第29話 個神なら……
「私が心配なのはウリーズゲルドの人々とスケイルノートの蜥蜴人たちですよ、皆ブリゲインとか言うのに踊らされて命懸けで戦わされてるって話じゃないですか」
「まあそんなヤツに騙される人間を上に据えた以上は下の人間にも被害が振ってくる的な? 蜥蜴人は……完全に巻き込まれ事故って所か?」
蜥蜴人が巻き込まれ過ぎていて不憫だよ。
それに人間の方だって上の無能で下に被害が振ってくるとか納得出来ない。
権力を持つ人間はいざって時に責任を取るから日頃良い生活を送る事や偉そうに威張る事が黙認されてる筈なのに。
上の大失敗の代償を下の人間だけに払わせるとか端から見てるだけの私でもちょっとふざけないでくれますかってなる。
多分前線で戦わされる人間はそんな事を知る由もないんだろうしね。
「どうにか出来ないもんですかね…」
「アビトさん何を馬鹿な事を言ってるんッスか? 戦争なんていち個人がどうにかして止める事が出来るもんじゃないッスよ?」
「起こすのは僅かな馬鹿共の軋轢とか損得勘定だけどな!」
やかましいよ、余計な茶々を入れないでくれ。
こっちは割と真面目に何とか出来ないかと考えてるんだからさ…。
邪神はこんなおじさんでも神様だ、普通は出来ない事も出来る。
個人じゃ無理でも個神なら何とかワンチャンいけないか?
う~~ん。
むむ~~ん。
……ドーンとやって黙らせればいけるかな?
「……多分何とか出来ますね」
「………マジで言ってんの?」
「はぁっアビトさん……」
何故かエルに心底呆れられているんだろう。
地味に邪神おじさんはショック。
そしてクイラは驚きで固まっている。
「まあ聞いて下さい、人間にしても蜥蜴人にしても戦争なんてするのはそもそもそれが出来る環境にいると考えてるから問題なんです」
「「………………」」
二人が顔を見合わせた。
まあ私もそんな頭が良いわけじゃないので、思いつきで立てた作戦のイメージを出来るだけシンプルに伝えた。
話を聞いた二人がそれぞれ納得した表情を浮かべる。
「成る程ッス…確かにそんな事になればお互いに争ってる場合じゃなくなるッス…」
「むしろそれでも戦争をやろうとしたら流石に部下に後ろから刺されるだろうな」
「そうでしょう?」
「……しかし良いのか? そんな真似が仮にお前に可能だとして、それをしたら噂だけでも広がればお前の身にも色々と面倒事が起こるぞ?」
「ええまあ……多分何とかなるでしょ」
その辺りは実際に事が成ってから考えよう。
取らぬ狸のなんとやらだ。
結局成るようにしかならないのが世の中だ……けど。
力ずくでも出る結果だけは決めさせてもらう。
戦争とかね、救いようのない馬鹿共がする事だよ。
やりたいならソイツらだけで殺し合って勝手に死んで消えてくれ。
私は何故か当たり前のようについてくるエルを伴ってウリーズゲルドに戻るとしよう。
ここからは邪神おじさんの邪神ムーブの予感がするね。
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