B級VRRPGがカオス過ぎた
「よっ、翔」
「おっ、彰人じゃん。チープファンタジーはもうやったか?」
学校で同じクラスの彰人に声をかけられた翔は、彼にチープファンタジーの話を振った。
チープファンタジーとは公式がB級VRRPGと謳っている新作ゲームだ。
このゲームは前々から話題になっていた。
『多額の開発資金が必要なVRRPGでわざわざB級作品を作るのバカだろ』
『わざわざ開発費のかかるジャンルでやるからこそ、面白そうじゃん』
『ただのクソゲーで終わるのか、バカゲーになるのか興味あるから、お前らレビュー頼むわ』
といった感じで、良くも悪くも注目を集めていた。
「ああ、やったよ」
「どうだった?」
「すんげぇカオスな仕上がりだった。翔はまだやってないのか?」
「ああ、だから彰人がやってるなら先に話を聞きたいって思ってさ」
まだチープファンタジーをプレイしていなかった翔は、購入すべきかの判断をするため、彰人の感想を求めた。
「クソなところはあるけど、きちんと面白かったよ」
「具体的にはどんな感じよ?」
「一例を挙げると、2Dの雑魚モンスターがいた」
「は?」
自由に歩き回れるVRRPGは、モンスターの側面を隠すのはほぼ不可能だ。
もし側面を見せないようにするなら、それは回り込めないほど横に広がる壁のようなモンスターに限定される。
それなのにチープファンタジーは普通サイズのモンスターを2Dにしていた。
「正面からの攻撃が通らない代わりに、後方から攻撃すれば即死するハリボテモンスターなんだけどさ、見た目までハリボテにするとは恐れ入ったよ」
「手抜き判定じゃないのかよ!?」
「そりゃそうだ!あれは手抜きじゃなくて芸術だよ芸術!」
翔のように酷い手抜きだと感じる人は多い。
しかし、彰人は2Dモンスターはそのハリボテモンスター一種類のみと知っていた。
だから、彰人は2Dのモンスターを手抜きではなく純粋な遊び心として評価していた。
「背景はどう?」
「残念ながら背景は純粋な手抜きだ」
ハリボテモンスターを評価していた彰人だったが、背景の手抜きは擁護しなかった。
「やっぱフリー素材?」
「察しの通りだ。そこに関しては純粋な手抜きポイントよ」
彰人はフリー素材の流用は評価しなかった。
彼にとっての面白さはチープな笑いで、純粋な手抜きによるコストカットを求めていないからだ。
「まあ、フィールドは純粋な手抜きだったけど、ダンジョンは面白いネタを仕込んでたぞ」
「ほー、どんなところよ」
「でかい岩が転がってきたり、振ってくるってのあるじゃん?」
「ああ、あるある」
RPGでは定番転がってくる岩を避けながら進み、時に通路のくぼみでやりすごす定番の仕掛けだ。
「なんと代わりにでっかいウンコがごろごろ転がってきます!」
「きったねぇ!」
翔は思わず嫌悪感を口にする。
ゲーム内のこととはいえ、回避できなければ顔面にウンコが直撃だ。
汚いし臭くて嫌だという感情が、シュールな絵面を楽しむ意識を上回ると楽しめなくなる。
翔もそんなタイプであり、例えゲーム内でも糞尿塗れになるのは嫌だったようだ。
「翔はゲーム内でもウンコ被るのは無理か」
「彰人は平気なのかよ……」
「ゲームだしな」
「……ちなみに臭いは?」
「めちゃくちゃ臭い!」
「おぇっ……」
臭いがリアルだったという話を聞き、翔は一層拒否反応を示した。
「ウンコの話は気持ち悪くなってきたから、他のネタ頼むわ」
「そんなに嫌だったか」
「ああ、チープファンタジーは買わないことが確定した」
「面白いんだけどな」
「話を聞いてる分には俺も部分的には面白そうって思うんだけどな」
彰人は翔がチープファンタジーを買わないと決めたことにがっかりしながらも、他にどんな面白ポイントがあったかと記憶を掘り起こす。
「ああ、そうだ。ダンジョンにもう一つ面白い仕掛けあったわ」
「またウンコじゃないよな?」
「さすがに違うから安心しろ」
翔は彰人の話を聞いて胸をなでおろす。
「よくある扉の開錠手段で、別の場所にあるスイッチを押すとか、レバーを引くのあるじゃん?」
「ああ、あるな」
「チープファンタジーでは、なぜかそのスイッチが壁から生えてる手とジャンケンして勝つことで開錠される」
「どうしてそうなるんだよ!」
「それは俺が聞きたい」
どうして壁から手が生えてるのか?
