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天界の破壊神、転生する〜少年の姿で降臨した破壊神が自分の平穏(破壊)の為に世界やら孤児院やらを守護る?〜  作者: 十目 イチ


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第17話 神の休日と聖都への招待状

 アイゼン砦を巡る狂乱が、まるで遠い異国の出来事であったかのように、セステアの丘には穏やかな陽光が降り注いでいた。

 だがその日の教会の空気は、どこか「浮き足立って」いた。


「……ぬ。……騒がしい。静寂こそが我への最高の供物だと、あれほど教えたはずだが」


 夕食を終えたばかりのラオは、不機嫌そうに銀の匙を置いた。

 視線の先では、リオラが大きな革製の鞄を広げ、修道服の予備や聖典そして大量の干し肉を詰め込んでいる。

 その横ではサミエル神父がこれまた旅慣れた手つきで、古びた杖の手入れをしていた。


「あ、ラオ君! ごめんなさいね、バタバタしちゃって。でも、これだけは忘れないようにしないと……あ、予備の石鹸も!」

「リオラ、落ち着きなさい。聖都は逃げませんよ。……おや、ラオ君。不思議そうな顔をしていますね?」


 サミエル神父が、眼鏡の奥の瞳を細めて微笑んだ。その立ち居振る舞いは相変わらず「田舎の好々爺」そのものだ。


「……何をしている。貴様ら、この我を置いて、集団で夜逃げでも企てているのか?」

「夜逃げだなんて! 巡礼よ、巡礼! 私、神官見習いとして、一度は王都の大教会で研修を受けなきゃいけない決まりなの。サミエル神父様が引率してくださるから、明日から一週間ほど留守にするわね」


 リオラが期待に胸を膨らませ、頬を上気させて語る。

 ラオにとって、それは寝耳に水であった。一週間。それはリオラの作る「肉多めのシチュー」が食卓から消え、サミエル神父の「小ヌルいお茶」による説教から解放されることを意味する。


(……好都合ではないか。これならば、一週間誰にも邪魔されず、我が魔力回路の深層修復に専念できる)


 ラオが内心で、破壊神らしい陰湿な休暇計画を練り始めた、その時。


「――よう、ラオ! 留守番の間のメシは俺に任せろ。気合の入った『軍隊食』を叩き込んでやるからなッ!」


 背後から、鼓膜を震わせる爆音が響いた。

 現れたのは、長期特別休暇という名の「アイゼン砦防衛の論功行賞」をもらったグリハンだった。

 彼は不敵な笑みを浮かべ、巨大な食材の袋をドサリと床に置いた。


「……貴様か、筋肉。……なぜここにいる。貴様の居場所は、鉄臭い前線か、シャル子の縦ロールの横ではなかったか?」

「サミエル神父から頼まれたんだよ。リオラたちが王都へ行っている間、この教会の用心棒兼、炊事係としてな。安心しろ、俺の作る『岩塩スープ』は、根性が座るぞぉ!」


 ラオの顔が、みるみるうちに無表情へと固定された。

 

 筋肉、軍隊食、岩塩スープ……。

 

 それは破壊神が最も忌み嫌う「無粋」の塊であった。リオラのいない一週間この男が同じ教会にいる。それはラオにとって休暇ではなく、新手の拷問に他ならない。


「……神父。我も行く」

「えっ?」

 

 リオラが驚きに目を丸くする。


「……この筋肉のスープは、我が魔力回路を物理的に腐敗させる恐れがある。……それに、王都とやらには、これよりも美味い肉があるのだろう? 偵察(つまみ食い)が必要だ」

「ホホホ、なんだがよく分からない理由ですがそれは名案だ。実は私からも誘おうと思っていたのですよ、ラオ君」


 サミエル神父が、穏やかな笑みを浮かべる。

 

「王都の大教会は、この国で最も清浄な魔力が集まる場所。君のような『感受性の強い』少年には、良い刺激になるはずだ。……リオラ、ラオ君の分も準備を進めておきなさい」

「は、はいっ! ラオ君も一緒に行くのね! ……あ、でも、王都では粗相しちゃダメよ? とっても偉い司教様とかがいらっしゃるんだから!」

「……フン。司教など、我から見れば地這う虫と大差ない。……おい、筋肉。留守の間に我の部屋を汚すなよ」

「はっはっは! 相変わらず生意気なガキだ! 気をつけて行ってこいよ!」


 ◇◇◇◇◇


 翌朝。

 セステアの丘には、一台の馬車が停まっていた。サミエル神父が手配した王都へ向かう為の馬車だ。


「お土産は、王都で一番流行っているリボンですわよーっ!」


 見送りにはルルやニーナたち孤児に加え、なぜか早朝から駆けつけたシャルロッテの姿もあった。

 彼女はグリハンの隣に陣取り、あたかも「留守中の女主人の代理」のような顔をして扇子を振っている。


「フン……小ヌルい」


 馬車の窓から顔を覗かせたラオは、不満げに鼻を鳴らした。

 

 御者台で穏やかに手綱を握るサミエル神父が鞭を揺らすと、馬車がゆっくりと動き出す。

 王都に向けて、三人の乗る馬車は街道を進んで行った。



 ◇◇◇◇

 


 街道の先に王国の中心たる聖都の巨大な尖塔が、かすかに姿を現し始めていた。


 それは破壊神(ラオ)にとっての「初めての遠出」であり、同時に王国の深部に潜む闇とサミエル神父の真の権威に触れる旅の始まりでもあった。


 

「さあ、ラオ君。……ここがアステミア王国の中心、聖都アステミアですよ」


 サミエル神父の楽しげな呟きは、馬車の軋む音にかき消されたが、ラオの鋭い聴覚はその言葉を逃さなかった。


「フン……なるほど。ここがあのクソジジイを信仰する国の中心か」


 馬車は揺れる。

 新たな波乱の予感を乗せて、一行は聖都アステミアへと足を踏み出すのであった。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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