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第11話 ピラミッドの作り方2

 マアトカレが執務室に来てから1か月後に、ヘミウヌ叔父さんがピラミッド視察の準備が出来たと報告に来た。

 今回は、船でギザの港に到着した後は、歩いて移動することにした。

(大男の担ぐ神輿に乗るなんて罰ゲームは、もうやりたくないからな)俺は、それだけは事前にお願いしておいた。


(今回の視察では、ピラミッドの現状と試作通路、労働者の宿舎を見た後に、出来れば実際に労働者たちと話がしたいな)

 この世界で1年以上を過ごした俺は、少しずつわがままを出していこうと決めた。


 ピラミッド建築地のギザに到着した視察一行の先頭には、10名ほどの軍人たちが警備要員として先行していて、俺と同行している侍女のセネトの周りにも体格の良い軍人たちが多数配置されていた。

 すぐ横を歩いていた、ひときわ体格の良くて肌色の濃い軍人がセネトに頭を下げて話し出した。

「王の侍女様、今回も警備隊長を拝命しました」

(少し偉そうだけど、セネトの知り合いなのかな?)俺はヒョウ柄の毛皮を肩から下げた男の顔を見つめた。

 セネトは余り話したくないといった表情で、その男を紹介した。

「ネブイ(我が主)、この者は前回も視察の警備を担当していたカエムワセットです」

「余のために尽くせ」(セネトの知り合いではないなら、この程度でいいか)

「はっ、お声がけを頂き、ありがたき幸せにございます」

 警備隊長は周りの軍人たちに向けて『どうだ、俺はスゴイだろう!』といった顔を隠さずに、自慢げに下がっていった。

(これでも王としては声がけが多すぎるのか・・・)俺は、さじ加減の難しさに少し疲れを感じた。


 感覚的には1km程度の距離を歩いたころに、最初の視察場所の『試作通路』に到着した。

 その場所は、ピラミッド東側のすぐ横だったが、地下に作られているために見た目は、地下鉄の入口のような場所だった。


 現場に着くと、後ろからピラミッド技術主任のマアトカレが出てきた。

「王様、これがメル(ピラミッド)内部に作る通路の試作品で、実際の通路の長さの1/5です」

「この試作通路の目的は、実際の通路の方向を正確に南北に向けるための試験だったな?」俺は以前聞いた話を思い出していた。

「そのとおりです。今回は王様に見て欲しくて、メルの模型を準備しておきました」

 マアトカレが右手を上げると、技術班の部下たちが土台に乗った腰位の高さのピラミッドの断面模型を持って来た。

(4人で軽々と持ち歩けるってことは、石製じゃあないよな。太い木はすべて輸入品で高価なはずだし・・・)この模型の材料とコスパを考えていると、マアトカレが説明を始めた。

「これが王様のメルの断面の模型です。太陽に向かって昇る上昇通路は、今までに無い唯一無二の画期的な構造物です」とても自慢げに解説する。


挿絵(By みてみん)


「おいマアトカレ、俺の墓の位置を、こんなに堂々と屋外で見せて大丈夫なのか?」

 俺は、21世紀から来たので、全てのピラミッドは財宝やミイラが盗掘されて無くなったのを知っている。

「子供だって王の墓から盗みを働いたら死罪なのを知ってますから、心配いりません」

(この国の問題じゃなくて、国外の人間が徹底的な盗掘をするんだが・・・)未来の事については説明のしようが無いので、それ以上の追及は止めておいた。

 マアトカレは俺が納得したと勘違いして説明を続ける。

「メルの内部にある丘が、元々の地形です」

「この丘を利用して30段目位までを作るのだったな?」

「そうです。そして20段目のところにあるのが王の遺物(ミイラから取り出した脳や内臓)を祭る祭壇で、その上の大きな空間が棺を収める神聖な場所です」

(王の遺物の祭壇が後世の『女王の間』で、棺があるのが『王の間』だな)

