第4話 シャルロッテ令嬢
「オ〜ッホッホッホ! 見なさい、この薄汚れた石造りの建物を! まるで私の輝かしい美貌を際立たせるための泥団子のようですわね!」
教会の静かな午後に、鼓膜を突き破らんばかりの高笑いが響き渡った。
豪奢な馬車から降り立ったのは、金髪の縦ロールをこれでもかと巻き上げた少女、シャルロッテ・ド・パンペルムースである。
彼女は扇子をビシッと広げ、背後に控える数人の用心棒たちを引き連れて、教会の門を蹴破らんばかりの勢いで進み出た。
「さあ、出てきなさい! この土地の所有権を放棄し、速やかに立ち退くのですわ! そうすれば、ここに通い詰めている我が愛しのグリハン様も、ようやく目を覚まして私の元へ――」
「あ、巻き貝のお姉ちゃんだ!」
「すごい、頭にコロネが乗ってる!」
シャルロッテの口上を遮ったのは、教会の庭で遊んでいた孤児たちの無邪気な歓声だった。三歳から六歳の幼い子供たちが、キラキラした衣装を纏ったシャルロッテを珍獣を見るような目で見つめ、一斉に駆け寄ってくる。
「なっ、なんですの貴方たちは! 汚れた手で私の最高級シルクに触れないでくださ……きゃっ!?」
「ねえねえ、これ本物の金? 噛んでいい?」
「お姉ちゃん、その髪って引っ張るとビヨンビヨン伸びるの?」
「ちょ、ちょっと! やめなさい! 伸びませんわ、これは私の誇り高き……ああっ! 左右の巻きの数が変わってしまいますわーッ!」
孤児たちの「可愛い攻撃」に、シャルロッテは早くも防戦一方だった。
そこへ騒ぎを聞きつけたリオラが、のんびりと中から顔を出した。
「まあ、お客様? あら? シャルロッテ様、今日も一段と……その……独創的な髪型ですね」
「独創的とは失礼な! これは高貴なる貴族淑女の嗜みですわよ、リオラ! それよりグリハン様は!? グリハン様を出しなさい!」
「グリハンお兄ちゃんなら、裏庭で薪割りをしていますよ。でも今はラオ君に『効率的な破壊の形』を教わっている最中で、少しお忙しいかも……」
「薪割り!? ああ、なんて痛ましい……。あのような高潔な騎士様が、そんな野蛮な作業に従事させられているなんて! 全てはこの教会のせいですわ! さあ、下僕たち! この不浄な建物を――」
「……やかましいぞ、小ヌルい女め」
低く、だが場を支配するような声が響いた。
教会の屋根の上で日向ぼっこをしていたラオが、軽やかに地面へと飛び降りた。
「何ですの、その生意気な子供は。……あら、でも、少しだけ整った顔をしていますわね。将来は私の庭師の三番手くらいにはして差し上げてもよろしくてよ?」
「フン、虫ケラの庭をいじる趣味はない。それより貴様、さっきから我の耳を汚しているその『オッホッホ』という奇声は何だ。新種の魔物か?」
「き、奇声!? これは淑女の嗜み、高貴なる笑い声ですわ! 貴方、名前は?」
「我は破壊神ラオデレティオ。……貴様、名は?」
「おーっほっほ! よくぞ聞きましたわ! 私はシャルロッテ・マリア・フランチェスカ・ド・パンペル……」
「わかった、シャル子だな」
「略しすぎですわーーッ!! せめてシャルロッテとお呼びなさい!」
ラオは鼻で笑うと、指先を小さく動かした。
「シャル子よ。貴様が連れてきたその背後の置物どもは、我の結界を汚している。……【塵芥は塵芥へ】」
パチン、と指が鳴る。
次の瞬間、シャルロッテの後ろに控えていた屈強な用心棒たちのズボンが、一斉に消滅した。
「……え?」
「……は?」
静寂が流れる。風が吹き抜け、用心棒たちの太ももを冷やす。
「ぎゃああああ! 変態ですわーッ!!」
シャルロッテが悲鳴を上げ、扇子で自分の目を覆う。用心棒たちは「おのれ、神罰か!」と叫びながら、下半身を隠して馬車へと逃げ帰っていった。
「さて、シャル子。貴様もあのアホどもと一緒に帰るか? それとも、あそこで泥遊びをしている子供たちに、その珍妙な髪を泥団子の芯にされるか選ばせてやろう」
「な、なななな……なんですの、その卑劣な魔法は! 恥を知りなさい!」
「シャルロッテ様、まあそんなに怒らないで」
リオラののんびりとした声色がシャルロッテの毒気を抜いていく。
「せっかく来てくださったんですもの。ちょうど今、子供たちが作った『特製泥ケーキ』が焼き上がった(天日干しした)ところなんです。一緒に食べましょう?」
「た、食べませんわよ! 泥なんて! 嫌、離しなさい! 私はグリハン様に会いに……ああっ、髪に泥が! 私のパンペルムース家秘伝の縦ロールがァーッ!」
結局、シャルロッテはその日の午後を、子供たちに「お姫様ごっこ」の生贄にされることで費やすことになった。
◇◇
夕方。ボロボロになった縦ロールを引きずり、泥まみれで馬車に乗り込むシャルロッテ。
「覚えていなさい! 次こそはグリハン様を救い出し、この小ヌルい(ラオの真似)教会を更地にして差し上げますわッ!」
捨て台詞を残して去っていく馬車を見送りながら、ラオはポリポリと頭をかいた。
「何だったのだ、あの騒がしい女は。……リオラよ。あの女、また来るのか?」
「ええ。とっても楽しそうだったわね。ラオ君、お友達ができてよかったわね!」
「……お友達ではない。小ヌルい玩具だ」
破壊神の居候生活に、また一つ、騒がしいルーチンが加わった瞬間であった。
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ラオは少――しずつ今の体で、力を増やしていってます。彼の本来の力に体が馴染んでくるという感じです。
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