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天界の破壊神、転生する〜少年の姿で降臨した破壊神が自分の平穏(破壊)の為に世界やら孤児院やらを守護る?〜  作者: 十目 イチ


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第20話 聖都の夜は更けて(後編)

 大教会の地下深く、禁書庫へと続く回廊は静謐という名の重圧に満ちていた。

 そこには王国の歴史や高位の魔導書、そして近隣諸国との外交上の機密が眠っている。


 影が不自然なほど滑らかに動いた。

 下働きの服を着た男は、見張りの騎士たちの意識を「認識阻害の術」で逸らし、音もなく重厚な扉の隙間へと滑り込む。


「……フン。これがあの噂に名高いアステミア大教会の禁書庫か……」


 男の瞳に、工作員特有の冷酷な光が宿る。彼は手慣れた手つきで書棚の隠し仕掛けを探り、一冊の本を抜き取ろうとした――その時。


「……小ヌルい。実に、小ヌルい手癖だな、羽虫」


「――ッ!?」


 男は弾かれたように振り返った。

 視線を向けると月光の届かぬ暗がりに、黒髪の少年が一人、壁に背を預けて立っていた。


「……いつからそこに……! 教会の神官(ガキ)か……?」

「貴様が漁ろうとしているその書物は、我の安眠を妨げる原因になる。……神父の奴、それが盗まれれば明日の朝から小難しい顔をして、我にさらに多くの『掃除』を命じるだろうからな」


 ラオの指先が、微かに青白く光る。

 本来なら、この無礼な侵入者ごと、この空間の概念を消去してしまえば済む話だ。ちり一つ残さず消し去れば、誰も気づかない。


(……だが待て。ここでコイツを消せば、明日の朝、リオラが『教会で人が消えた!』などと大騒ぎするかもしれん。……それに、あの筋肉グリハンなら、こういう時『生かして捕らえるのが軍人の正義だ』などと、暑苦しい説教を垂れるだろうな)


 ラオは、ふっと指先の光を収めた。

 破壊神の矜持よりも、明日の朝の平穏――そして、リオラの作る「小ヌルくない食事」の時間を優先することにしたのだ。


「……運が良かったな、羽虫。貴様の命を、あのアホ共の顔に免じて、一晩だけ貸し付けてやる」

「何を……っ! 死ねッ!」


 間者が懐から毒を塗った短剣を抜き放ち、ラオの喉元へ突進した。

 だがその刃がラオに触れることはなかった。


「――因果の反転。重力、および肉体の自由を剥奪せよ」


 パチン、と指が鳴る。

 次の瞬間、間者の男はまるで目に見えない巨大な蜘蛛の巣に絡め取られたかのように、宙に浮いたまま全身を硬直させた。

 声も出せず、指一本動かせない。ただ眼前に立つ少年の「神の如き瞳」に射すくめられ、死よりも深い恐怖にその魂を震わせるしかなかった。


「……そのまま朝まで、己の『小ヌルさ』を呪いながら固まっていろ。夜明けと共に騎士団が貴様を『ゴミ』として回収するだろう」


 ラオは、動かぬ彫像と化した間者を一瞥もせず、悠然と禁書庫を後にした。


 ◇◇◇


 翌朝。

 聖都の空を告げる鐘の音が響き渡る中、大教会の広場は再び活気を取り戻していた。


「――大変っしょ! 禁書庫に間者が迷い込んでたっしょ! しかも魔法も何も効かない状態で固まってたとか、マジで意味不明っしょー!」


 朝食の席で、ベッキーがいつもの語尾を全開にして騒いでいた。

 サミエル神父は、大司教の礼装に身を包みながら、穏やかにパンをかじっている。


「ホッホッホ。それは奇妙なこともあるものですね。……きっと我が王国の守護聖人が、悪しき者を懲らしめてくれたのでしょう」


「……フン。聖人の趣味が悪いだけではないのか、神父」


 ラオが冷めたシチュー(やはり出汁が薄い)を啜りながら毒づくと、サミエル神父は「さて、どうでしょうね」と楽しげに目を細めた。


「サミエル様、そろそろ公務の時間ですわ! ラオ君、私たちは研修に行ってくるから、ちゃんとお留守番してるのよ! ベッキーさん、ラオ君をよろしくお願いしますっしょ!」


 リオラは、昨夜の大浴場での一件を(必死に)忘れたかのような、明るい笑顔でラオの手を握った。


「わかってるっしょ! 今日はラオ君を、王都の流行りスポットに連れ回すっしょ! ……さあ、準備はいいっしょ、チビ君!」

「……離せ、ベッキー。我はただ、小ヌルくない肉を探しに行くだけだ。……貴様のそのふざけた案内についていく義理はない」

「そんなこと言って、本当は楽しみなっしょ? ほら、行くっしょー!」


 サミエル神父とリオラを見送り、ラオはベッキーに首根っこを掴まれるような形で、賑やかな聖都の街頭へと連れ出された。


「……小ヌルい。実に見苦しい。……だが、あの間者の死体を見なくて済んだのは、少しだけマシだったか」


 ラオは、背後にそびえ立つ大教会の尖塔を振り返り、小さく鼻を鳴らした。

 破壊神の「初めての王都観光」が、今、強引に幕を開けた。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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