「一番下の、地下にあるのは何だ?」未来では用途が謎の地下空間について設計者に聞いてみた。

「盗難を防ぐための偽墓です。これまでに作られたメルの王の墓は地下に作られているので、本物の墓と王の遺物への通路は厳重に複数の扉で隠しています。侵入者は、通路をまっすぐ降りるので偽物の墓に誘導されます」マアトカレは自慢そうに答えた。

(結局、5つも6つも作られた侵入防止の石壁は突破されるんだけれどな)これも話せない内容だ。

「真ん中に2つある大きな空間は何だ?」未来では『大回廊』と呼ばれる謎の空間の用途についても聞いてみた。

「よく聞いてくれました。これだけ大きな建造物は作られたことが無いので、傾斜路を使っても高い位置まで石材を持ち上げるのは大変な作業になる事が予想できます。そこで、南側から傾斜路を使って石材を持ち上げる時に使う重りを下げる設備です。最終的には石材でふさいで太陽に登る祭壇の一部になります」

(そうか、採石場と反対側にある『大回廊』の事を、石材を持ち上げる『エレベータ』のような機材だとする説が Wiki に書いてあったけれど間違いだな。傾斜路で石材を持ち上げる時に反対側に重りをつないで登りを楽にする『カウンターウエイト』だったんだ)

 俺は設計主任の言葉で、疑問が解消した思いがした。

 マアトカレは説明を続けた「そして、右下の四角で囲った部分が、これから案内する『試作通路』の部分です」


「王様の聖なる棺の位置は、入口から見て正確に北の星に向いている必要があります」

 マアトカレはそう言うと、地下鉄の入口のような場所の扉を開いた。

「この正面に見える下降通路の一番低い位置に、地上から垂直に掘り下げた穴が続いています。この穴に地上から重りの付いた紐を垂らして、反対側の出口部分から見える北の星を重ねると、通路全体が正確に北に向くことになります」

「この『試作通路』を平行に西に移動すると、メル内部の通路も正確に北に向くのだな?」俺はマアトカレに確認した。

「そのとおりです王様、素晴らしい理解力です!」専門家からの褒め言葉は、何度聞いてもうれしいものだった。


「ところで、外側から見ると『試作通路』内は明かりが見える。しかし、オイルランプにしては全く黒いススが見えないのだが、何か工夫をしているのかな?」

 俺は、今後のピラミッドの掘削作業で必要になる照明について、ここで聞いておいた。

「普通の家や神殿や王宮でもほとんどの場所では、安い動物からとった油を使ったオイルランプを使っているので、黒いススが出ます。しかし、亜麻など植物から取れた油はほとんどススが出ません。メルなど聖なる場所で使うランプは、さらにこの油に秘伝の量の塩を加えます」

「また秘伝を聞いてしまったが、そうすると無煙のランプが出来るのだな?」

「今までも石材内部を掘る時に使っていますが、聖なる建築物にススを付けたことはありません」マアトカレが誇りをもって胸を張りながら答えた。

(テレビの不思議を調べる番組が、ピラミッド内部にはススが見当たらないので、『デンデラ・ライト』って名前で古代エジプトには電球があったはずだと紹介していたけど、ススが出ないランプがあるなら、あれは嘘だな)俺は、またピラミッド建築の真実に近づけた気がした。


 2番目の視察地へは警備の大男たちを引き連れて、ピラミッドの傾斜路を歩いて登った。

 建築現場の上に立つと、現在の高さは20m位しかないが、横幅は230mと非常に広いので、砂漠の中に巨大な人工物の平面がある姿は現実離れして見えた。

「王様、あの真ん中に見えるのが、王の遺物を祭る祭壇の建築場所です」

(未来では『女王の間』と呼ばれる部屋は、丘の地面の下にあるんだな)マアトカレの説明で理解した。

 その先には採石場から石材を運ぶための傾斜路が作られていて、たくさんの石材が登ってくる姿が見えた。

「マアトカレ、俺の目には傾斜路を上ってくる石材は、全て人力に見えるのだが?」

「ええ、50段目位までは人だけでも簡単に持ち上がります。それ以上の高さに上げる時には反対側の重りが役に立ちます」

(1つの傾斜路には、連続して5~6個の石材が登って来ているから、1つの『カウンターウエイト』で本当に間に合うのかな)俺はちょっと心配になったが、将来の事は任せて黙っておくことにした。


