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「同僚にノートを見せたら、それが上司に渡って、気が付いたらデザイナーになっていた。毎日が目まぐるしくなったけど、デザインの仕事は楽しかった。でも結局、少ししか働けなかった。5年くらいかしら。」


私は二十年前に気まずくなった空気を思い出していた。結婚してデザイナーの仕事ができなくなったのは知っているが、気分を害さないようにその頃の話を聞き出さなければいけない。


「じゃあ、結婚の話を伺ってもいいですか?」


私は敢えて、仕事と結婚を切り離して、結婚のいきさつを聞くことにした。


「最初の夫は、私の家に代々出入りしていたお抱え医師の家の息子だった。リチャードも医者よ。私は末っ子なのに最初に結婚したの。親が決めた結婚よ。私を落ち着かせるためには一番いい方法だと思ったんでしょう。私がファッション業界なんて得体の知れない世界で働いていたから、両親は早く辞めさせたかったんでしょうね。リチャードの家柄もいいし、資産家だし、将来も安泰だった・・」


アナは両手を擦り合わせるような仕草をして、遠くを見るように話し続けた。私は彼女の指にもう指輪が一つもないことに目が行った。二十年前は結婚指輪だけでなく、大ぶりな宝石をデザインした指輪がいくつも白い手を飾っていた。


「リチャードは賢くてウィットに富んでいて洒落た人だったわ。すぐに友達になれた。一緒にいて楽しかったし、自然とそのまま結婚に流れて行った。親の決めた結婚だけど、強制されたわけじゃないし、私も納得して結婚したのよ。結婚して二年目にケイトも生まれて、仕事は続けられなかった。創作の時間なんて結婚したら持てなかった。」


やはり、最初の結婚の話からは仕事の話に流れてしまった。しかしアナの情緒は昂ることはなく落ち着いていた。静かに、他人事のように話し続けた。二十年前の動揺は何処にもなかった。


「仕方ないわ。自分の家を守らなければならないんだもの。デザインの仕事は無理よ。普通の仕事でもないし。芸術家なんて毎日同じ生活を繰り返していたら枯渇してしまうわ。」


諦めたように話すアナは繰り返して言う。


「結婚はそういうものよ。毎日守っていくものなのよ。」


アナは寂しそうにも見えて、私はもっとアナの心情を理解したかった。が、突然アナは私の話を始めた。


「エマ、私、気になっていたの。あなたがご主人の帰国のために一緒に日本に帰るって言っていたから。あなたはイギリスでキャリアを積んでいたのに。」

「私のキャリアなんて、そんな大したものではないですよ。」

「私ができなかったことをあなたに期待していたのかもしれないわね。でもあなたが夫を愛しているから一緒に帰ると言ったでしょ。それが気にかかって。」


「ええもちろん、愛してましたよ。とっても・・・」


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