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至弱のナーフ  作者: 希餅
1/1

決闘開始

長編に挑戦中です。よろしくお願いします。

プロログ大陸は卵の形をしたような大陸である。大陸の北側から南側までをズドンと真っ二つに割るようにして2つの国の国土が広がっている。西側に広がるのがサイツヨ帝国で、東側がマケン王国である。そして2つの国は、これから人類史にも残るような歴史的な瞬間を迎えることになる。それぞれの国を代表する越者(えつしゃ)による、両国の統一、あるいは一方の生存と一方の滅亡を賭けた決闘が行われるのである。


プロログ大陸の中央部には、ファスト砂漠と呼ばれる大きな砂漠が広がっている。この砂漠はサイツヨ帝国とマケン王国の国境にまたがっており、乾いた大地には人の住む集落もほとんど存在しない。ゆえに、越者同士の決闘の舞台としてこの砂漠が選ばれたのは、ある意味必然だった。


太陽が、黄土色に染まる大地を容赦なく照らしていた。日輪がほぼ天頂へ達し、影が極端に短くなった頃、砂漠の上を一人の男が歩いていた。


風に揺れる白い髪は短く整えられ、襟足だけを長く伸ばして三つ編みにしている。その編み込まれた髪が歩みに合わせて左右に揺れる。赤い瞳は、黄土色の大地と、その上に広がる果てのない空とを静かに映していた。


そして何より目を引くのは、その肌だった。

深く焼けた褐色の肌の上に、血管のような白い線が無数に走っているのだ。

肩を落とし、前を開いた胴着から見える腕や胸元にはもちろん、足首を紐で縛るようにして履いた胴着からのぞく素足にまで、白い線はつま先へ向かって伸びていた。


この男こそ、サイツヨ帝国を代表する越者――モスト・ストロング・モスト。

与えられた二つ名は“至強(しきょう)”。

その二つ名が示す通り、サイツヨ帝国において最強と認められた越者である。




モストは、やがて足を止めると、空を見上げる。太陽は今日も元気一杯だ。まぁ元気が有り余りすぎた結果、この辺りは砂漠なんだったな。


「暑い。なんだってんだ。決闘の場所は、やたら暑かったり、寒かったりばっかりだな。たまには、広々とした草原でやったって良いんじゃないのか」


愚痴は誰の耳に入ることなく砂漠の上で蒸発して消えていく。


もちろん理由は分かってはいる。越者とは、人間の枠を完全に越えた者のことであり、その力は凄まじい。そんな越者同士が決闘を行うのだから、周りへの被害は甚大なものになる。そのため、越者が決闘を行うのは決まって、人があまり居なさそうな場所ばかりなのだ。


今回のように砂漠であることもあれば、雪が解けることのない広大な雪原であることもある。だったら広い草原のようなところでも良いんじゃないか――とサイツヨ帝国の宰相に聞いたこともあったが、「草原は遊牧などの使い道がありますので」と返された。砂漠や雪原にも使い道があるだろうと返したかったが、肝心の使い道を思いつかなかったので辞めた。


日差しは、褐色の肌に焼きつくように降り注いでいる。もちろん、越者である自分がこの程度でダメージを負うことはないし、体力を奪われることすらない。実際、砂漠の真ん中にいながら汗の一滴も出ていない。


だが――暑いとか寒いとか、そういう感覚そのものが精神に妙に疲れをもたらす。これは、越者になる以前、まだ“ただの人間”だった頃の名残なのかもしれない。


そんな精神的な暑さにうんざりして顔をしかめていると、

視界の正面に、ふわりと砂煙が見え始めた。


「…やっと来たか」


マケン王国の代表である越者――カマセ。

今回の決闘の対戦相手である。この決闘には、人類史上初となるプロログ大陸の統一がかかっている。歴史的瞬間、という言葉では足りないほどの大勝負だ。マケン王国の存続まで関わるとなれば、越者カマセはマケン王国の最強の越者であるはずだ。


そうなると、この決闘は頂上決戦、いや――まさしく頂上決闘といえる。


やがて砂煙りの正体が見えてくる。赤い大きなトカゲのような生物が地を這うようにして進んでくる。この生物に見覚えがある。


「グランドドラゴン、か」


翼を持たないドラゴンであり、ドラゴン種の中でも屈指の巨体を誇る。そしてなにより、マケン王国の国獣でもあった。


モストの目はさらに詳細を捉えていた。グランドドラゴンの大きな頭頂部、その上に胡座をかいて座る人影――越者カマセだ。


すると、グランドドラゴンの向こうから、微かに声が聞こえてきた。


「カマセ、カマセ」「カマセ、カマセ」


誰かが、カマセの名前を鼓舞するように何度も叫んでいる。号令の様にも聞こえた。


目を凝らすと、カマセの乗るグランドドラゴンの後方から、小さな影がいくつも連なって追従しているのが見えた。兵士たちだ。小型の騎乗用ドラゴンにまたがり、砂煙を巻き上げながらこちらへ駆けてくる。ざっと数えても、千を超えていそうだ。