 次の視察地は採石場だったが、到着するとマアトカレとセネトが何かを話し合っていた。

「王様、あまり時間が無いので、ここの見学は短めにします」技術主任はセネトに急かされているようだった。

「任せた」

 マアトカレは採石場所を示しながら説明を始めた。

「以前は『叩き出し』という石で出来たハンマーで叩いて採石する方法でしたが、スネフェル王の時代に私の父が効率の良い銅製のノミで叩いて切り出す方法に変更しました」

「ノコギリは使っていないのか?」

「王様、どうやって我が家の秘伝工具の『ノコギリ』について知ったのですか?」マアトカレは心底驚いた様子だった。

「それは悪かったな」

「内装用の黒い石(御影石)は白い石(石灰岩)のように銅製のノミではきれいに切り出せないので、ノコギリに砂を付けて採石しています」

「黒い石はアスワンから運んでいるのだな?」俺は以前の説明を思い出していた。

「そのとおりです。ここからアスワンはナイル川の上流で遠いですが、今度見学に行きますか?」

「見に行きたくなったら頼もう」

(採石方法が分かればいいので、遠慮しておこう)


挿絵(By みてみん)


 最後に、『労働者村』に向かう事になった。

 道の途中でマアトカレが『労働者村』の解説を始めた。

「この街は、聖なるナイル川に近い側が高貴な方の住宅で、反対側の建築現場に近い側が農民出の労働者の宿舎が並んでます。そして、区画ごとに区切られた住宅街の横には、食堂やパン屋、ビール工房に小物屋、金物屋などの商店街が広がります」

(古代エジプトには『碁盤』が無いから『碁盤の目』と言う表現は無かったんだな)俺は、大通りで区切られた街の全体像を想像した。

「今日は王様の指導で作られた労働者の宿舎を見学した後に、夕食時なので労働者たちの様子も見てもらいます」

 技術主任は、侍女のセネトの方を見てうなずいた。

(どうやら、セネトが何か企んでいるようだ)俺はこの後の視察が楽しくなってきた。


 ピラミッドから歩いて『労働者村』に入るには、石材で出来た大きな壁に作られた門を通らなければならなかった。この門には、常に2名の警備員が駐在して出入りを管理していた。

 完成すると王の墓になる、聖なるピラミッドの建築現場への立ち入りを厳重に管理するためだ。


「整列!」門の警備員が、クフの事よりも警備隊長の姿を認めると掛け声をかけた。

(末端の軍人は、王の顔など見たことがないだろうから仕方がないな)


挿絵(By みてみん)


 門を通ると、すぐ左手から労働者の宿舎が並んでいた。前回の視察の時と違って、3階建ての質素だが真新しい建物は、何となく映画で見た米軍の兵舎を感じさせた。

 マアトカレが右手を上げながら「宿舎は1本目の大通に10棟が並んでいます。1棟は10名用の部屋が10個あって2階建てなので200名が収容できます。同じものがこの先に30棟建築中なので、最終的には8,000名まで快適に暮らせます」

