第51話 イゼルの視点にて
「う、うわ~アビトさん、悪党には一切容赦しないタチなんですかね? 石像にして粉々とかかなり強い殺意を感じます」
「ええっ素晴らしいですね」
「どこがッスか? てかあの人、魂をなんか吸収してるみたいなんですけど大丈夫なんですか? 悪党の魂を吸収し過ぎてアビトさんまで悪党になったりしたら洒落にならないですよ?」
わたくしの近くで小さな精霊が下らない事を言っていますが無視です。
我が主は邪神です、元から悪の化身なのですから変わり様がありませんのに何を言ってるのやら。
私は魔眼鏡を用いて我が主の様子をずっと見てきました。
そうっ全てはこの為だったのですね。
最初に人間に捕まった時も何故人間も皆殺しにしなかったのか分からなかった。
人間と蜥蜴人との戦争にわざわざ介入し、それを止めようとする理由も分からなかった。
何故なら我が主は邪神、即ち神。
神とは世界を所有する存在、或いはその権利を有する超越存在の総称。
我が主に召喚された時点である程度の情報が召喚された側には与えられます、それ故にわたくしが仕える存在がその様な方だと知ってその召喚に応じたんです。
何故なら世界を持たぬ神は持っている神から奪い、その世界を自らの理想する世界にするために一度滅ぼすのです。
我が主と共にいればこの長い時を退屈で持て余していたわたくしの生にも生き甲斐を得られるかもと思ったから召喚に応じました。
それなのに我が主はそんな事をしないとわたくしを召喚して早々に言った。
まるで自らはそんな事をする神ではないと言わんばかりに。
疑問はあった、しかし主従契約である以上はその言葉にしたがった。
我が主には何度とも驚かされた。
最初に目にした黒き太陽のような姿と底知れぬ力に。
そして……何故かいきなり自らの分身を生み出したかと思うとそれが単なる人間だったことにも。
中年過ぎの人間の男。
何故そんな者に姿を変えたのか、全く分からなかった。
「確か、貴女はエルトゼーレと言いましたね?」
「エルで良いッス」
「分かりました、エル。ご主人様は……全てを理解しておられたのです」
「………………はぁ~?」
その間抜けな顔を今すぐ辞めなさい。
「わたくしは最初、ご主人様は人間と蜥蜴人の戦争でも眺めるつもりなのかと思っていました」
「まあ確かに、アビトさんの力なら力ずくでどうとでも決着をつけられましたからね~」
「ええっそれなのにわざわざ裏に回るような仕事だけをし、そして事が起きるのを待った。これには理由があったのです」
「理由ッスか?」
「そうです、ご主人様は……あのブリゲインと言う人間とその部下たちの悪業を重ねさせていたんです」
「かっ悪業?」
そうです、悪業とはそのまま世界に生きる者たちが背負う罪と業の事。
人間やその他の種族が作った法律などの抜け穴から逃れ、罰せられなかった者も世界の判決からは逃れられない。
そう言う命には悪業が重ねられ、多すぎる悪業を背負った魂は死後に悪魔がいる地獄や煉獄に落とされ無限の苦痛を与えられるのです。
その悪業は当人が事を起こした時点だけでなくその結果がより多くの事件や災害となった場合には更に重ねられます。
「つ、つまり……」
「ふふふふ……ええっ本来あのブリゲインはコソ泥と強盗殺人をした犯罪者でしが、一度完全に戦争事態は本当に起こったのでその瞬間にそれまでとは比較にならない悪業があの人間には重ねられたのです!」
「まさかアビトさんは……」
「ええっあのブリゲインの魂を収穫する前に肥らせたのです、ご主人様は悪業を重ねた魂からより多くの糧を得ることが出来る存在ですので……更に数人ずつ消していきブリゲインの恐怖と絶望までも引き上げて魂を収穫する。あれはまさに嘆きの魂と呼ぶに相応しい魂でしたね」
召喚された時に与えられた知識にそうありました。
それらを総合した結果、辿り着いたこの結論。
間違いありません。
「戦争を直ぐに止めたのも新たな火種は別に残して新たな糧となる生贄をいつでも準備する為に違いありません」
「そんな……アビトさん……」
我が主は確実に力を取り戻すつもりです。
やはりあの方と契約をした選択は間違いなかった。
我が主はいずれイムグランデを手中に収めるつもりなのは間違いでしょう。
正に全ての悪辣を弄ぶ者。
素晴らしい、心より崇拝しますよ我が主よ。
いつもはのほほんとしょぼくれたおじさん然していますが、その実は悪逆非道の大邪神としてこの世界を滅ぼす気概に満ち満ちているお方なのですね!