「カマセ、カマセ」と、留まることなく繰り返される号令を聞き流しながら、モストは顔を歪めた。越者同士の決闘は基本的に一対一で行われる。決闘の場所には、決闘を行う越者以外、誰も近づけないという暗黙の了解がある。理由は簡単だ――近くにいれば、越者同士の戦いに巻き込まれる可能性がある。それは、従者ですら例外ではない。だからこそ、カマセがこうして千を超える兵士を従え、わざわざこの場に現れたことに、モストは違和感を覚えた。


「初めて相まみえるな!サイツヨ帝国の越者モストよ!」


バカみたいにでかい声が、砂漠の大地に響き渡り、モストの耳に届く。その声に気を取られ、さっきまで考えていたことは一瞬で吹き飛んだ。カマセは、グランドドラゴンの頭頂部で胡坐を解き、ゆっくりと立ち上がる。


まだ距離は随分とあったが、モストにはカマセの姿がはっきりと見えた。越者の超人的な視力が成せる技である。


頭頂部まできれいに刈り上げられたスキンヘッドは、太陽光を反射して眩しい。肘から手先、膝下から足先には豪華な鎧を身にまとっており、金でコーティングされたその鎧にはさまざまな色の宝石が散りばめられており、光を受けてキラキラと輝いている。風を受けてパタパタと波打つ道着は金糸で作られているのか真っ金々で、これもまた光を反射して――もういいや。


鎧と道着の隙間から覗く体は、修練によって引き締められた肉体であることがはっきりとわかる。しかし、上から下まで金ピカで光り輝くその姿を眺めていると、モストはさらに気温が上がったような気分になり、ゲンナリする。


「我が名は、カマセ・ドッグ・マケン!

マケン王国の第一位越者にして、プロログ大陸最強の越者である!

栄光ある二つ名は”無敵”。この大陸の統一をかけた大舞台で、”至強”を冠したお前と矛を交えることができるとは、何たる僥倖か!」


そう大袈裟な口上を、大袈裟な恰好をして述べ終えると、カマセは後ろを振り返り、追従する兵士たちに声をかける。

真っ赤なマントが風でパタパタと揺れている。


「お前たち!お前たちは、この歴史的瞬間を最も近くで見届けるという栄光と義務を負っている!私が大陸の覇者となる瞬間を、目に焼き付け、心に刻むのだ!」


兵士たちが呼応する。

「カマセ!カマセ!カマセ!うぉおおお!」


モストはなんだか疎外感を感じていた。

「なんかイヤになってきたな……一応、オレが決闘相手なんだけどな……」


カマセは再びモストに体を向け、大きく腕を広げる。太陽を背にして、天を仰ぐかのような姿はずいぶんと絵になっていた。そして何より大袈裟で金ピカだった。


「私はマケン王国の全て臣民に問う!」


「カマセ!カマセ!カマセ!」


カマセに呼応する兵士たちの咆哮は、さらなる熱を帯び、大地そのものを震わせるかのような迫力へと変わっていった。


「どんな困難も決して通さぬ!マケン王国が誇る不抜の盾は誰か!」


「カマセ!カマセ!カマセ!」


「どんな難敵も必ず打ち砕く!マケン王国が誇る必抜の矛は誰か!」


「カマセ!カマセ!カマセ!」


「そうだ――私だ!

 そしてこの身は、マケン王国の存続と永遠の繁栄のためにある!

 ならば、そのために、今すべきことは何か。――勝つことだ!

 故に――私はマケン王国のすべての臣民に捧ぐ! ――勝利を!」


「勝利を!勝利を!勝利を!」


カマセの口上を、モストはどこか醒めたような、不思議な心地で眺めていた。しかし、モストの越者としての感覚は、非常に強く研ぎ澄まされていた。そして、カマセの身体から迸る魔力――エネルギーの源――が大きく膨れ上がっていくのを感じていた。しかし、同時に驚愕していた。魔力の膨れ上がる速度が尋常ではなかったのだ。攻撃の意思を隠す気が全くない。


「っち…不意打ちか」


モストは、戦闘態勢への移行を余儀なくされた。


越者が使用する唯一と言ってもよい防御術、法纏(ほうてん)――魔力を身体に纏わせ、攻撃を受け止める術。


濃密に伸びた時間の中で、モストは自らの体の中を迸るエネルギーの激流を感じながら、自らの体の表面を薄膜のような魔力を纏っていく。


もう少しで全身を纏い終わり――


その瞬間。


黄土色の砂で覆われた大地を、一条の光が駆け抜ける。


同時に、モストの胸元へ巨大なハンマーを叩きつけられたかのような衝撃が襲い掛かる。


視界が千切れ、青い空と黄土色の大地がブレた。


抵抗する間など一切ない。大地に落ちる隕石が描く軌道を、そのまま逆行するように、モストの身体は後方へと吹き飛ばされた。


カマセが攻撃を仕掛けてきたのだと理解したのは、吹き飛ばされた後だった。そして吹き飛ばされる直前――カマセが投げかけた声が、モストの脳裏で反芻していた。


「――決闘開始だ」


お読みいただきありがとうございます。

ゆっくり進めていこうって思ってます

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