第一幕 その三
オレの転校に至る道筋を説明するには何処から紐解くべきなのだろうか。
勿論最初からであろう。
昔、オレはここ横浜閉所ではない所に住んでいた。
当時はその場所にも名前があったし、横浜閉所は横浜という名前だった。
その時オレは中学生で両親と妹と共に一つ屋根の下、それなりの家族関係を演じていた。
両親は仲が悪く、それに反比例する様にオレと一つ年下の妹とは割に良好な仲を築いていて、両親は思春期絶好調の子ども達に手を焼いていた、そんな家族だった気がする。
ただ、オレ以外の三人は過去の人なので確かな記憶は保証できないが。
春と言うにはおこがましく、夏と言うには気が早い。
そんな季節のある日、我等が家族を含む世界中に異変が起きた。
全生物の数%が発狂したのだ。
早い話がゾンビパニックだった。
狂ったように飛び回る烏や、壁に体当たりする野良猫、そして母に喰いつく父はあまり心臓に宜しくない。
頭が真っ白になったオレは妹を守るという言い訳の元に鈍器を手にとった。
阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
役立たずの政府に依ると遺伝子の一部が分解し適当に再構築される病らしい。
つまり脳をかき混ぜたら理性が飛んだという話。
普通、そんなことされたら死ぬ。
しかし、何故か死なずにゾンビ化し、破壊と捕食に勤しみ始めた。
人々は元隣人であるゾンビを狂人類と呼んだ。
ゾンビパニックで大混乱の中、父は狂人類化、母は捕食、妹は行方知らずの不幸に見舞われた。
そんな中、保身に懸命な政治家が行った事は都市の要塞化オンリーだった。
バットを担ぎ父の血に濡れたオレは、その噂を聞き横浜に向かって足を向ける。
二年と半年前の話である。
まあ、その後も色々あった。
念の為に、閉所に住む全員を検査してみたところ、30%近い人数の遺伝子異常者が見つかったのである。
どうやら、彼らは脳みそをかき混ぜられても理性を保っていられるタフな奴ららしい。
というのは冗談で、分解した遺伝子がほぼ元通りに再構築された様なのだ。
ただ、元通りにならなかった遺伝子は様々な変化を人に与えた。
足が速くなった者、翼が生やせるようになった者、中には超音波を操れる者もいるらしい。
そんな人々が超人類と呼ばれるのに時間はかからなかった。
また、国民の数が大幅に削減された結果として一人当たりに掛けれる金が増えたらしい。
閉所は急激に発展し、身寄りのない子どもにお金も手配された。
瓦解した企業のサイフをちゃっかり手に入れたとあっては納得である。
そして無事にとは言い難いが高校生になったのだが、一年生の三学期に教育委員会から転校命令があった。
住まいの手配はするし、月の支給も増やすとあれば喜び勇んでお引越しするのは仕方ない筈だ。
そう、仕方が無い筈なのだ……