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第4章 決断の夜


 夜の学園は、

 昼とは

 別の顔を

 見せる。


 灯りを落とした

 廊下。

 月光だけが

 床に

 細い線を

 引いていた。


 マーガレットは

 一人、

 自室の

 窓辺に

 立っていた。


 指先が、

 わずかに

 震えている。


「……

 くだらない」


 そう

 呟いて、

 拳を

 握りしめた。


 自分は

 誰よりも

 強い。


 誰よりも

 賢い。


 そう

 信じてきた。


 信じなければ、

 生き残れなかった。


 貴族の家に

 生まれ、

 期待され、

 比較され、

 値踏みされる

 日々。


 少しの

 隙も

 許されない。


 弱さは

 罪。

 迷いは

 負け。


 だから、

 彼女は

 笑わなかった。


 だから、

 人を

 遠ざけた。


 そうすれば、

 傷つかないと

 思っていた。


 ――

 エリシアが

 現れるまでは。


 最初は、

 ただの

 目障りな

 存在だった。


 身分は低い。

 態度は控えめ。

 なのに、

 なぜか

 視線を

 集める。


 理由が

 わからなかった。


 努力も、

 野心も、

 表に出さない。


 それなのに、

 人は

 彼女の話を

 聞き、

 笑顔になる。


「……

 気に入らない」


 そう

 思った。


 だから、

 排除しようと

 した。


 噂を流し、

 孤立させ、

 立場を

 思い知らせる。


 それが、

 正しいと

 信じていた。


 自分が

 築いてきた

 世界を

 守るために。


 だが。


 あの日、

 見てしまった。


 中庭で、

 並んで

 立つ

 二人を。


 アルフレドの

 あの表情。


 誰にも

 向けたことの

 ない、

 穏やかな

 眼差し。


 胸の奥が、

 ぎゅっと

 締めつけられた。


「……

 あれは、

 違う」


 わかって

 いた。


 彼女が

 欲しかったのは、

 王子の

 隣では

 ない。


 欲しかったのは、

 あの

 眼差し。


 誰かに

 理解され、

 否定されず、

 ただ

 見つめてもらう

 こと。


 それを、

 エリシアは

 自然に

 手に入れて

 いた。


「……

 ずるい」


 声が、

 かすれる。


 嫉妬。


 それを

 認めた

 瞬間、

 何かが

 崩れた。


 鏡に

 映る

 自分の顔。


 冷たく、

 強く、

 完璧な

 “悪役令嬢”。


 その仮面が、

 今、

 重かった。


「……

 私は」


 問いは、

 誰に

 向けたのか

 わからない。


「このまま

 で、

 いいの?」


 答えは、

 なかった。


 ただ、

 思い出す。


 エリシアの

 声。


 怯えながらも、

 逃げなかった

 姿。


 誰も

 悪役にしない

 選択を

 したいと

 言った言葉。


「……

 馬鹿ね」


 それでも。


 胸の奥が、

 熱く

 なる。


 マーガレットは

 深く

 息を

 吸った。


 そして、

 初めて

 決めた。


「……

 終わらせる」


 この

 歪んだ

 関係を。


 自分が

 演じてきた

 役を。


 悪役で

 あることで

 守ってきた

 ものを、

 手放す。


 怖かった。


 今までの

 自分を

 否定する

 ことになる。


 それでも。


「……

 逃げない」


 誰かの

 言葉が、

 胸に

 残っていた。


 マーガレットは

 机に向かい、

 一通の

 書状を

 書き始める。


 宛先は、

 王子。


 内容は、

 すべての

 始まりを

 壊す

 告白。


 自分が

 仕組んだ

 噂のこと。


 エリシアへの

 妨害。


 すべてを

 明かす。


 ペンを

 置いたとき、

 指先は

 震えていた。


 けれど、

 不思議と

 心は

 静かだった。


「……

 これで、

 いい」


 夜は、

 まだ

 深い。


 けれど、

 マーガレットは

 初めて、

 朝を

 待てる

 気がしていた。


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