第36話 おじさん頑張る
ミーレインは更に魔法を連発して騎士や兵士たちの下半身を次々と氷付けにしていった。
屋内と言う事もあり回りを巻き込んで破壊するような魔法は使わないようにしているんだろう。
しかし元騎士ことドルフの対戦相手は氷付けにされた所をドルフの顔面パンチで倒されるという結果になってしまった。
もう少しだけ過去の会話とか聞いてみたかった。
それにしてもみんな強いね、流石はあの牢屋の兵士相手に素手で無双していた脱走囚たちだ。
ちなみにこの中で一番弱そうな邪神おじさんだが…。
「くそっなんてヤツらをだ!」
「こうなったらあの弱そうなおっさんだけでもやるぞ!」
「ああっ一人だけでも始末してやる」
「人質くらいにはなるか?」
「ならねぇよ、ただのおっさんだぞ!」
普通に狙われております。
そして酷い言葉を言われております。
なんで初対面の人にそこまで好き放題に言えるの君たちさ、そりゃそっちは基本的に若くてイケメン寄りの顔立ちしてるけど。
なんかムカついてきた。
だから邪神おじさんも少しだけ頑張って戦う事にした。
「それでは私が相手をしましょう」
「あのおっさん戦えるのか?」
「どうなのかしら……」
バレットとミーレインの呟きが聞こえた気がした。
無視した。
コホン、少し前に私はローブやら杖を処分した。
しかしこの街だ買ったあのロングソードだけは邪神本体があるあの真っ白な空間、つまりは世界の外に置いてきていたのだ。
それを念じて手元に呼び寄せる。
私の右手にロングソードが出現した。
正直もう使う事もないかもと思っていたロングソード。
異世界のお土産品的な物として世界の外に置いておくつもりだった。
しかし再び、その刃に脚光が当たる時だ!
行くぞ!
「なっ!? 剣が突然現れたわ、まさか彼も空間魔法を!?」
無視。
私はロングソードを手にして騎士やら兵士たちと対峙した。
「お前みたいな鈍間そうなヤツに攻撃などさせるか!」
「本当に鈍間かどうかは戦って見ないと分かりませんよ?」
余裕をかます兵士、私はそいつとの距離を一気に縮めた。
兵士は驚き過ぎて動きが完全に止まる。
私はスピードに乗ったままロングソードの腹部分を兵士の顔面をお見舞いしてやった。
先ずは一人だ。
「コイツ……結構やるぞ!?」
それはね、このおじさんボディは邪神特製のハイスペックボディだからだよ。
邪神デバフによって全ステータスがダウンしてるとは言え君たちにはまだまだ負けませんよ?
邪神デバフを解除したらまた『狂剣の戦姫』みたいなのが現れそうなので未だにデバフしっぱなしの私だ。
同じ理由で邪神スキルも封印中。
あのダサいブラック仮面を付けるタイミングを逸したので仕方ないからロングソードでちまちま対峙してあげるよ。
今度は三人で槍を手にし襲い掛かってきた兵士たち。
私はハイスペックな胴体視力で迫って来た槍を順番に躱しその先端近くの木製の部分を切り槍の刃の部分を落とす。
同時攻撃とか慣れていないのか。
それならまだ対処に困ったのに。
まあいいか、兵士の武器を無力化した後はお腹に蹴りでも入れれば壁に吹っ飛んでいくので対処完了。
次は騎士が来る。
下手に攻撃してこないな、ならばとこちらから接近すると間合いに近付いた瞬間一気に加速して槍で突きを放ってきた。
…まあ普通に見えるので避ける。
ロングソードの腹部分で鎧兜をゴインと打っ叩くと騎士はそのまま気絶した。
「ははははっ! なんだよおっさんあんためちゃくちゃやるじゃないか、てっきりあの女のお荷物かなんかだと思ってたわ!」
相変わらず失礼な物言いをする義賊のバレットだ。
まあ少しは慣れたので流す。
「技術があるわけじゃありません、何となくですよ」
「何となくで騎士や兵士をそこまで圧倒出来りゃ、そりゃ天才だ」
「私に才能の類はないですよ」
(む~~私の出番がないッス! アビトさん程よくピンチとかにならないッスか?)
(……なりたくないね)
そんな軽口を叩きつつ我々はハロルドを追った。
道中も騎士や兵士が現れるが一塊ならミーレインの魔法で、散けて現れれば各個撃破で戦闘は問題なく終了した。