第6話 やっぱり脱走しよう
しかしまあ、アレだ。
ここまで分かれば……脱走する事に最早躊躇はないな。
本来なら私だけコッソリ出る事も容易だが今回は少し派手になってもいいのでここに居る全員に脱走出来るチャンスを与えてしまおう。
もちろんどうするかは本人が決めれば良いし、脱走した後の面倒なんてのは私は一切見ない。
それでもこの時、この場所では彼ら彼女らにほんのちょっとだけ邪神おじさんがお節介を焼かせてもらおうか!
いくよ、邪神パワ~~~メイクア~~~ップ!
私は金髪美人さんからは見えないように小さく指をパチンとならした。
そして次の瞬間、にわかに幾つもの牢屋から声が上がる。
「……へ? うっ腕が元に!?」
「切り落とされた足が生えた!?」
「封印の魔法が……解かれたの?」
「おいっ拘束具が解けてるぞ!」
「え? 何が起きてるの?」
「さあ? 私にはさっぱり…」
金髪美人さんも異変を察知。
私はそれとなく分かりませんアピールをしておく。
そして次に牢屋の鍵が開いて入り口が独りでにバーンと開いた。
「かっ鍵が開いた!?」
「本当にどうなってんだ!?」
「これは…神の奇跡なの!?」
神は神でも邪神ですけどね。
「何やら鍵が勝手に開いていますね」
「そ、そうだけどまさか本気で逃げる気なの? こんなの何かの罠の可能性も…」
「どのみちここにいても未来は無さそうなので、私は自らの力で生き残れる可能性に賭けます」
「………!」
見ると他の囚人も次々と牢屋から脱走している。
私が出ると金髪美人さんも牢屋から出て来た。
さてっそれでは大脱走を始めるとしますか。
「なっ何故囚人たちが牢屋ばがぁっ!」
「だっ脱走! 脱走だぁあーーー!」
私を強姦魔に仕立て上げようとした外道な兵士たちが脱走した囚人のみなさんに締め上げられたりぶっ飛ばされている。
集団での脱走故に一塊になって移動する我々だ、私は後方からその様子を見ているのだが端から見るだけでも心がスッとする光景だ。
と言うか兵士たち弱い。
いやっここに囚われていた囚人が強いと言うのが正しいのか。
とにかく武装した兵士と碌な装備もなち脱走者たちの戦いは脱走者たちによる一方的な展開となっていた。
倒された兵士から装備や懐にあった財布と思われる小袋を奪う脱走者も見受けられる。
みんな本気で脱走する気満々か、悪くないね。
一度捕まって地獄を見た為か、二度あそこには戻りたくないからだろう。
脱走者たちの纏う覇気と迫力は相当なものだった、兵士たちなど幾ら束になっても適わないよアレは。
義賊の青年は一瞬で兵士の懐に入り込むとみぞおちに蹴りをお見舞いしていた。
女性魔導師は杖も魔導書もないのにバンバン炎やら雷の攻撃魔法を連発して兵士を吹き飛ばしている。
壮年の男性騎士は奪った剣で三人の兵士をまとめて切り伏せていた。
どの人も全力で無双ゲームを体現している。
ここは邪神おじさんも無双してしまおうか……やめとこ、ここで目立つと後々何か余計な面倒事のフラグを立てそうな予感がする。
「くそっ! どうしてこんな事に…」
「おいっせめてあの女だけでもやらないと俺たち全員の首が飛ぶぞ!」
「ああっあの女だけは仕留めるんだ!」
何やら物騒な会話が聞こえてきたと思ったら、離れた所にいた兵士がこちらの方に目をバッキバキにして突撃してきた。
私の後ろにいる人間なんて金髪美人さんだけである。
どう考えても私じゃなくて彼女を狙ってるんだろうな。
と言うか、あの突撃してくる先頭の兵士、私を牢屋に放り込んだ兵士だろ。
一番多く見回りしてきて一番多く私に舌打ちをしてきた兵士だ。
更には食事になんか混ぜて私を無理矢理にでも強姦魔にしようとした件の発案者、つまり張本人である。
……なんかコイツらの好きにさせるのは邪神おじさんでも癪にさわるな。
ちょっとお仕置きを、と考えていたら私の前に金髪美人さんが飛び出した。
「貴様らの狙いは私でしょうが、素直にやられるだなんて思わない事ね…『エアロバースト』!」
金髪美人さん、そう言えば魔法の腕に覚えありって人だったね。
彼女が放った風の塊が突撃兵士たちをみんなまとめてぶっ飛ばして石造りの壁に叩きつける。
圧倒的だ、流石は魔法である。
やっぱりファンタジーと魔法は強いんだね。
その事実に胸が熱くなるのを感じる。
おじさんでもさ、そう言うのに憧れを持っていた時代があったからさ…。
そして兵士を瞬殺した金髪美人さんは倒した雑魚には目もくれず一目散にダッシュで走り去る、クールだね。
一方の私は……
「くっくそ……なんで俺たちがこんな目に……」
「せいや!」
「ぐはっ!?」
人を強姦魔に仕立て上げようとしといて何を善人か何かみたいな物言いしてんの?
キモいよ三下悪党兵士。
私はまだ意識があったあの兵士の顔面に少し助走をつけて蹴りを入れた。
丁度蹴りやすい位置にあったものでね。




