第32話 脱走囚は人が良い
て言うかエルは姿を隠してるから分かるけどイゼルも私に小声で話しかけてなんで気付かれないの?
現れた人には見覚えがある、もっとも一方的にこちらが知ってる手合いだけど。
邪神スキルで潰された腕を再生させた義賊とか手枷を外した奥さんをネトラレた騎士とかがいた。
もっとも騎士の男性はその素性を私が勝手にマインドスキャンしちゃったから知ってるだけで今は騎士の鎧とかは装備してもいない。
ただ脱走の時に兵士を両断した剣はしっかり装備されていて怖っと思った。
「ガルベス、その二人は誰なんだ?」
義賊が私とイゼルを見て口を開く、エルは見えていないので二人だと勘違いをしている。
するともう一人の騎士の男性が呟いた。
「……いやっ男の方は脱走の時に確かにいたぞ、見覚えがある」
騎士の男性の言葉に他にも数名同意する声が上がる。
単なる空気モブのつもりだったけど案外記憶されてるものなんだな。
「どうやらミーレインの言ってた事は本当らしいな、なんでアンタはウリーズゲルドを出なかったんだ?」
「最初は単に路銀がなくて…そしてその都合がついたら蜥蜴人との戦争とやらで出られなくなってしまったんです」
路銀云々はウソ、蜥蜴人云々の方は本当の事を言った。
何でもバレ難いウソってウソと本当が混ざってるものらしいからね。
後々私がやることを考えると下手に本当の事を話すと面倒くさい事になりかねない。
だからこんな所でも慎重になる。
「そうか、あの牢屋に捕まった事といいアンタも苦労してんだな…」
「それで、何故私たちはここに連れて来られたんですか?」
「まあそこはミーレインの独断専行なんだが……おいっミーレイン、この二人を巻き込むと分かってて何で連れて来たんだ?」
「だっだからあのまま放置していたら兵士に捕まっていたと思ったからです!」
「って言うかおっさん、何で捕まってたんだ?」
「よせ……人には話したくない事も色々とあるんだ」
そして脱走囚の集まりと思われる彼ら彼女らは口々に話し始める。
ちょっと場の収拾がつかなくなって来たので困っているとガルベスが口を開く。
「お前ら少し静かにしろっ! すまないな、何分コイツらは腕は確かなんだがまとまりが無くてよ…」
「構いません、それと何故皆さんもまだこの街に? てっきり協力して隣国にでも逃亡しているのだとばかり思っていました…」
「脱走したヤツらの半分以上はそうしたさ、ここに縁もゆかりもないんだから当たり前だな……その辺りについても話すか」
「お願いします」
ガルベス曰く。
ここに集まったのはこのウリーズゲルドが故郷、あるいはこの街で長年生活していた一団らしい。
その他は脱走したその日にこの街を後にして音信不通とのこと。
彼らにしても最初はほとぼりが冷めるまでは国を出るつもりだった。
しかしそこに来て蜥蜴人との戦争が起きる。
普通ならそんなのどうしょうもないと見捨てそうなものだが彼らは違った。
何とか街の人間を救えないかと今もこの街から出ないでいるらしい。
街が襲われれば住民の避難や護衛。
いざとなれば領主を引きずり出して蜥蜴人と交渉するなんて意見もあるとか。
捕まってた時から悪い人たちではないと分かってはいたが、本当にお人好しなのか或いは蛮勇というか…。
「俺たちとしては領主を説得して蜥蜴人への謝罪と破壊した関所への賠償金を出させるつもりだ」
「………そんなに上手くいきますか?」
「ハロルド次第だが、ヤツの近頃の行動を見ると自発的に街の住人を守るとは思えない。だから首根っこを押さえて無理矢理そうさせるってのが俺たちの計画だな」
保身ばかりで人望もない領主でも権力者なのは変わらない。
下手をすると領主の兵士と戦う事になる訳で…。
その先は………。
う~んないな。