第一幕 その四
昼間はさんさんと照らしていた陽の光が、随分と慎ましやかになる午後六時。
懐に優しい驚きの安さにつられて後先考えずに買い物をした結果は、数十キログラムの食品を両手で担いで自宅を目指すという、子泣き爺も真っ青な苦行だった。
とんだ重労働である。
とは言え、オレは日光があまり好きではない不健康少年なので、陽が傾いているこの時間は調子がいい。
モヤシの様な昼間に比べれば、まるでダイコンなのです。
知らんけども。
暫くすると携帯で確かめた道が、うろ覚えになってきたので、重しと化した一週間分の食料を一度置き、携帯を開く。
殆どの人はスマートフォン、略してスマホを使っているが、携帯にも根強いファンが多いのだ。
かくいうオレも世間の荒波に負けない携帯ユーザーの一人である。
なんてったってあの閉じる時の心地いい音が堪らないのだ。
勿論のこと、スライド式など邪道である。
閑話休題。
どうやら少し行き過ぎてしまったらしい。
来た道を少し戻ってみると、目当ての路地があった。
ビルとビルの間に忘れ去られた様な、隙間としか言えない様な暗い道が伸びている。
この道を500m程進めばマイハウスとの感動の御対面らしい。
逆に、この道を避けて遠回りすれば1km半のアスファルトが待っている。
……う~ん。
いつもならば間違いなく避けている。
しかし、場合によってはこれからずっとお世話になる道かもしれない。
毎日通らなくとも急いでる時に利用することも無きにしも非ずである。
それに、そろそろマイダイコン、もとい腕が限界なのだ。
こうした打算的な理由が恐怖心を上書き保存し、この路地を進むことに相成った。