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しかし一年の連載も後半になった頃、インタビュー中にかかってきたケイトからの電話で、私はアナの口から娘の話を聞くことになった。


「・・・ケイト!いい加減になさい!・・・よく考えて。もっとよく・・」


初めは冷静に話していたアナの口調がきつくなり、大きくなった声が別室の私のところまで届いた。機嫌の悪いアナが戻ってくると思い、私は身を固くして覚悟していた。その日のインタビューはまだ終わっていなかったのだ。


「ごめんなさいね、インタビューの途中で。」


アナは落ち着きを取り戻したように取り繕って部屋に入ってきた。


「いいえ、大丈夫です。まだ時間はありますから。」


私が何事もなかったように、インタビューの続きを始めようとすると、アナがため息交じりにゆっくりと話し始めた。


「ケイトは私の一人娘なの。結婚が早すぎたのかもしれないけど・・・一文無しの画家とタイに逃げたのよ。今はイギリスに帰ってきているけど・・まだその男と暮らしているの。それで結婚したいって言ってきて・・あの娘は気が違ってるのよ。馬鹿でしょ。後になって絶対に後悔するわ。」


アナが個人的なことを私に打ち明けてくれたことが少し嬉しかったが、私の想像できない世界に住んでいるアナの私生活に踏み込むのは怖かった。しかし私は既に知っていたゴシップを、初めて聞いた話のように受け取って、一般論としてケイトの幸せが大事だと言おうと返答してしまった。


「でも当人が幸せだったら・・結婚なんてただの紙切れですよ。」


私の不用意な発言に、アナは食って掛かるように反論した。


「何を言っているの!結婚は契約よ。そんな簡単なものじゃないわ。ケイトの資産があの男の物になるなんて。」


結婚することで莫大な財産が他人に渡るのだ。私とは住む世界が違うことをまた思い知らされた。私のような庶民の感覚ではないのだ。


「あの男は財産目当てかもしれないんだから。一文無しの男なんかと結婚するなんて自殺行為よ。」


アナを身近に感じた自分が阿保らしくなった。私はただそれ以上アナを怒らせないように、当たり障りなく会話を続け、インタビューの続きに戻っていった。あの時の緊張は今でもはっきりと思い出せる。


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