袋を抱え上げて路地を進んで行く。
タバコの吸殻や空き缶などが、所々に落ちているかと思っていたが、案外綺麗な道である。
こんな道だから不良もたむろするには躊躇われるのだろう。
1分も歩き続けると、殆ど光が差し込まなくなってくる。
光源はビルとビルの間から見える三日月のみ。
明かりの絶えない表通りとは、まるで別世界だ。
そう、別世界なのである
道の半ばを過ぎたところで、異様な雰囲気に足が止まる。
今までの道となんら変わらない道の筈なのに何かが違う様に感じられる。
さっきよりも深まった闇が、生物としての本能を刺激する。
そして、その中に存在する一際深い闇。
知っている臭いが、苦々しい過去を思いださせる。
下げていた目線をゆっくりと持ち上げ、目を凝らせば、気配の正体を確信した。
長い髪、血に汚れたセーラー服に擦り切れたスカート。
立ち昇る、死を連想させる腐臭。
右腕の欠けた、不自然なシルエット。
月光を仰ぎ見る狂人は、まだこちらに気付いていない。