「この短時間で10軒の宿舎を作った建築士に褒美を出せないか?」俺はセネトに聞いてみた。

「全ての宿舎が完成した後なら、宰相様から何らかの褒賞を与えることが出来るでしょう」にこやかに答えた。

「マアトカレの指揮も素晴らしい」

「私は、この仕事を続けられるなら何もいりません」本気で技術主任は言い張った。

 俺は「余は満足だ」と言いながら笑った。


 労働者の宿舎の視察では、機能的に作られた空き部屋を実際に見る事が出来た。天井は低めだが前回見た宿舎の無駄に高い天井より落ち着ける空間になっていた。

「王様から教えてもらった『ユニット』にすることで、熟練工でなくても建物を作れるので10棟を並行して建築しました。室内は、10人分のベッドと家具が日干しレンガで作り付けで出来ていますが、建物が以前の半額の予算で出来たので、高価な寝具なども支給することにしたので、田舎から手ぶらで出てきた農民が不自由なく生活できて大変好評です」

 この時代は布がとても高価だとセネトから聞いたことを思い出す。何度も服や日用品に再利用して最後にミイラに使っていた。例えば、女性用のワンピース1枚の価値が労働者の半月分の給料と同じらしい。


 労働者用の宿舎の視察で満足している俺に、侍女のセネトが話しかけてきた。

「労働者たちの夕食の時間になりましたが、よろしければ様子を見に行きますか?」

「もちろんだ。調整してくれてありがとう」

(セネトが企んでいたのは、この事だったんだな)俺は気づいてしまった。


 建築現場には、まだ建築資材の石や日干し煉瓦の欠片が一杯残っていた。

「あっ!」セネトが何かにつまずいた。

 俺は自然に、セネトの手を取って宿舎地域を後にした。


あとがき


今回はピラミッド内部を掘り進めるための照明の話が出てきました。

オカルト界隈の方々は『ピラミッド内にはランプから必ず出るススが無いので、ランプ以外の照明が使われたはずだ。』と主張しているようです。

『デンデラ・ライト』と呼ばれる電球みたいな彫刻を見て、「古代エジプトには超古代文明があって、電球と発電所があった。クフのピラミッドはこの電球を使って作られたんだ!」と顔を真っ赤にして熱弁する人も存在すると聞きました。

しかし、この彫刻のある『デンデラ神殿』は紀元前50年ごろのローマ時代に作られたので、クフの時代(紀元前2570年頃)の2500年程も後の時代です。


もし、クフの時代に電球が作られていたのならば、

・古代エジプトでは、電球の製造に必要な、ガラス、フィラメント、端子部分の金属製のキャップ、絶縁体で包まれた導線、真空ポンプを作る材料も技術もない。

・電球を作れたとしても、発電設備がない。

・超古代文明か、異星人が電球と発電設備、配線を持って来たとしても部品が1つも発掘されていない。

と言った矛盾があります。


つまり、そう主張する方々に最大限妥協したシナリオは、

1 何百光年も彼方に住む異星人が、「地球でピラミッドを作っているから、照明を届けてあげよう」と思いつく。

2 異星人は自分たちの生活が困難になっても構わないから、莫大な予算と年月をかけて恒星間旅行が可能な宇宙船を建造する。

3 その宇宙船には電球と発電機だけを載せて、異星人は地球へ向けて旅立つ。

4 何百光年の距離を移動するためには、宇宙人の超科学力でも数百年を要するので、宇宙船内で数回の世代交代が行われて、「死ぬまでに地球に電球を届けられなくて残念じゃ」と言って亡くなる人が多数出る。

5 母星を旅経って数百年後に異星人はやっと地球にたどり着き、古代エジプト人が建築しているピラミッドへ電球と発電機を届けて喜ばれる。

6 20年程たってクフのピラミッドが出来上がったら、異星人たちは電球と発電機を回収して、また数百年かけて母星に帰っていく。

7 数百年後に母星に帰り着いた数代後の異星人は、母星が世界大戦で滅んでいた。

うーん、命を懸けた異星人の献身的な援助に、涙が出てきます。


この『デンデラ神殿』の彫刻は、当時の宇宙創造の物語の1節で、生命を創造する蓮の花(子宮のモチーフ?)を表しているという説が有力です。

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