何でわざわざジャンケンするのか?
ツッコミどころ満載なその仕掛けに、詳細な設定はない。
ただのノリで作られたのだから当然だ。
「そういや可愛いって評判のヒロインはどうだった?」
「きちんと可愛かったよ。一点ギャグに走ってたけどな」
「ほう」
「あのヒロインは自称体が硬い女なんだけどさ、抱き着いてくるシーンで伝わってくる感触が本当に岩みたいに固くてお前はゴーレムかって思わず突っ込んじゃったわ」
「ゴーレムは笑うわ」
VRRPGでは人に触れた感触を味わえるのが今や当たり前となっているが、その再現度は作品ごとに大きな差がある。
そんな中チープファンタジーは意図的に質が悪いとされる感触にして、ヒロインに「私体硬いんだよね」といったセリフを言わせていた。
つまりギャグに振り切ったのだ。
「ネタバレポイントも言っていい?」
「ああ、構わんよ」
「よし、じゃあ例のシーンについても語るわ」
「例のシーン?」
「ラスボスが人間を滅ぼすため、世界中に隕石を降らせるシーン」
「あっ、それはネットで話題になってたから知ってるわ」
「もう知ってたか」
「モニター上で見させられるんでしょ?」
「そうそう、VRRPG要素ぶん投げてコストカットしたのはすげーよ」
雨や雪のような環境効果を全身で体感できるのがVRRPGの醍醐味だ。
隕石の落下も同じような体験が求められる。
しかし、チープファンタジーは隕石が降るシーンをモニター越しで見せるだけという暴挙をやってのけたのだ。
「そういえばあのシーンに映ってたエロい女がラスボスなのか」
「そうだよ」
「ラスボス戦も硬い感触を味わわされるの?」
「いや、そういうのはないんだけど……」
「どうした?」
「あいつはマジで疲れた……」
「そんなに強かったのか?」
「いや、敵の攻撃をひたすら弾き返してブロック崩しするんだけどさ、崩したい部分になかなか当たらねぇんだわ!」
体を動かして戦うVRRPGで、全てのブロックが消えるまで武器を振るい弾き返すのは苦行というに他ならない。
さらに敵の攻撃をひたすら弾くだけという戦闘仕様が、VRRPGの醍醐味である本当に戦っているかのような没入感を奪っていた。
「ジャンルが変わってるじゃねーか!」
「ほんとだよ!」
チープファンタジーはクソゲーと言える部分も少なくはない。
しかし、ゲームとして面白いところはきちんと面白い。
さらに笑いどころがたくさんある。
それが彰人によるチープファンタジーの評価だった。
『ピコンッ!』
彰人のスマホに通知が届く。
「何の通知だ?」
「チープファンタジーのアプデ情報だ」
「へぇ、どんなアプデがされたんだ?」
「食事システムの追加だ」
「なんか普通だな」
「効果の大きい食事はウンコとゴキブリだけどな」
「うわーーー!やっぱバカだよこのゲーム!絶対買わねぇ!」
アップデートの情報を聞いた翔は、絶対買わないと一層心に決めたのだった。




